眠気と痛み

引き潮と一緒に痛みが消えていく、そんな感じだった。
昨日の夜いつもの家に帰宅して、日常生活の場所に戻って、
ありきたりの炬燵に入って、留守中に届いていた年賀状をチェックする。
いつの間にか真夜中を通り過ぎ、明け方近くに布団に入る。
夜行生物のような日常に戻る。
家族3人で過ごしている間は、異常なほど眠かった。
昼間でも眠い。昼寝をしても眠い。夜も早いうちから眠くなり、
入浴中からも眠い。どうしてこんなに眠いのかわからないくらい。

仕事に一段落をつけて正月休みに入り、そして終わり。
休みに入ってしばらく体が要求する眠りだろうと思っていたけれど、
何だかやる気が無い軽い鬱、プチ鬱の煽りを食らっているような、
いや、仕事の反動の怠け心ともいうべき、そんな眠気と思っていた。
しかし、眠気が強くなるに連れて何故か足腰に来た。
長い距離を歩くわけでもなく、普通に生活しているのに足腰に。
特に両足の脹脛から下が痛くて、年が明けてから下半身だけ別の体？
この背骨から腰、ひざの裏から脹脛にかけての重だるい痛みは、
一体どうしたものか？　と不安になるぐらいの痛み。
横になっていても眠れないほどの痛みが襲って来た。

眠気から痛みに移行したのか？
眠ってばかりいることに、眠たくなることに罪悪感？
眠気を要求してくる体、あっという間に筋力でも落ちたのかと思えるくらい、
それこそ「立っていることが辛い」ほどの痛み。
整骨院で「筋肉でも骨でも無い」と言われ、もし痛みが続くようなら
ちゃんと受診をと言われた程の痛み。
さて、どうしたものか。
平日の家に戻って、半日もすると脹脛の痛みが薄れてくる。
そして腰を中心に痺れるような鈍痛が残るだけになった。
不思議なことに、眠気が痛みになり仕事に戻ると消える。

仕事の最中は休みたい離れたいと思えるのに、
その場から離れると疲れや痛みが消える訳ではなく、
一時影を潜めたように静かになって、ぶり返す時は激しくなる。
まるで幼児帰りした長男長女のように眠気が、
そして痛みが我も我もと体によじ登ってくるかのよう。
戻らねばならぬ仕事を前にして、冷やかしにでも来ていたのか、
眠気が消えると同時に痛みもひいて行く。

眠気をあやつる本

トリガーポイントブロックで腰痛は治る!

そういえば今年の箱根駅伝、往路の最後のごぼう抜きが凄かった。
山登りのコースでどんどん追い抜いていく、あの「走り」は凄かった。
1年生で「上り」の怖さを知らないから走れるのだと、アナウンサー。
あの「勢い」は何だろう。突然現れるヒーロー。
いきなり破られる前例。抜きつ抜かれつゴールテープが切られ。

不思議なことに戻りたくないと思っていた日常が近付くと、
痛みがひいて行く。日常生活の中で澱のように疲れが溜まって、
痛みや過覚醒に繋がっていくというのに、いざ休める時間があると、
休めるはずの時間があるというのに、充分休むことが出来ないような痛みが来る。
いっとき妖精の粉を浴びて空を飛べても、ずっと楽しい事を考えていられない。
すぐに墜落してしまう、私は永遠の子どもではなくてただの大人。
疲れを知らぬ体ではなくて、予想外にすぐにばててしまう。

TVの中を走りぬく鍛え抜かれた青年を見ていると、ふと自分が60台半ばの頃、
彼らはその半分なのだと愕然とする。
その頃私はまだ仕事をし続けている？　それとも別の第二の人生を？
夢ではなくて現実の中を。痛みで目覚め眠れぬ夜を？
痛みで疲れ眠りに引きずり込まれる夜を？
次々に連想の尾ひれがくっついて、自分の時間が巻き戻され引き戻され、
ありもしない未来を夕暮れ黄昏色に染めて憂鬱にさせる。

日常生活に戻ってくると、当たり前の食事、仕事、片付け、愚痴に小言。
ささやかな喜び、悲しみ、交互に時には重なり連なり、
二度あることは三度あり、マーフィーの法則にのっとり、
失敗と成功が、希望と失望がミルフィーユのように折り重なり。
このパイ菓子は甘いとは限らない。
皮肉な大人、純粋な子供と割り切れない脆さの歯ごたえ。

日常が戻ってくると、特に非現実的な休憩の後は
急激に麻酔から醒める手助けをするかのように体が痛み、
眠気と交互に自分という殻のひびを繋ぎ合わせているよう。
痛みが体を意識させ、現実から逃避している事を意識させ、
休息に憩い切れない貧乏性な自分を追い立てて、
現実モードに仕上げている。そして馬車は走り出す。
かぼちゃの馬車ではなくて、自分を馬車馬に仕立てて。

そんな眠気と痛みにくるまれて、真綿を履いて棘を踏むような
休みの後の仕事前は、飴と鞭の変形バージョン。
眠気が続き眠気の次に眠れないほどの痛みが来て、
これが今年の冷え？　と思いきや引き潮の如く消えて。
「眠り」ではなく眠り疲れ、慣れぬ休憩に戸惑う体？
皮肉な宵っ張りのリズムが心地よい体に戻る。

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