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スター・トレック 

最初、この映画を観たいと言うと、家人は鼻先で私を笑った。
予告編だけ見て、それほど大した事ないんじゃないかと言った。
それなのに、私より先に観に行って「良かった」とのたもうた。
どうして観に行ったかというと、ネット上での評判が良かったからだとか。
時々こういう返答が嫌になる。
どうして自分が基準じゃないのかと。誰が何と言おうと見たい、
もしくは見たくないという、そういう姿勢はないのかと。


・・・それはともかく、観に行く気になったのは良しとしよう。
片意地張って頑固で、自分の考えを翻さないというのも困るから。
私の意見じゃなくて、ネットの多数決で観に行く気になったのは何ですが。
(相変わらず根に持っている私・・・)
というのも、私たちの世代にとっては「スター・トレック」は特別な世界。
むろん家人と私の間には微妙な世代のずれはあるものの、大差はない。
誰が何と言おうと、SF作品としての「スター・トレック」は存在感大。
「サンダー・バード」と同じく、人物設定・宇宙船・数々の冒険、
胸をときめかせる宇宙へのロマン。世界や人種を超えたヒューマニズム


とりわけ初代、オリジナルの「スター・トレック」の人物設定なくして、
続編や映画化、TVシリーズ化はありえなかっただろう。
今から考えれば、何度も再放送される深夜番組を切れ切れに見たに過ぎない。
なのに、何故あれほど熱中したのだろう。楽しかったのだろう。
きっと自分自身が若く、思春期のフロンティア精神を刺激され、
汎世界的な広がりに、ひたすら憧れていたからだろう。


サイボーグ009」にしても、メンバーは世界中から集まっていた。
影響を受けて育った私たちの心には、仲間、チームメイトは世界にいる、
世界中が自分の故郷、地球そのものが私たちの故郷。
そんな意識を掻き立てられるに十分な、あの若い頃。
ベトナム戦争が終わり、ミュージカル「ヘアー」で歌われる反戦は、
まだ小学生の私には遠い世界で、アポロつき到着の平和な宇宙開発が、
即自分の未来に繋がるような、幸せな錯覚の中で暮らしていた。


自分が「サイボーグ009」のメンバーだったら何ができるか、何がしたいか。
同じように、自分が宇宙船のメンバーだったら、どの部署でどんな仕事を。
そんな風に憧れていた私。醒めたタッチのブラッドベリが描く宇宙に心惹かれながらも、
自分はその鬱屈した思いに引きずられることなく、思い切って広い世界に飛び出せる。
そんな風に訳のわからない自信や野心のようなものを抱いていた頃。
そういう若き日を思い出させてくれる、この「スター・トレック」の世界。
エンター・プライズの処女航海。
あろうことかのタイムパラドックス
予期せぬ懐かしい俳優の顔を見た。
ミスター・スポックことレナード・ニモイ

スター・トレック (角川文庫)

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御年私の父と同い年のレナード・ニモイ。スポックとして強烈な個性を、
スタートレック史上に残した彼が、何と未来からやってきたスポックとして、
若き日のカークと遭遇する。それが、何とも言えない。
逆に若き日のスポックがバルカン星人と地球人とのあいの子、
ハイブリッドとして、アイデンティティに悩むシーンも胸痛んだ。
とにかく、若い頃の自分の傷を再確認するかのように、
老いた「スター・トレック」ファンは感情移入することになる。


いまだ見ぬ父を失うカーク。出生は父の死と引き換えになったカーク。
その荒れた若い頃の無鉄砲さは、ジェーム・ズディーンを連想させる。
自分の居場所を探す、なかなか認めてもらえない挫折感・苛立ちは、
私よりずっと上の世代の映画や小説の中心だった。
そういう意味では、映画の世界に自分の青春を省みることができる導入は、
なかなか渋いお膳立てだといえる。


後は仲間とどのように危機を乗り越えて、結びつきを強くしていくか。
自分の信念が、理想が、理論が、想像や期待が、どのように打ち砕かれて、
どのように再構成していかなくてはならないかの、あの頃の毎日。
それは、ある程度大人になっても年老いても同じ事が起こるのだけれど・・・。
老スポックが嘆くように、良かれと思って行動してもそれが結果を出せない事も起こる。
人の恨みや妬み嫉みを買って、辛い立場に立たされる事も。


職場の様々な軋轢も、こんな風に若さや情熱で解決できる、
すり合わされていくものであれば、どれほど組織が活性化されるだろう。
そんな楽観主義にも似た、荒々しい熱気に満ちた情熱、
困難に立ち向かう「やってやろうじゃないか」精神を、
懐かしく思いながら見ている自分がいる。
・・・年を取ってしまったなあ。


ネットで垣間見るカーク船長こと、ウィリアム・シャトナー
むろんオリジナル作品の・・・。何てみんなお若い。
ドクター・マッコイ役の彼は、もう鬼籍に入っている。
画面に残された、映像技術も稚拙な頃の作品の熱気が、
今また蘇ってきたのか、それとも懐古趣味なのか。


私たちの若かった頃。私の若かった頃。TVそのものが若かった頃。
SFの世界での通信技術、それが現実のものになっている。
瞬時に交信、翻訳、生身の人間はともかく映像やデータは、
即座に送ることができる。解析することができる。
未来は本当に一部が実現している。
なのに、退化しているのは、醒めているのは、失われているのは、
主体となる人間の荒々しいまでの楽天的なフロンティア精神。


折しもNHKのBS、西部劇が特集の今週。
地球上にはフロンティアを見出せない今、西部劇も、宇宙活劇も懐かしい。
昔は良かったのパターンに陥りたくないけれど、
TVで見る憧れの俳優達よりも、自分が年をとっていることに愕然。
だから、尚更老いたスポックが、先輩としてのスポックが、
レナード・ニモイが出演していることが嬉しかった。
ファンとしてだけではなく、同じように時間を刻んで、
人生の曲がり角に立って、年をとっていく人間として、
人生の先輩を見る思いで嬉しく感じた。
そんな今日。


体の痛みを忘れることが出来た、ひと時。
懐かしい音楽と、ナレーションと、宇宙へ旅。
ひとときプレ七夕、私の宇宙への旅。
スター・トレック」で寛ぐ夕べ。

スター・トレック・コレクション

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