寝顔の彼方

娘によく訊かれる質問で「ドラえもんの道具の中で欲しいもの」
もちろん即座に「どこでもドア」と答える。
ぎりぎりまで寝て食べて優雅に過ごして、何も無かったような顔をして、
職場に、娘の習い事先に、出張先に、家人宅に、
あまつさえ旅行の醍醐味である往復の距離をすっ飛ばして、
目的地まで直行できるのであればそうしてしまいたい、と思う。

移動する時間が気休めや気分転換になる時もあるけれど、
だんだんそういう気持ちから遠ざかってきているような･･･。
それほど、何もせずのんびり出来る時間が無い。
どこでもドア。でも、私が本当に憧れているのは、
どんな世界に通じているドアなのか。

ブログなんか書いている暇があれば、寝ればいいのだと思う。
まあ、雑文書き散らして、プチ鬱やプチ怒をなだめている。
この頃は、もし急に何かあった時、
かーちゃん、ぎりぎりまでこんなしょーもないことを
捻っていただんだなあという、証拠物件だな、証拠文書。
とにかくマンモスは千切って食えと言うけれど、食欲が無い場合、
千切っても口に入れたくないというか、食べられない。

残務処理の山。消化不良。うんざり。
そこで、パソコンみたいにゴミ箱行き。（復活も可）
一括処理、ファイルはまとめてフォルダに入れて、みたいな。
コピー＆ペーストのくり返しでOKのような、生活。
出来ないかな。駄目かしらん？

ヒューマンエラーを防ぐ知恵 (DOJIN選書)

50代からの選択―ビジネスマンは人生の後半にどう備えるべきか (集英社文庫 お 66-1)

水着忘れたから借りたの。レンタル料200円。
水着が小さくなったー。ああ、試着しようか。
新しいの買ってあげるからね。え？　SじゃなくてM？
うちの子はそんなに大きいの？　3800円。はいはい。
カードでいいですか。そう、自己ベスト3秒縮まったの、よかったね。
えーと、キャンセル待ちでいいですからキャンプ申し込みます。
ああ、電話予約入れておけば良かった。

スナックタイム時間切れまで後5分、滑り込みセーフ。
2人で一服、氷が多すぎて飲み物じゃないドリンク。
警備員に注意されても動こうとしない、有象無象の一団。
「おかーさん、あれ不良？」大きな声で、訊かない。
君よ知るや南の国、シエナのカンポ広場を連想させる、
すり鉢状の小さな広場を持つ駅前マーケット。
餌をやらないで下さいの看板の横で、鳩と戯れるこども達。

おかーさん、図書カードもう全部使っちゃたの？
ピーターラビットの図書カード。
○○の六月号買って。あ、基礎英語テキスト7月号出ている。
ついでに買って。おかーさん、本探している間、
私こっちで読んでいる。あ、『アルカサル』の外伝が載っている。
王と修道士ファルコとの絡み、ファンサービスだね。
お、『波』の六月号には『東京島』の著者コメントか。
フリー書評誌、ありがたや。

冷や飯をおじや風リゾットにして、残り物をぶち込む。
人参ジュース、かつおのたたき、糠漬け。
週の初め、習い事、お迎え兼買い物兼、親子の会話の時間確保。
学校からのお手紙、本読みの宿題にサイン。
だんだん疲れてきて眠くなる。10時前だというのに。

おかーさん、リュックサックの中から
「○スカップ取ってこようか」涙ぐましい娘の気遣い。
栄養ドリンクで元気が取り戻せると思ってくれている。
仕事で目を通す書類を、生活費の足しにもならない
内職仕事のようにかごに入れて持ち運び。
娘よ、今日の予定は済んだ？

おかーさん、音楽教室の宿題も一つ終わったし、
学校の宿題は学童で済ませたし、後は算数の問題解いて、
お風呂に入って、お布団で『弧宿の人』読んで寝る。
今日はテキバキできて、いい一日だなあ。
ちゃんとお風呂で髪の毛洗うからね。
プールの塩素、落とすからね。
残念なのは、星新一の番組無いんだ、月曜なのに。

娘よ、私より遥かに、君の方がビジネスマンだ。
塾に行かない、行きたくないという君が、
1ヶ月遅れの課題とはいえこつこつテキストを解いている。
私に似ず、算数が好き、国語と社会は苦手。
動けなくなり居眠りする私よりもタフガイだ。

子供と過ごす時間、一括処理できない。
ささやかな会話のやり取り、毎日の幸せ。
「おかーさん、おやすみ」の声を聞きながら、転寝。
気が付くと真夜中。情けないかーちゃんの日常が、
真夜中から始動、仮眠、夜明けと続く。

何もかも一括処理できれば、面倒なことはデリートできれば。
上書き保存できない、一手間、一コマ、ひとこと。
そんな小さな積み重ねの中で、私は目をしばたく。
胡蝶の夢の中か、否か、ふと不安になって。
「万事塞翁が馬」のどの辺にいるのか、確かめたくなって。

一つ一つ片付けていかなければならない書類、メール、確認事項、
「ほうれんそう」の連続の片隅にある、君の存在。
残業もクレーム処理も、処理不能になりそうで、アップアップする、
そんなかーちゃんの日常をリセットしているのは、
娘よ、君の存在。
娘よ、かーちゃんは君の中でどんなボタンだ？　Keyだ？

人生はやり直せない。やり直す事が出来そうで、出来ない部分を、
自分に納得できる形で読み返しているだけ。組み替えてみるだけ。
受けとめ方が変わればもっけの幸いで、ぱっと見の外見は変わらない。
そんな毎日の中で、リセットできそうで出来ない毎日の中で、
残務処理、一括処理の利かない日常生活の中で、
君はいつでも新しいお日様のように、朝を迎えているのか？

君の寝顔を観ながらかーちゃんは、目が醒める。
　　　　　　　　　　　　　　　　　

運命を変える 朝の思い 夜の気づき~心をリセットする30日~

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