Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

WALL・E(ネタばれあり) 

人間には出来ない純愛と地球再生計画を描いた映画。
面白い。「レミー・・・」よりも遥かにリアリティがある。
手塚治虫の『火の鳥』のロビタの進化版みたいなもので、
どちらかというと、ロビタが男性女性両方の特性を備えているのに対し、
まだ男性性と女性性に拘って造形しているあたりが、
進んでいるようで遅れているアメリカって感じがする。
両性具有に対して偏見が強いんだなあ。


「誰かと手をつなぐことを夢見ている」という設定が、
隣にいる誰か、男女関係なく誰かではなくて、
伴侶であったり(異性の)恋人であることを想定している。
まあ、地球再生には生殖活動が不可欠だから致し方ないにしても。
それにしても、700年先の宇宙船の中で暮らしている、
退化しきって自分で体を動かすことが出来ない人類に、
我々の想定する性の営みを通じての生殖はありえないだろうし、
赤ちゃんがいる風景も、何だか違和感がある映画だけれど、
まあその矛盾だらけのアニメが、ディズニーらしいと言えばそう。
アニメだからと言ってしまえば身も蓋もない。


十分楽しめます。笑いを取るなら、『カンフー・パンダ
人間として退化してきているなあ、しっかりしなくちゃと思うなら、
WALL・E』でクリスマス的かつ、『聖夜の贈り物』的盛り上がりを。
それにしても、人類がごみだらけの地球を捨てて脱出するあたり、
この無責任さがものすごい当てこすり、皮肉。
その人類を乗せる、おまけに極秘指令「地球に帰って来るな、
ずっと宇宙を漂っていろ」というオートパイロット付き宇宙船の名前、
アクシオム。Axiom 笑っちゃうではありませんか。
公理(他の命題を導きだすための前提として導入される最も基本的な仮定)


人間が非人間的な過程を辿ると同時に、ロボットの方が人間的になる。
今まで使い古されたストーリー展開ではあるけれど、
子供向けにも大人向けにも見易さから考えれば、
良心が痛まずに楽に見られる趣きが強い『WALL・E
よく出来ている。アニメだから距離を置いて見られるしね。
人間は本当に擬人化されていて、自分と比較しなくて済む。
でも私としては個人的には『アンドリューNDR114』の方が好き。
恋愛という観点を重視して見るならば。
ロボットが絡むならね。

ウォーリー

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アンドリューNDR114 [DVD]

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子供がいるからアニメ映画を観るということもあるけれど、
話題作だから観ておきたいという気持ちも当然ある。
しかし、感動はするけれど今ひとつ物足りない気持ちなのは何だろう。
やっぱりハッピーエンドになっているからか。
敵が実は強力ではなくて、あっさりとやられてしまうからか。
後半のどたばたにしてもどちらかというと中途半端で、インパクトがない。
モンスターズ・インク』の時のような緊迫感や悲壮感が少ない。
やはり、無機質なロポット、再生可能・部品交換・修理可能なロボットを
中心に据えているせいか。生身の切実さが伝わらない。


700年を経たロボットがあんなに丈夫なわけもないし、
大気圏脱出の際に燃えちゃうだろう普通は、なんて
心の中で突っ込みを入れながら観てしまう大人になってしまった。
楽しいと思いながらも半分、粗探しをしている自分が嫌になる。
「ハロードーリー」も「ラビアンローズ」も、私より上の世代をくすぐるもの。
少々ターゲットにした年代が違うのかもしれない。
これは孫を連れて祖父母の世代が観る映画なのか。
何も知らない若い世代が観る映画なのか。
どちらかというと製作者側の思い入れが過剰な余り、
却って仕上がりが希薄になっているような、後半エンディングが安直で、
製作時間と予算が足りずに、ここで打ち切りになりましたか。
そんな気持ちにもさせられてしまう。


併演されていたミニアニメもよく出来ていたけれど、
こういう気分転換的な所に力を入れたくなる気持ちも、
よくわかる、けれど、・・・本編の仕上がりのラストを
もう少しどうにか粘って、工夫する事はできなかったのか。
残念だなあ・・・というのが正直な心境。
よく出来てはいたけれど、ね。
エンドクレジットも本当に凝っていたけれど、
(映画館ではどうしてクレジットを観ずに帰っていく人が多いのだろう?
 わざわざ足を運んできているのに)
そこまで凝るなら、ラストの安直さに気合を入れるべきだった。


アメリカ人的な楽天さ、自分たちがまだ世界の中心だと思っている、
最後はどうにかなるんじゃないか的な、そういう気楽さが心地よい時代は
とっくに過ぎ去っていると思うんだけれど、このご時世。
オリーブの葉っぱをくわえた鳩が帰ってきたので、
陸地に上がれるぞと喜ぶノアの箱舟じゃないんだから。
イブにはその役目を担わせたかったのかもしれないけれど、
肝心の証拠になる植物、グリーンを横から盗まれているようじゃ、
鳩としての役目も果たせない。極秘任務が泣くよ。


あの物理的なごみをどのように処理したのか、
緑の地球が広がっている所が何とも馬鹿馬鹿しいエンデイングの、
クレジットアニメだったけれど。最後まで詰めの甘い。
それならば日本のアニメ(アニメ版よりも原作を読んでもらいたいが)
『地球へ(テラへ)』の方がリアリティがある。
地球は遥か昔に眠りについて、今は存在しないかもしれない遠い未来。
超能力を持った、地球に関する共通の記憶遺伝子を持った人間が、
遥か彼方で出会うというラストの方がよほど、現実的だ。


地球はとうとう機械の力では救うことが出来なかった。
というよりも、機械の支配によって守られることを放棄し、
人間をモルモット養成していたマザーコンピューターも、
極秘指令(突然変異遺伝子を削除してはならない)を持って
眠っていたテラコンピューターも、全て停止させる選択が、
いかにもリアリティがある決断に見られたのだが。


宇宙への移住も定住も失敗や殺戮を繰り返し、血で血を洗う争い。
地球へ帰りたい、生存を認めてもらいたいという切実なミュータントの願いと
すれ違う、地球システム維持を図るエリート。その葛藤。
機械文明に守られた何も知らない一般人類。
学生時代に接した作品とはいえ、いまだに忘れられない。
それに比べれば、ほのぼのとしたラブストーリーとして
観ればいいのかも知れないが、『WALL・E』や『Cars』。
機械文明、文明化社会を批判しているように見えて、
結局は擬人化された恋愛をハッピーエンドに持っていくだけの、
それだけのストーリー。


報われない虚しさ。奪われ殺される残酷さ。
理解されない、受け入れられない嘆き。
踏みにじられていく気持ち。
そういうものとはまるで無縁な無邪気な映画、『WALL・E
子供に見せるのは構わない。
でも、大人が無邪気に見て喜ぶ映画でもない。


昔々大好きだった(今でもまあ好きだけれど)ジェネシス
元リーダーでボーカル、おまけにノーベル平和賞まで貰っている、
ピーター・ガブリエルがテーマ曲を手がけていることに関心。
アニメ『ブラザー・ベア』の音楽をフィル・コリンズが担当したのと同じくらい。
何だかんだ言っても、昔ひいきだった人が活躍しているのを聞くと、
懐かしくなってしまうファン根性。


ちなみにWALL・Eとイヴの正式の名前が何なのか、
それはそれでロボットらしい命名
ご覧になった方も、今から見られる方も、
知ってしまえば味気のない、ただ見ているだけでは
アダムではなくてウォーリーの、イヴの正体をご覧下さい。


活気も生気も失った未来のノアの箱舟に、
ごみ処理ロボットが生気を吹き込んだという設定ですから。
キリスト教圏のバイブル的素地を散りばめた娯楽アニメ。
本日の話題でした。

〈ANIMEX 1200シリーズ〉(5) 交響組曲 地球(テラ)へ・・・

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