Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

櫻正宗・菊正宗・白鶴美術館

写真をアップしました。
どうぞご覧ください(10/9)

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さて、昨日の電車での行ったり来たり、お土産の荷物の多さにめげ、
生憎の雨、下戸の家人を運転手に車で酒蔵巡り。
きっと駐車場混んでいるだろうなと思いきや、試飲の好きな人々、
自家用車で来るはずもなく、ガラ空き。(笑)
本日の最初のお目当ては、復興から10周年を迎えた、
資料館兼レストラン櫻宴のある魚崎郷の櫻正宗

 

 

スタンプラリーの紙を忘れてきて、オーマイゴッドの世界。
残念無念とはこのこと。代わりに限定200セットの10周年記念酒購入。
綿のどっしりした前掛けとストラップ付。
資料館は詳しい酒作りの工程を伝えるものではなく、記念館の風情。
震災で失ってしまった物が余りに多く、当時の梁やその他の材木を、
上手にレストランのインテリアに取り入れて、優雅な和食の店を演出。
落ち着いた雰囲気の中で食事が楽しめる、ちょっとした隠れ家然とした店。

            
  

頃はランチタイム、早速食事を楽しみながらゆっくりとしたひと時。
朝は手作りの食事を楽しみ、ドライブして酒蔵レストランの花籠ランチ。
娘はくまちゃんの形のお子様ランチに酒粕アイスのデザート。
大阪から思い切って足を伸ばしてみれば、
町のあちこちに祭りの提灯がぶら下がる田舎の都会から離れ、
工場と蔵が一体化した不思議な酒蔵の町の昼下がり。

 

土産物のコーナーでは娘の目釘付け、縮緬じゃこ煎餅実演コーナー。
自然の塩味がプレス機で熱々の煎餅に生まれ変わる。
勿論お酒のおつまみには持ってこいで、子供のおやつにも。
昨日の白鶴とはまた異なる洒落た風情の2階レストラン、
気楽に入れるお手ごろ価格の1階喫茶室。
10周年記念特別メニューは今月中。
ちなみに蔵開きは11月1日だそう。お近くの方はどうぞ!

 

  

そして、菊正宗酒造。こちらはツアー客も多いのか、
案内・説明書が9ヶ国語で用意されていて、びっくり。
資料館の定時案内の説明が最もわかり易く、生もと造り・本醸造のこだわり。
無論ここも震災で多くを失い、復興したものの並々ならぬ苦労が窺える。
お土産コーナーでは、日本酒・梅酒の試飲は勿論、漬物の試食も。
酒を絞った柿渋を縫った袋は、今やリフォームされてお洒落た和装小物。
稲の穂で作られた宝船を背景に、どっしり据えられた銘酒の瓶。

 

 

昔の古いポスター、美人画と日本酒。美しい普段使いのお猪口。
遊び心を刺激されたのは、お土産物として売られていた可杯(べくはい)セット。
お座敷遊びなどで使われるものだが、本物を初めて見た。
穴の開いたひょっとこは、お酒を入れるともれるので押さえて飲む。
天狗の杯は鼻が長くて不安定なので、置けないから飲み干さないと駄目。
おかめは普通の杯で一番量が少ない。
コマを回して杯を決め、みんなでお酒を飲んでいくという趣向。
飲んで遊べる楽しい友達がいないと、優雅で粋なお遊びで飲めない。
いつかはこういう杯で盛り上がって飲みたいものだ。

 

 

そぼ降る雨の中、なかなか風情がある酒蔵巡りだった。
また、こだわりのおつまみが販売されていて、三つの酒蔵を巡ると、
それぞれのコンセプト、見せる顔の違いが面白い。
一つの酒蔵だけでなく、巡り歩く意味はこの比較の楽しさ、
違いを知る楽しさにあるのだなあと、しみじみ。

行正り香監修 モーツァルト for DINNER&DRINK~明るくスウィートなディナーとお酒に

行正り香監修 モーツァルト for DINNER&DRINK~明るくスウィートなディナーとお酒に

行正り香監修 ラフマニノフ for DINNER&DRINK~ロマンティックなディナーとお酒に

行正り香監修 ラフマニノフ for DINNER&DRINK~ロマンティックなディナーとお酒に


また、お酒についてより良い形で知ってもらいたい、
文化として遺して伝えていいたいとする各酒蔵の意気込み、姿勢が
それぞれの蔵の個性、商品として伝わって来る、それもまた一興。
櫻正宗の蔵元理念の2番目に曰く、「文化の継承を基に地域社会に貢献する」
菊正宗の資料館にはさりげなく、灘中学創立時の木の机と椅子が。
全く知らなかったが、東大進学率で名高い名門灘中学・高校は、
昭和2年灘五郷の酒造家両嘉納家(菊正宗)及び、
山邑家(櫻正宗)の篤志を受けて、旧制灘中学校として創立された。


猛受験勉強で知られる6年生一貫教育の男子進学校が、
日本酒の酒蔵の富の支援を受けた学校だったとは、知らなんだ。
灘にあるから灘中学・高校というのだとばかり思っていた。
地名の背景にあるものに、ちっとも気が付いていなかった。
今の世の中でもそうだが、経済力と学力は比例する傾向は否めない。
文化的なものの背景には、パトロンの力は必要不可欠。


学ぶこと、知ることは膨大な無駄というゆとりを必要とする。
時間的にも物質的にも、貪欲なまでに何かを追い求めないと
見えてこないものが研究の成果であったりするから。
学問を究めるということ、美を愛するということ、
哲学をするということ、霞を食らうような仙人の生活からは生まれてこない。
贅を尽くして、贅をそぎ落とした所にようやく絞って滴る一滴の如きもの。
それこそ、米を研ぎすまして吟醸酒を作るような贅沢。


この日のドライブの最後は、六甲山に向かって川を上る。
白鶴の財力の顕れ、白鶴美術館に立ち寄るため。
時間も押し迫っていて、駆け足で見ることになったが、
震災で内装、特に美しいシャンデリアを失ってしまったものの、
異国の迎賓館のような造りのどっしりとした白鶴美術館。
お目当ては、秋季展「古代中国 青銅器と文字文化」
新館の「オリエント絨毯―多彩な花文様」

 

私に文学や美術を愛好する遺伝子が組み込まれたとするならば、
紛れもなくそれは、幼少時から読んだ「世界の名作文学50」と
「未来への遺産」など、NHKの多くの番組のお陰だ。
扉にその国の日常を写真で、名画を解説付で、文学史を載せ、
本の読み方案内を配し、挿絵に原書から抜粋、当時の風物を掲載。
一流の翻訳家と画家による文学全集は、百科事典にも等しかった。
そして思春期の私に、遺跡・美術・旅への憧れ・情熱を掻き立てた
「未来への遺産」その放送と解説本5冊。


若さゆえ純粋に自分の目で確かめたい、観たい、知りたい、
その飽くなき夏炉冬扇の如き知識への欲望。
それを醒めた目で見ることができるようになったのも、
専門家にはなれぬものの、趣味として膨大な時間を注ぎ込んだから。
読む・見る・聞く・知る瞬間、その刺激が忘れられず、
今も渡り歩いているといえる、私。


そんな私は、自分を守るよりも食らう饕餮(とうてつ)を、
内に飼っているようなものだ。
展示されている鳳凰や象と共に刻まれている青銅器、
この人を食らう複雑怪奇な文様の怪獣、饕餮(とうてつ)文が、
自分の心にも根を張っているのを感じたりする。
空間を恐れるがごとく刻まれた文様の世界の迷路に迷い込む。


また同様に、単純な模様の繰り返しでありながら時には花園、
美しい天国への入り口、生命の泉、生命の樹を織り出す絨毯。
「からくりからくさ」の世界。伝え受け継がれて行くことの世界。
その世界の前に佇み、しばし乾いた砂漠の熱風が、
または凍て付く寒さをしのぐフェルトの暖かさが、
私を取り巻いているような錯覚に陥る。


私が「とうてつ」とにらめっこしている間に、
娘と家人は昭和初期に建ったこの建物の、
震災でも潰れなかった当時のままのトイレを見学していた。
せっかくなので、大理石張りの壁と、痰壷、電灯を写真に。
今は昔のシャンデリア時代の話に花が咲く。
閉館ぎりぎりまで見学させて頂いた。

 

 

知に飢え渇き苛立つこともあれば、癒されることもある。
知が知恵になり、骨と肉になり、私を酔わせてくれるように、
馥郁たる酒の香りと味に酔うことができるように。
目には色、目には形、心には言葉、腑には酒。
しばしの休息、非日常への旅の友。ささ、一献。

未来への遺産

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暗黒神話 (集英社文庫(コミック版))

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