「りかさん」から「太陽の戦士」へ
インフルエンザがやって来た。
まちがいなくこれは、ぽぽちゃんを裸にしたせい。
娘の枕もとを見てそう思った。バチが当たったんだよ・・・。
いつも、娘が横において寝ているお人形、ぽぽちゃん。
何故か素っ裸。いつもはちゃんとお洋服を着ている。
靴下も履いている。なのに、何故今日に限って?
そう思った日、娘は熱を出したのだ。
何だかすっきりしない、何か予感がすると思った昨日。
別に私は迷信深い人間ではないけれど、言霊は信じる。
ものの命は信じる。ご縁を信じる。
目鼻の付いている物を粗末にするのは怖い。
文字の書いてある物をまたぐのには抵抗がある。
踏むなどと、もってのほか。
人形遊びをする年齢でもなく、ぬいぐるみ大好きでもないが、
物を粗末にするのは、はなはだ抵抗がある。
何故ならば、お人形はヒトガタ。魂が宿る。持ち主を守る。
身代わりになる。邪険にしてはならない。そう信じている。
特に人形に執着しなかった娘が、保育園から小学校に上がり、
妹も弟も家にはやってこず、お姉さんに呼ばれることは無いと
意識し始めた頃から、見向きもしなかった抱き人形やぬいぐるみを
可愛がり出した。その中に横にすると眠り立てると起きる、
「ぽぽちゃん」がいた。
老母が元気な頃、ぽぽちゃんにお洋服を作ってくれた。
冬なのでしっかり着込んでいたはずのぽぽちゃんが、真っ裸。
娘に尋ねると、着替えさせて遊ぼうと思っているうちに、
眠ってしまったとのこと。ああ、それで風邪引いたんだよ・・・。
だから、インフルエンザだけれど、娘は元気。
ぽぽちゃんが守ってくれているんだよ。
風邪を引いたのも軽くて済んでいるのも、ぽぽちゃんのせい。
そんなふうに思っている私と、娘が借りている本。
私の大好きな『りかさん』、人形の話。
かつて私はこんなふうに書いている。
−−表紙に惹かれて手に取る人がいるかもしれない。また、「りかさん」って変な題名だなあと思って、手に取る人もいるかもしれない。私はそうでした。そして、この本が梨木果歩との最初の出会いになりました。もう何年も前、児童文学図書館で手にしたその当時、読書療法の勉強をしていた私は、ものすごいショックを受けました。
日本人の作家でこんな世界を書く人がいるなんてって。ホラーでもゴシックでもなく、きちんと魂の世界に向き合って、個人の魂の歴史も、家族の歴史も、民族の歴史さえも書き込める人がいるなんてと驚いたのです。それが、子どもの心に恐怖を与えるかどうか、ある意味微妙な世界のぎりぎりのところを描いているので、(影響力のある本は、読んだ後、内的なエネルギーを意外なところで噴出させるので)安易なファンタジーとして、甘く見る事ができない作品です。
今の子どもが失くしかけている心の世界、人と人との結びつき、自分のルーツ、ご先祖様の存在、日々の営みを重ねる大切さ、格式、因果、業(ごう)というものを無視して生きる事ができないということを、主人公の祖母と人形のりかさんは、淡々と教えてくれます。
生きざまや信念の確かな人の存在(モデル・守護者)と、人の魂の鎮めどころとしての存在(心の鏡・お守り)の両方を必要とする子供の成長を改めて考えさせてくれると共に、大人になった今もその必要性を感じます。また、この本を手にした子どもがもう少し大きくなったら、ぜひ「からくりからくさ」を読んで欲しいと思います。 −−
- 作者: 梨木香歩
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『からくりからくさ』が主人公とりかさんのその後だが、
余りにも難しすぎるというか、内容が深いので、
子供向きというよりは、中学生以上のかなり大人向けの内容。
でも、『りかさん』は、人形と主人公の少女の心の交流を通じて、
人間の世界の生きることの哀しみ、業のようなものを
人形の目を通して、人形を取り巻く人間の在りようを問うして描く。
さらりと描かれているが、「人形」を取り扱った物語の中で、
もっとも気に入っている作品。
今でも忘れられない、『りかさん』の世界の日本的で、
余りにも日本的なのに、日本的なものの外側から日本を味わっている、
そんな文体と構築された世界が気に入っていたら、
作者は、イギリス人に師事して文学の世界に深く分け入った人。
偶然、私の大好きなイギリス人の作家の作品が、
読売新聞夕刊に紹介されていた。「週間KODOMO新聞」のコーナー。
私の敬愛する、ローズマリ・サトクリフの作品。
私が人生の一番最初に読んだ、サトクリフの作品。
母が小学校4年のクリスマスのプレゼントに贈ってくれた本。
『太陽の戦士』(岩波文庫・猪熊葉子 訳)の紹介が。
ちなみに、ブログというものをまだ書いた事が無かった頃、
家人の入院中、眠れない日々。
私は幾つか思いつくまま読んだ本の書評(っぽいもの)を書いた。
頭の中にあるものを吐き出す為に。空っぽにする為に。
アマゾンの書評は、私にとって、気分転換の場所だった。
その時に『太陽の戦士』についても書いていた。約3年前。
−−小学校のクリスマスにもらった本だった。主人公は自分と同い年ぐらいだったのに、未来にとても怯えていた。片手で槍の練習をしていた。自分の猟犬を手に入れるために狩りに出ていた。獲物の白鳥がシチューになるというので驚いた記憶がある。まだ、歴史も知らず、青銅の刃と鉄の刃の区別が付かぬまま、異国の草原と羊飼い達の景色を心に思い描いた。
そう、思春期の入り口に差し掛かっていた当時、障害を持つ少年の孤独と成長が、違和感無く自分の心に入ってきた。成人への儀式、イニシエーーションである狼狩りとその失敗、チャンスと戦士としての再生、複雑なテーマだったので、何度も何度も読み直さなければならなかった。大学生になっても社会人になっても、いつも本棚にあり、読み返し続けている。
中学生では遅い。小学生からでも読める本である。未来への予感に怯え、自分に自信を持ちたいと願い、目標となる大人との交流・後ろ盾を必要とし、青年期を共にする親友を欲し、異性を意識し、一つ一つの試練と共に、子ども時代とそれに附属する人間関係に別れを告げ、戦士として成長していく主人公ドレム。時空を超えて彼の世界に触れてこそ、読書の世界は広がる。
作者、ローズマリ・サトクリフが足の不自由な女性でありながら、森林と羊の匂いにむせるような濃厚な自然を背景に、躍動感あふれる物語を書き上げたことに今だに驚嘆する。その孤独と葛藤は主人公に投影され、万人の胸を打つ自己実現への過程を、ベルティンの祭りの炎と共に照らし出している。ある種、読書療法的にも使える内容の濃い本である。独特の雰囲気を演出する挿絵と共に、大人も子どもも味わって欲しい。ケルトの薫り高い歴史文学の傑作である。−−
偶然。私の好きな本。
ぽぽちゃんが思い出させてくれた、梨木果歩『りかさん』の世界。
そして夕刊にサトクリフ『太陽の戦士』。
病み疲れてとまではいかないけれど、医者巡りで疲れた今日、
私の心に「元気」を思い出させてくれる本、間違いなくこれは、
偶然かもしれないけれど、不思議。
熱を出した娘と共に静かに過ごす時間。
親子揃ってのイニシエーションのような時間が過ぎる。
そんな時に遭遇した2冊の本。シンクロしている。
私達に、私の心に。不思議な偶然。
間違いなくこれは・・・。
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