Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

抑圧と抵抗

大事な予定を全く忘れてしまう事がある。
勿論様々な事が立て込んでいるから、連絡が取れないこともある。
それを回避すべく計画を立てて動くのだが、10・11月は難しい。
何をきっかけに忘却が始まるか、薄々は見当はついているものの、
煩雑な日常のせいなのか、年を取ってきたせいでの物忘れなのか、
何らかの抵抗から、見えなくなったり聞こえなくなったりするのか。


大事なもの全くを忘れてしまう事がある。
よくわかっているはずのものなのに、わからなくなってしまうのは何故?
普段通っている道、何度も乗っている電車、当たり前の場所、
なのに、迷い間違え乗り過ごし降りそびれ、ここは何処状態。
自分から見えない何かに導かれるように、忘れてしまった状態。
普通に見聞きし動いているように見えて、何かが欠落している。


時々思う。人生よくあることなのか。エアポケットのようなものなのか。
乱気流に巻き込まれただけなのか。目に見えない流砂に呑まれたのか。
ちょっとした陥穽、落とし穴、つまづきで、済むものなのか。
取り返しの付かない失敗、するはずがないと思っていた失策、
そんな馬鹿なという失態、どうしてそうなったのかわからない状態、
連絡ミス? 繋がらない? 頭と心と体の断線が、ショートが、
見えるものを見せず、聞こえるものを聞き取らせない。

身体が「ノー」と言うとき―抑圧された感情の代価

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痛みと身体の心理学 新潮選書

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闇からの記憶が復活するようなフラッシュバックや、
本当は話したくなかったり知りたく無かった記憶の抹消を、
速やかに行うはずの脳が、(それは私の現実の生活を守るように見えて、
邪魔をしているとしか思えないのだが)
上手に錯覚を利用して削除しかけた今日。
無意識からのアプローチ。それは成功するはずだったのに、
帰宅間際まで仕事に追われて車の中、削除に失敗。
現実に足場を持つ私自身に気付かれてしまう。
私は訝る。本来あったはずの今日の予定が、
どうして削除されていたのか・・・。


私はいつも感じていた。プレッシャーから来る抑圧と抵抗を。
研修や勉強、実験や体験、そういう言葉の陰に隠して守ろうとしても
守りきれないはみ出す物が、自分をひたひたと脅かし続けている、
侵し続けていることを。境界線を越えて、気力や記憶のカケラを
波が砂浜を削るように消し去っていくことを。


それは自然の欲求なのか。当然の成り行きなのか。予定の行動なのか。
理性が取ろうとしている当たり前の予定を、仕事を、感覚を
どうして拭い去ろうとしているのか、薄々感づきながらも、
その気配を察していながらも、どうすることもできない。
丹念に周到に「ついうっかり」という仮面の下で闇に葬られる
私の今までの努力、積み上げて来たもの、創り上げて来たもの。


どうして認知が歪むのか、記憶がすり替えられるのか、
理屈ではわかっていながら、その場では認識できない。
沢山のトランプのカードの中で、何枚もの絵柄が
巧妙に入れ替わるように「今日のカード」を奪っていく。
私が主役だったはずの、責任を負うべき席を、役目を、使命を、
愛情や友情までも、「いつのまにか」という言葉で消し去ろうとする。


消去することで守ろうとするものが、それほどまでに大きいのか。
巧妙な隠れたカリキュラムで、自分の心を構築し、
虚ろな空洞を抱えたまま、カラクリ人形のように自分自身を操ろうとする脳。
私の知らない所で、緻密に組み立てられた破壊や終末や消却への欲望が、
転身譜をなぞるように、変転・組み換え・置き換え・焼き直し、
元の姿を一瞬垣間見せて、あやふやの海へ沈めてしまう。


私の積み上げて来た勉強の予定は、その成果を発揮すべき今日
身動きが取れない状態で、キャンセルされた。
「うっかり」という名の強烈な抵抗にあって。
予定がどんどん組み込まれ、書類が回り、処理に終われ、時間を忘れ、
予定が把握できて現状認識できるときには、連絡手段を取っても
取り返しの付かない時間帯までに追いこまれている。
こんなことってあるだろうか、こんなことって。
ここ何ヶ月も準備して心積もりしてきたことは、何だったのか。



・・・それは単なる反動なのか。それとも、揺り返し?
持ち越した課題。処理し切れなかった内容。
話した後は話したくなくなるように、うんざりした経験が、
感じ取ったた後は、感覚を遮蔽する防衛本能が、
焼け付くように苛立ち、胃が痛むほど吐き気がし、
緊張していることを気取られてはならぬと思えば思うほど、
自分が追い詰められていくような感覚を、
避けている自分自身を、誰よりもよく知っている。
自分の中の無意識の為せる業を。


そして、スイッチは入れられる。
気が付けば通り過ぎていた降りるべき駅、読むべき本、書類。
持参、点検すべきもの、書くべき文字、数字。掛けるべき言葉。
取るべき行動の全てから注意深く遠ざかろうとする、
悪意にも似た抑圧、隠蔽工作にも似た忘却、
近付かずに自分を守ろうとする「従来のやり方」
「過去からの復讐」「過覚醒への反動」「在りのままの自分」
次第に人間の形をしているひっくり返ったおもちゃ箱状態の、
静かな混乱のまま存在している自分。


自分をコントロールできる、制御できる、
予定を守って、できる範囲内で行動していると信じていた事が
あっさりと自分自身に裏切られて、足を引っ張られて
できない・わからない・見通しの立たない状況に。
この退却症候群のくり返しをどうすればいいのか。


何かが見えてきた、と思ったら自分から目を塞ぐ。
何かが摑めてきた、と思ったら自分から手を離す。
何かがわかってきた、と思ったら自分から忘れる。
まるで辿ってきた足跡を消していくよう。
狐狩りに出かける猟師は、狐に追われる立場になる。
そして、もう森へなんか行かない。木を見て森を見ず状態。
樹海へ迷い込んでしまったよう。


無意識に消却されようとする私は叫ぶ、
心の中に取り残された、離れ小島のような意識の上で
自分が望む自分であろうとする部分が、悲鳴を上げる。
相克。私の中の、私と私。葛藤。
抑圧、抵抗。
ブラウン運動が止まってしまうかのような、凍結。
枯渇する思念エネルギー。
空白。

「識字」の構造―思考を抑圧する文字文化

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影の現象学 (講談社学術文庫)

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