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さよならロイ・シャイダー

色々あって、結局徹夜になりそうだ。
夜中寝付けなくて聾唖学校の教室ドキュメントを見ていた。
同時にネットを見ていると、連休中の訃報。
俳優ロイ・シャイダー、享年75 両親の世代。
彼はそんな歳だったかと思うと同時に、自分の歳もイタタ。


若い頃それほど映画を見に行った訳ではない。
それでも、『JAWS』は衝撃的な作品だったし、
続編も通じて、彼の演技は渋くタフな男性像。
そして、最近でも彼を思い出すきっかけになるのは
いまだにTVのCMで使われている、あのダンスの衣装。
そう、あの「ピアノ売ってちょうだい」の宣伝で、
悪趣味にも見える衣装で踊っている女性ペア。


あの衣装の出どころとなっている、元々の作品。
ボブ・フォッシーの自伝的な映画
単純にミュージカルとしても抜群の出来、
ロイ・シャイダーの演技力の意外な一面、
ある意味、繊細な一面を見せた『ALL That Jazz』
これに尽きる。最も忘れられない作品は。


ボブ・フォッシーの化身を演じた彼は、歌い踊る。
舞台に取り付かれた振付師、心臓を煩い、それをごまかし
ジャンキーなサプリメント付け生活。
離婚した元妻と娘に変わらぬ愛情を注ぎながらも、
恋人との生活も捨てる事ができない。ビバルデイで目覚め、
It's Show Time! と自らに発破を掛ける。
よれよれで、破滅的な舞台人を全うする人生。


この映画で「ジーザス・クライスト・スーパースター」以来、
ミュージカルにも色々あるものだなと思った記憶が。
そう、確かユダ役だったが、映画では採用されなかった
ベン・ヴェリーンが劇中劇の中でしつこいくらいに出ていた。
クンタ・キンテで有名になった『ルーツ』のチキン・ジョージ役。
彼が話の伏線になる、「死」について語るコメディアンだった。


この時初めて、キューブラ・ロスの名前と死についての五段階
①否認、②怒り、③取引、④絶望、⑤受容というプロセス、
自らの死を受け容れて行く過程について知った。
今では有名すぎる『死ぬ瞬間』の内容を、この映画から学んだ。
ある意味、ロイ・シャイダーの演じる主人公、
その生きざまから疑似体験したといっても過言ではない。

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身近に迫る死の影と折り合いを付ける過程さえも、
ミュージカルとして、舞台芸術として昇華させる凄まじさ。
振り付け氏が死んで舞台演出家としての役目が果たせず、
舞台化されない場合を想定した保険上の取り決め、やり取り。
ショウビジネスの裏側と人生、残された時間と、
死の間際までの交錯する思いが、歌や踊りで表現される。


子供には見せられないよ、という台詞が飛び交う
セクシーな振り付け、ダンサーの組み合わせ。
男女以外で、つまり男男・女女で踊るペアも新鮮だった。
まあ、奥手な文学少女にとっては、色んな意味で刺激的で
忘れられない映画の主演俳優が、ロイ・シャイダーだった。


「ピアノ売ってちょうだい」の衣装を着たお姉さん。
あれは映画の中では静脈と動脈の血管、赤と青を配した
斬新というか不気味な衣装だった。
死神として主人公の心の中で対話する女性、
花嫁のように白い服を来たヴェールの女性は、ジェシカ・ラング
キング・コング』のヒロイン時とはうって変わって、
大人の女性、死の化身として演技。
心臓が止まって死にゆく主人公を迎える瞬間、
ヴェールをとって素顔を見せる場面は、何とも言えなかった。


主人公ジョー・ギデオンを演じたロイ・シャイダーの印象が
余りに強烈過ぎて、他の作品が印象に残っていないくらいだ。
サメ殺しの警官とジャンキーな振付師。
「父親から教えてもらったのはズボンの履き方だけだ」と豪語した
俳優を思い出すのに、この2つの役しか思い出せない。
それでも改めて訃報に接すると、親の世代が一人減ることに、
影響を受けた人物がこの世を去ることに、ある種の感慨。


多発性骨髄腫からくる血液細胞ガンと戦い、享年75歳。
晩年は2年間、骨髄腫と闘う日々だったという。
サメではなく病魔と闘って死ぬ瞬間、
彼を抱きとめた死神は、どんな顔をしていたのか。
・・・そして彼自身は。
さよなら、ロイ・シャイダー

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