Festina Lente2

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天使と悪魔

昨日の人権映画にも匹敵するような『グラン・トリノ
戦争への怒りと後悔、銃規制、平和教育、世界多民族共生の視点、
自己犠牲の崇高さ、世代間の溝を埋めるコミュニケーションの在り方、
色んな観点から楽しめる『グラン・トリノ』。
今日はそういうものから全く離れて、『天使と悪魔』
だから昨夜のうちにTVで復習た『ダヴィンチ・コード』。


世間は新型インフルエンザ騒動でどこにも出かけられない。
娘がお勉強を頑張ったご褒美にリクエストの『天使と悪魔』
宗教映画のように見えて、そうではない。
科学映画のように見えて、そうでもない。
要は、イタリア舞台の観光宣伝を兼ねたエンタティメント。
シャカリキになってバチカンカトリックに対する冒涜だと、
目くじら立てるまでも無い内容だった。


グラン・トリノ』の深い感動に比べて、
深刻な問題を抱えていそうな雰囲気の、巧みに作られた知的な娯楽映画。
ダヴィンチ・コード』の時よりも、幾分わかりやすくなった。
しかし、悪役に見えない一見端役が実は影の大物、
大悪党というからくりは前作と同じ。
それよりも、海外旅行から遠ざかった10年。
私の目にはイタリアの景色は懐かしく、バチカン市国も、
数々の教会も、彫刻も、ひたすら旅行気分で眺めた。


大方の日本人には馴染みの無いカソリックに関して、
基本的な解説が施されたパンフ。キリスト教信者といえども、
カソリック教徒でなければわからない部分もあるし。
昔々、教皇に謁見できる巡礼ツァーに参加したことがある。
スイスガードも姿も、広場も、巧みに合成された映像も、
深刻にならずに楽しめるのは、映画の世界とわかっているから。
宗教が科学をどのようにみなしてきたか、
科学と宗教がどのように対立しているか、
そういう視点で物事を考えることも可能であれば、
今回のような仮説や陰謀もあり得るという設定が楽しい。
陰惨でおどろおどろしいという印象は無かった。

天使と悪魔 (上) (角川文庫)

天使と悪魔 (上) (角川文庫)


映画の世界が小説や漫画の世界よりも遅れているせいか、
映像にしてしまうと固定化されたイメージで迫ってくるせいか、
冒頭のつかみに、セルンでのショッキングな殺人の場面も、
YASHA』や『イヴの眠り』を知る者には、網膜暗証解除で、
育ての親の生首をぶら下げる凄惨な殺人鬼を読んでいるから、
その二番煎じにしか思えないのだが。


それはともかく西洋の魔女狩りや牧畜の伝統ではあるまいし、
誘拐に焼き鏝、原爆投下を舐めているのかの笑える反物質の爆発。
吹き飛んでもおかしくないのに吹き飛ばない人々や建物、
命を落とさない悪役。一見悪役に見えて堅物の警護担当者。
振り回されるだけ振り回されるストーリー、
謎解きは狂言回し、それがわかっているからこそ楽しめる。


カタコンベコンクラーベイルミナティ・カメルレンゴ。
噛める連語!? 無茶苦茶な変換。言葉も面白いよね。
娘にとっては、正直な感想は「怖かった」らしい。
殺人シーンがそれぞれ異なる残酷さを伴っていたから。
殺し屋も怖かったそう。あっという間に警官が次々に襲われるし。
なるほど、そういう所を観ているわけだ。
こちらは殺し屋は結局口封じにあうだろう、
トカゲの尻尾切りは、パシリや汚れ役の宿命。
楽しみながらもその先を見ている。読んでいる。
そして、実際映画の中ではどうなるか検証。


オビ・ワン・ケノービ役以来、久しぶりにはまっている感じ。
ユアン・マクレガー。『アイランド』の時よりも遥かにいい。
かーちゃんは悪役になった俳優さんを楽しんで観ている。
娘はバチカンの図書室が目茶目茶になったと思ったよう。
あれは映画で作り物。なのに、本当に図書館が心配?
さすが図書委員というべきか、娘よ。
そんなにリアルな感じたの?


天使が堕天使になって悪魔になったのだから、
人間に善と悪が混在、同居していても当たり前。
最も神に近いはずの宗教家が最もあくどい。
今更そういうことに驚かない年齢になってしまった自分が、
ちょっと哀しい気がしないでもない。
映画の見方が子どもの頃と変わってしまった。
先入観の無い「わくわく感」とは距離があいてしまったかも。


何故か映画館は思いのほか空いていて、日曜日の昼間とは思えない。
ゴールデンウィークからこの方、初夏の最も爽やかな季節のはずの5月。
緑にけぶるはずの5月が、未知のウィルスに脅かされて大騒ぎの日本列島。
本来ならば密室のはずの映画館。マスクを忘れてきた私達。
物凄い音がする。? 映画の中の音じゃない。映画館の音。
ダクトから空気が流れる音? 空調の音? げげげげ。


天使と悪魔・・・。物事には常に表と裏がある。
古来「塞翁が馬」、人生万事塞翁が馬。
何が災いとなり、何が幸いになるかわからない。
人生も社会全体も、宗教も、科学も。
原因と結果の関係は持ちつ持たれつの限りない連環の中。


映画の中に見るのはスリルやサスペンスではなくて、
神の懐の中にあって、人間の愚かしさを体現する存在。
思考の存在に最も近い教皇侍従、父の息子でありながら、
天の父、現世の父をも凌駕しようと画策する存在。


『ダビンチ・コード』がとうの昔に失われたはずのイエスの血筋、
マグダラのマリアの系譜を蘇らせるような母系社会を反映するのに対し、
『天使と悪魔』は、父と息子の闘争、支配と被支配の葛藤、
マリア崇拝のカトリック世界にあって、シンボルに秘められ、
こじつけられ、深読みされた虚構、トリック、人の心のおぞましさ。
勇気さえもが保身のため、知恵と知識が人を欺く刃、
そのどんでん返しが、哀しく面白い。


そして、これで宗教や科学に興味を持ち、イタリアを旅する人が増える。
最終的には不況の中、これが狙いかな・・・。(笑)
残酷な場面もあったけれど、やはりエンタティメント、娯楽映画。
このままシリーズ化されるのかどうかわからないけれど、
まあ、教授が謎を解く、知的なインディ・ジョーンズって感じ。
派手なアクションは無いものの。
それでもって出てくる女性はみんな添え物。本当に脇役。
きれいだろうと、美人じゃなかろうと関係ない。
いてもいなくても映画の粗筋には関係ないって感じ。
女性じゃなくてもいいでしょうって感じ。


さて、目の前にぶら下げたにんじん。映画を観たぞ。
仕事仕事仕事仕事をしないとね。
お持ち帰り仕事の山だよ・・・。

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