Festina Lente2

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自殺のニュースの余波

ばたばたと仕事をしていて、新聞記事にもニュースにも疎い状態。
いや、無意識に訃報欄から目を逸らしていたのかもしれない。
でも、じわじわと静脈から出血するように、
目に見えない傷口からどんどん血が失われていくように、
心の中に後味の悪い思いが広がり続けている。
それは、もう菊の節句の日のニュースだったのだけれど・・・。


草柳文恵が自殺。若い人は彼女を知らないかもしれない。
まして、非常に有名な評論家であった彼女の父、草柳大蔵のことも。

草柳大蔵の女性抄

草柳大蔵の女性抄


仕事が忙しく、先週のポカを取り戻して気分爽快な昨日、
クレームを処理して走り回った今日、営業の強み、
電話一本のやり取りの機微、紙切れ1枚と言えど、
貰えば水戸黄門の印籠と同じ、おばちゃん度胸で交渉が続く。
そんなふうに走り回って週のなか日と帰宅すれば、
草柳文恵が、婦人科の病気を患っていて予後宜しくないまま、
何年か過ごしていて、首吊り自殺をしたらしいとのニュース。
詳細はわからないが、ただ、冥福を祈るしかない。
悔しい気持ちで。


彼女はほぼ10年上の世代。才色兼備、仕事をする女性。
それはある意味、憧れだった。
小学校時代から父親は単身赴任。父と語らった記憶の少ない私は、
なだいなだや草柳大蔵など、父親世代のエッセイや評論を、
父親の言葉代わりにして育ったと言ったら、いい過ぎだろうか。
よくやった、頑張ったという親の世代の言葉や評価が欲しくて、
教養主義の時代のびりっけつを走った文学少女は、
草柳大蔵という一家言持つ男性を父親にに持つ、
ミス青学、美人キャスターの年上の女性に羨望の眼差しを抱いた。

ふだん着の幸福論

ふだん着の幸福論

当時、このような父親を持ちながら自分の道を切り開かねばならぬ
娘の辛さなど慮るほど大人ではなかった。
ひたすら、天が二物も三物も与えてくれる人はいいなあなどど、
のんきに憧れていた。今にして思えば、ある意味、
親の世代、有名な父親の影響から逃れることができなかっただろう
娘の、本人歯科受け止めることの出来ない悲哀を思いやった。
父、草柳大蔵が生きていたら、愛娘の死をどのように受け止めただろうか。
一人残された母は、娘の死を発見してどのような思いに?
ああ、想像するだに絶句する。

礼儀覚え書

礼儀覚え書

絶筆 日本人への遺言

絶筆 日本人への遺言



人生50年とはよく言ったもので、確かに老いを意識する。
まだ50には間があるものの、体の不調は、特に女性の体の不調は、
男性が想像するものとはまったく異なる不調、
個人差もあれば、自分の生活の中でも浮き沈みの激しい好不調の波、
このアップダウンを持て余して苦しい戦いが続く日々。
「仕事に穴をあけてはならじ」と思えども、許されぬ日々。


生理一つにしても、だるだや頭痛、肩凝りなどにしても、
老眼、歯を含む口の中、舌や、喉、鼻の不快感。
今までと違う、違和感が強くなる。この体調の変化に、
気持ちがついていかない苛立ち。
私の更年期はまだ軽い方だと思うけれど、それでも小波は立ち続けている。


ある意味、尊敬や憧れを抱いていた人物が乳癌で亡くなるのは辛い。
婦人病で亡くなって行くのは辛い。
知り合いも近所も、自分よりも若くして亡くなった人が、
交通事故等ではなく、婦人病関係だという事がショックだ。
そう、私は未だに千葉敦子に憧れた自分自身を、
前向きに仕事をしていた自分自身に重ね合わせて、
若く純粋だった自分自身を懐かしく思い出しながら、
今だに自分に発破を掛けている。
頑張らなくては、と。


まだ、元気に動けている自分達が頑張らなくては、と。
子育てをしながら、連携しながら、協力を図りながら、
まだまだ頑張り続けなくては、と。
認知に問題のある母の様子を見ながら、まだ頑張れる。
仕事も子育ても、まだ何とかやれると。
休日は精一杯子供と遊ぶのだと。
子供の旬は短いから、娘が同級生としか過ごさなくなる前に、
家族の時間を確保するのだと、
躍起になりながら、職業人として、娘として親として、
走り続けなければならないのだと、自分に発破を掛けている。


そんな毎日の中で、自分の体調や仕事との折り合いをつけている中で、
憧れた世代や人物、一世を風靡したアーチスト、同世代の自殺のニュース、
そういう訃報は堪える。何とも言い様なく堪える。
それこそ夏目漱石の『こころ』ではないが、明治天皇薨去をきっかけに、
自分を清算してしまおうとする「先生」の気持ち。
疲弊と諦めとが手に手をとって黄泉路下りに勢いを付けるような、
そういう滑り台に座らされているような気分になる。


いや、草柳さんにはならない。千葉さん派でいなくては。
そんな、滑り台に決して座ったりはしない。
落ち込んでも、辛くても。
そんな勢いに、刹那的な気分に、衝動に駆られたりしない。
私には強力なストッパー、娘がいる。娘がいる。
そう思いながら、週のなか日を乗り越える。

ニューヨークの24時間 (文春文庫)

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よく死ぬことは、よく生きることだ (文春文庫)

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