Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

暗い夜と The Dark knight

真夜中に庭に水を蒔く。草木がシュワシュワ声を挙げて喜んでいる感じ。
それはそれで嬉しいけれど、私は脱力寸前。でも、水撒きは大事。
今朝方、シロの散歩中お湿りがあったかと思ったけれど、
あっという間に止んでしまい、実質、恩恵に与らなかったから。


本日はA Hard Days Nights 予定が一杯あって忙しかった。
朝 起床、洗濯、犬の散歩、干し物、朝食準備、出勤、
お客さんの連続は結構気を使った。書類の名前がぼやけ、
やっぱり眼鏡が要ると思い知らされながら、急いで帰宅。
後半休。昼食を作り、母と食べ、急いで大学病院へ。


来月で母の今の主治医とは最後、念入りに打ち合わせ。
今後診療方針がどうなるか、心配ではある。
父も母も私も、新しい先生と一から関係を築かなくてはならない。
父が留守になると母の状態は不安定になるし、
コミュニケーションを取るのが難しい。
今日も、私と2人きりなのがどこまでわかっていたのか。


受診・会計・薬を貰うまでの待ち時間、婦長さんに会いに行く。
本の少し立ち話、春以来。自分の入院や家人・子どもの話や、
過去の手術の癒着が、現在の進んだ手術の妨げになる場合の話。
帰宅。図書館へ、取って返し夕食を作り、並べる。
服薬を確認。ボランティアの電話相談へ。終わって、21時。
運転しながら、ふと思い立つ。母はもう寝ているだろう。
誰もいない。今日、今晩、観に行こう。夜道を飛ばしシネコンへ。


そう、少々迷いがあったが、やっぱり観なくては。
ヒース・レジャーの遺作となったバットマンダークナイト』を。
最初、暗い夜かと思っていたら、暗黒の騎士だった、
掛詞だとしか思えない、Tne Dark Knight を。

オリジナル・サウンドトラック ダーク・ナイト

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ジ・アート・オブ・バットマン・ビギンズ―シャドウ・オブ・ザ・ダークナイト

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私が映画を観るのは、手っ取り早く気分転換をする為に、
異世界に迷い込むのが一番だからだが、
かつてのように活字の世界から入っていく根気や時間が無いのと、
視力の関係で、字が読めなくなってきているからに他ならない。
とにかく、音楽、映画、読書のバランスが崩れてきて、
最近映画に比重が掛かってきていることは、忸怩たる物がある。
それはともかくとして、今回は迷いのあったバットマンシリーズの最新作。


何しろ、題名から受ける響きが悪かった。暗い夜。
正しくは暗黒の騎士、にしては割りに合わない立場のバットマンだが。
もちろん、敵役ジョーカーとて暗黒の騎士の分身のようなもの。
物事には常に表と裏がある。実際はもっと複雑だろうが、
単純にわかりやすく2面性を持つ。そして何事にもプラスα。
バットマン、ジョーカー、相対する二つの柱。
バットマンとブルース・ウェイン、昼と夜との別の顔。


光の騎士と仇名されるバットマンの後継者とみなされていた、
ハービー・デントと復讐の鬼を化した後のトゥー・フェイス。
仮面を持たない焼け爛れた顔の半面が痛々しい。
最後まで素顔のわからない、狂気揺るがぬジョーカーと異なり、
光から闇へ変貌するための装置としての顔面破壊は、
人間性・理性・アイデンティティの喪失を用意にイメージさせた。


自分が愛されていると思い込んでいる、お坊ちゃまの側面を見せる、
金に糸目をつけずに行動できる御曹司、バットマンの素顔。
忠実にして博識な執事と、有能にして一徹な技術屋と、
世渡りの経験者を参謀に控えて行動できるバットマンに比べ、
自らの狂気を戦力に変えて人心を操り、殺戮と破壊を喜ぶジョーカーは、
圧倒的な影響力を持つ。


少々危険な映画だと思った。心の中に空白の多い、
いわば希薄で弱い精神構造は、前よりも悪に染まりやすい。
もしくは、いとも簡単に善悪の基準がひっくり返り、価値観が変わる。
そういう悪意に満ちた作為と狂気に影響される人間が出そうな、
麻薬のような危険さに満ちた悪役の創造。


・・・危険すぎる。人間ならば誰でも持つマイナスの部分に、
下手な覗き込み方をすると巻き込まれて抜け出せなくなる。
自分の心の闇に気付かずに生きる方が楽なのに、
悪を殊更クローズ・アップした上に、善悪対比。
ヒロインを失い、善の砦から登場人物が一人去り二人去り。
暗い展開、暗い終わり方。決して観た後の晴れやかさはない。
でも、単なる娯楽映画ではない部分、観て良かったと思える。


それにしても意地悪な見方をすれば、御曹司のブルースに
タフネスさを感じることは殆ど無く、細身の繊細さがひ弱さに。
サポーター2人が生活面、心理面、技術面をフォローしてくれなければ、
バットマンになることさえできない、生身の主人公。
変身の大掛かりな装置を実質支えているのは、誰? どこ?
何しろバットマンの格好で犬に噛まれ、自分で腕を縫うシーンも。
余りにも痛いヒーロー。


それよりも死んだ振りをして家族を欺き、
警察官として犯人捜査に躍起になりながらも、
部下に裏切られ窮地に陥るジム・ゴードン。
ハリポタ映画のシリウス役の時より遥かに格好良かった、
ゲイリー・オールドマン。いい中年の味を出していた。
最初から私の好みではないデント役が、悪に転落するきっかけが、
恋人と同時に顔を失うという設定が、気に入らない。


反面、人の人生・生き方・運命を踏みにじり破壊し、
必要以上の痛手を与えて翻弄し、弄ぶ、悪。
ルールや基本、感情や情けとは無縁の狂気。
こちらの方が、理性抜き本能で寄り添えるようなリアルさがある。
魅力的なと言う意味ではなく、自分の内面の醜さに共通する狂気。
有無を言わせず、闇に直面させる強引さに圧倒される。


ジョーカーはオールマイテイ。でも、一線を越える犯罪の楽しさは、
そうまでして残虐になれないと楽しみも喜びも得られない、
悲痛さに通じる。普通では生きていけない哀しさに通じる。
理解するには疲れるけれど、そういう部分が人間にはある。
いびつで侵しがたい、どうしようも出来ない部分が。
しかし、全面的にそれに呑み込まれてしまっては・・・困る。


内面を晒しだすような強烈な悪役を演じて、
それこそ全身全霊を捧げた後、役柄と人生がシンクロ?、
一つの頂点から次の頂点には移れないかのように、
この作品の「主役」以上の人生が存在しないかのように、
ヒース・レジャーは亡くなっている。
作品に魅入られて、屠られた犠牲の羊のように、
不思議な死のタイミング。そしてこの映画に伝説が加わる。


映画の余韻に浸りながら、真夜中の庭に水を蒔く。
蒸せ返るローズマリー。したたかに濡れる自分自身。
真夜中を過ぎて、闇の中に続く日常生活。
暗い夜の中で、当たり前に過ごす生活。
疲労の蓄積する中、これはまだ疲労とは言えないと
ささやかな幸せに通じていると感じながら、水を撒く。

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