Festina Lente2

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寝付けない娘に

何のことはない。昼間寝すぎて寝付けないのだ。
熱と吐き気で徹夜して、受診後、点滴と頓服など服薬のお陰で
熱も徐々に下がり、思いっきり寝たので寝付けない。
いつも寝る時間が過ぎても、一向に眠くならない。
退屈しているが、さすがに起きてごそごそしない。
久しぶりの高熱はこたえたようだった。


TVが見たいとも言わない。大好きな「ヤッターマン」も
名探偵コナン」も見ずに布団にいる。
我が家には2階にTVはない。だから、ラジオを聴いている。
15分間の基礎英語が終わった後、退屈して、
「眠れない」というからお喋りしていたのだけれど、
23時が近付いてくる頃、そわそわしだした。


そう、宵っ張りの娘が月曜の夜に観たがる番組。
それは、星新一ショートショート
http://www.nhk.or.jp/hoshi-short/
最近ではSF入門、小学生用のコーナーに必ずある
身近なお勧め読書として紹介される星新一のSF。
没後10年経っても絶大な人気を誇る、星新一
その作品が、ドラマやアニメの3本立てで紹介されている。
娘はこれが好きなのだ。

ねらわれた星 (星新一ショートショートセレクション 1)

ねらわれた星 (星新一ショートショートセレクション 1)

宇宙のネロ (星新一ショートショートセレクション 2)

宇宙のネロ (星新一ショートショートセレクション 2)


むろん娘に星新一を与えたのは、私。
中学生の時の『声の網』に始まり、高校生の頃、
図書館にあった星新一の全集を読んでいた頃が懐かしい。
娘を読み手にしようと、ぽつぽつ与えていたのが功を奏し、
ますます宵っ張りにしてしまったのだが。
NHKも、あんな時間に放送しなくてもと思うが、
きっと製作者側も私と同年代だろうと思う。


星新一に思い入れがあるのは、私よりも上の世代だろう。
最近では若い女性に人気もあると言うが、どうだか。
社会人なりたての頃の私は『人民は弱し官吏は強し』に
いたく心を惹かれた。何しろ世の中のうんざりに目覚め始めていたので。
ショートショートの鮮やかな切り口の後ろにある皮肉や知性、ウィットは、
学生の頃は小気味のよい話題や世界を観る切り口への応用編だった。
今は、何かしら苦いもの、人生の器の残滓のようなものを感じる。


星新一の描く世界は、憂いと警告に満ちている。
決して笑い飛ばすような世界、楽天的な未来では無いと
気付くようになってからは、手に取ることは無くなった。
そういう世界で遊ぶには、ちょっと年を取りすぎた。
でも、娘が興味を持ってくれるとなると、
また違う視点で、読み返してみようかという気にもなる。


「おかーさん、テレビ見てくれた? どんな話だった?」
それとなく粗筋を話しながら、娘の反応を見る。
まだ3年生の娘が、様々なショートショートを読み、
観ながら、話を聞きながら、「怖いよね」と評する。
そう、「大人の話」は怖いのよ。
星新一は自分が子供向けの作家だと思われて、不本意だったらしい。
色んな感情を押し殺して苦しんでいたらしい。

星新一 一〇〇一話をつくった人

星新一 一〇〇一話をつくった人


超大作が素晴らしいという物ではないけれど、
短編というものは、得てして過小評価をされがち。
人生においても、量より質よと思いながらも、
凡人は長生きを望むし、佳人薄命は縁が無い物と信じている。
子供が描く未来は、プラス思考という強迫観念。
そういうステレオタイプな物の見方から、
敗者の立場、弱者の観念、諦観、自嘲は切り捨てられる。


子供に現実をありのまま見せる事が、いいとは思えない。
それでも、良い物語・作品には、自ずと反映されるもの。
著者の世界観、人生観、喜び悲しみが滲んでいる。
無意識の底に深く刻み付けるものは、単純な粗筋でいい。
それぞれの心の中で変容しやすい、応用の利く物でいい。
物事の道理、心理、身も蓋もない結末、手痛いしっぺ返し、
夢と欲望、理想と現実の矛盾、どんでん返し、
そんなものに直結する具体例ではなく、少し霞のかかった、
物語の世界の例示の方が、「山椒は小粒でピリリと辛い」の世界。


娘は評する。「怖いよね」そう、怖いものなのだ。
物語の世界には、心を鷲掴みにする落とし穴が一杯。
上手に切り取られた小窓には、足元をすくう、
時には心を解放する、或いは目に見えない楔を打ち込む、
そんな仕掛けが隠されている。


ところで、熱が下がって元気になってきたね。
眠れない、TV番組が気になる、
今日の「星新一」見てきてと頼むくらい。
けっこうけっこう。
子供の病気は急に始まり親を戸惑わせるけれど、
良くなるのも早い。それが何よりの救い。
寝付けないくらい、何でもない。
大丈夫、大丈夫。

人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)

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明治の人物誌 (新潮文庫)

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