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Sweeney Todd (ネタバレあり)

スウィーニー・トッド』何だか言いにくい奇妙な名前。
『フリート街の悪魔の理髪師』の副題を持つ映画、
ジョニー・デップティム・バートンの2人らしい作品、
スプラッタなミュージカルとしても楽しめる逸品、
久々に夜のレディス・デーで堪能してきた。


あまりに周囲の評判がよろしくないので? と思ったのだが、
やはりジョニー・デップに何かある種のイメージを抱いていると、
期待外れだと感じだり、こんな役なの? と思ったりするのだろうか。
私にしてみれば2人の作る作品だから、当然こんな感じ、こんな色彩、
こんなトーン、こういう結末になるわけねという印象が強くて、
妥当なラインだったのだけれど。


15R指定になっているけれど、ハリポタファンには嬉しいサービスというか、
スネイプ先生役のアラン・リックマン、今回は『パフューム』の父親役とは
うって変わって人の女性に手を出す白髪の悪役。
ネズミアニメーガスのティモシー・スポール、相変わらず不細工。
チャーリーとチョコレート工場の秘密』でもチラリと出ていた、
シリウス・ブラックを葬ったベアトリクス役のヘレナ・ボナム・カーター
それぞれに濃い3人が出ていたので、隠れハリポタか裏ハリポタの様相。


それはさておき、私には面白かった。
冒頭から歌い出される予告の中に込められた、意味深な一節。
YOU WILL LEARN そしてあなたは知るだろう
・・・世間というものを学ぶことになるだろう。
まあ、目の前の若者に対して歌っているシーンではあるけれど、
観客にも歌っているわけだから、ね。
知ることになるだろう、これからの悲惨な顛末。
そして主人公は復讐を思い知らせるべき相手にも、
登場人物全てにも、勿論、自分自身にも語りかけるように歌う。


そしてあなたは知ることになる。全てを。これから起こること。
あなたは思い知ることになる。苦い経験を更に上塗りするかのように、
苦しい思いを更に厚く塗り重ねて、思い知らされることになる。
デップの陰惨な表情とは裏腹に、思いのほか上手い歌。
ストーリーが進むにつれ、因果の糸車が回り、
さらりとはめ込まれた言葉の意味したものが
輪唱の様に後から響いてくること! 効いてくること!

Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street

Sweeney Todd: The Demon Barber of Fleet Street


思惑通りに事は運ばず、娘の輝く金髪を見ることも叶わず、
最愛の妻のなれの果てを、己が手に掛ける羽目に。
悲惨な復讐譚の哀しいラストシーン。
愛を無残に奪われ断ち切られた者が、命を断ち切る側に回る負の連鎖、
まるで虐待の連鎖のように。そして、人を呪わば穴二つ。
最愛の妻を殺める「きっかけ」を作った者を生きながら焼き、
もはや枯れ果てた涙の代わりに、自分が流す血の海に染まって
黄泉路を辿る主人公。


このシーンをスプラッタというか、極上のB級映画とみなすか、
それは人の好き好きだと思うけれど、
血みどろで気分が悪いというものでもない。
おかしな言い方になるが、スクリーン上に展開される
公の席でのリスト・カットのような気がしてならない。
それもわざわざ見えるように切る。気が付いて貰いたい裏返しに切る。
切ることで、生きている実感を辛うじて得る。


報われない自分自身を殺し続けることでしか、生きられない。
血の色、殺す瞬間、狂気の生というものは、真逆の価値に支えられる。
そういう絶望は幻想の生を賛美し謳う。主人公は思い出に浸る。
現実を憎み恨む。交互に歌われるメロディーが、その雰囲気を
否が応にも盛り上げていく。ストーリーはグロな色彩に彩られ、
ミュージカルとしては、正当な仕上がり。
危ういバランスの上で作られているなあと思う。


当時のロンドンの雰囲気、下町、セット、カメラアングル、良かった。
デップの白い顔も『シザーハンズ』でお馴染み。
若手の子供達の甲高い細い声も、主役達の低く太い声を際立たせていた。
ミュージカルの視点から言えば『ダンサー・イン・ザ・ダーク』の
陰惨スプラッタ版。主人公が男性か女性かの違い。
苦しければ苦しいほど幻想の世界を夢見て逃避する、そのシーンが、
ダンスになっているか、滑稽な海辺のシーンになっているかの違い。

ダンサー・イン・ザ・ダーク [DVD]

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・・・思うに、この手の映画や粗筋が苦手な人というのは、
敢えて言わせて貰えばだが、人を殺してしまいたい程の怒りや恨み、
自分を消し去ってしまいたい程の自己嫌悪の嵐、
報われぬことへの怨嗟、呪い、神や仏も信じられなくなる程の絶望、
そういう激情を経験した事が無いか、見つめる力が育っていないのだろう。
自分の身のうちに認めたくなくとも、そのような激しいものを見出す事が
可能ならば・・・、たとえ、それが狂気に彩られていようとも、
その価値観に裏打ちされた陰惨な思いに共鳴できる部分があるはず。


自分を見出すか、自分が認めたくないシャドウを見出すか、
両方見出すかは人それぞれだと思う。
恋する余り、自分に有利に事を運ぼうとする哀れな女心、
人を食いものにして生きるのが当たり前の世間、
即物的に人肉パイにしたからとて、比喩か実行かの違い。
人の心の中で禍々しい事件はいつも起きているし、
それを理性で統御し、意識下に消し去り、
自分を「まとも」に見せるという芸当も、また世渡りのテクニック。


うぶである事、純粋無垢、可憐、貞淑、この上も無い美しさ、されど、
無知で自分を守る術(すべ)を知らないことは、大いなる悪で罪。
意図せずして姦淫を招き寄せ、望まずして堕落する。
理髪師は嬉々として仕事をし、刃は煌き、死体は奈落へ、
オーブンの業火で焼かれて、世間の人の食欲を満たし・・・。
素晴らしい負の連鎖。金と黒、白と赤。


たいそう象徴的な仕上がりの映画。未来を若者に託すという展開よりも、
籠から出た鳥が飛び方を知らず、自由を味わうこともできず、
「悪夢しか見られない」と船乗りに告げる場面も意味深。
そう、全ては学ばねばならぬ。経験せねばならぬ。
何もかも一から。そしてあなたは知るだろう。


映画の中で最も印象的だった言葉。YOU WILL LEARNの世界。

(ちなみ、にちゃんとした歌詞を知りたい方はこちらへ

スウィーニィ・トッド

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ハリー・ポッターと不死鳥の騎士団(1枚組)

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