Festina Lente2

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つくもがみ貸します

ちりとてちん』の世界にちょいと浸ると、
落語の世界が溢れ出てきた様な人情話。
つまり、浮世話・世話物、哀しきことを面白く。
このパターンの連続なのだと実感させられる。
視聴率が今一つ、そりゃ見ているのは年寄りが多いから?
近場でリサーチ。高校生はばーちゃんが見る番組だと抜かした。
ならば人口構成上から言えば、もっと視聴率が上がっても。
TVを見たくても見られない寝たきりの人が多いから?
等、愚にも付かぬことを考えながら地下鉄へ。
本日歯科大附属病院の日。


ブリッジにするには歯肉がもう少し回復するまで。
その間に、欠けた親知らずの治療、結局ほじくる羽目に。
ほじくっても痛みが無いのは、神経が死んでいるそうな。
年寄りになればなるほど神経は石灰化する。
生体の防御反応もある。内部はわかりかねるが、
これだけ掘っても痛みが無いのは異常だそうな。
結局仮で埋め戻しで18時。やれやれ・・・。
指導医と主治医で、難渋してるんだろうな。


仕事は、幾つも掛け持ちの担当部署での総括を出す時期。
結果を出すというのは言葉では簡単。
問題提起、改善策、フォロー、事務上の手続き、
雑務の連続。疲れがたまってくると駄洒落も不穏だ。
イージス艦はイージーミスが多い、なんて誰が言った?


振り替えで休めるはずが休めず週末、持ち帰り仕事はたまる。
その合間、通院の電車・地下鉄は貴重な読書時間。
お江戸の医空間、いや、異空間にワープ!
何てったって神様の名が付く妖(あやかし)が、うようよ。
『つくもがみ貸します』の世界。

つくもがみ貸します

つくもがみ貸します

「江戸しぐさ」完全理解―「思いやり」に、こんにちは

「江戸しぐさ」完全理解―「思いやり」に、こんにちは


畠中恵はこの数年、お気に入りの作家だ。
しゃばけシリーズで人気が出たが、下手をすれば小中学生相手の
謎解きもので終わりかねないファンタジーを、
渋い練れた妙味を散りばめて、人生を描き出しているのがいい。
こじゃれたお子様の読み物ではなく、溜息を笑顔に変えて、
しゃっきり背筋を伸ばすような、そんな佇まいが見えるから。


人間一癖も二癖もある。なくて七癖の世界。
「まやかし」も「あやかし」も、何でもありの世の中。
お江戸の暮らし、庶民の暮らしの浮き沈み・喜怒哀楽を
正面切って描いたら、リアリズムというよりはエログロナンセンス
ロマンスというよりワイドショー、読者開拓には至らない。


どこか、「ありきたり」ではないもの達が語り手だ。
一人前になりたくてもなりきれない、病弱な跡取り息子。
見たくなくても血筋と仕事柄で、見聞きしてしまう者。
曰く因縁、人ではない者が語り手になって、
人の世の不思議や人情の機微、心持ちを謎解きする。
ちょっぴり寂しく哀しく甘く切なく、でも癒される。
そんなお江戸情緒溢れる世界の一つ、『つくもがみ貸します』


推理もの謎解きものの体裁を取りながら、
人が一番知りたいのに見えないものは、己の望んでいるもの、
自分自身の内側なのだということを、丹念になぞる様な、
ある時は代弁するような、そんな距離感のある文体がいい。
丁度ゲシュタルト心理学で、気持ちを物に投影するような、
まあ、『七つの人形の恋物語』ではないけれど、
それぞれの人形に自分の内面の様々な側面を託すように、
物語はあっちで謎解き、こっちで謎解きしながら進む。


人間であれば、あれこれ制約があって言えない事も
能力的にできない事も多けれど、
妖怪や100年以上の年月を経てあやかしになれた身、
摩訶不思議な力を持つ狐狸、鬼神であればこそ、
物事から距離を置いて見たり語ったりする事ができる。
そんな視点で描かれた世界が面白い。


物を通して知り合いになり、物は物同士で呼び合い、
「つくもがみ」の中にも先輩後輩がいて、
それぞれの性格、気位があってやり取りしている。
損料屋の商いで貸し借りされる「もの」であるという、
定めには逆らえないものの、行った先での見聞を
仲間内で話し合って土産話にしている。
奇しくもその話を聞くことができる人間は、
「不思議」の世界の中で物事を解決する手がかりや、
目当て、道筋を見出し、励ましまで貰う。


基本構造はしゃばけシリーズと同じだけれど、
どれも落語の世界よりはしっとりと描かれたファンタジー
同じ江戸時代を扱った作品、怪異や人情話とはいえ
宮部みゆきのような、グッサリ心を刺してくる結末はない。
それだけに安心して読める、江戸時代へのミニトリップ、
ミニ癒しは心地よい。


隙間時間の読書で心の隙間を埋めなくては、
やっていけない現実が、年度末が近付いている。

マンガ版「江戸しぐさ」入門―イキで素直にカッコよく

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山口晃が描く東京風景―本郷東大界隈

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