スタートレック・ネメシス

仕事から逃れるために映画を見たくなる。『ネメシス/S.T.X』
本日BS洋画劇場はスタートレック新シリーズの最後を飾る、ネメシス。
何がって、やっぱり最近『スター・トレック』を見たので、つい。
私の世代にとっては『スター・トレック（宇宙大作戦）』という言葉の響きは、
『宇宙戦艦ヤマト』『銀河鉄道999』と同じくらい懐かしい。
条件反射的に見たくなる、そんな感じ。
しかし、新シリーズにはそれほど縁がなく、ネメシスを見るのは初めて。
おまけに映画化された時の記憶が無い。
娘が小さくて、育児で忙しかったからかな・・・。

当の娘が一緒に観たがるので、許した。
最終的にはデータ少佐が殉死、代わりに少々ポンコツな兄貴アンドロイド、
B-４（beforeの掛詞？）が生き残り、ダウンロード、コピーされた
データの中に、データ少佐の「データ」が生きているという設定が泣かせる。
人間はクローン、アンドロイドはデータコピー？
それはともかくとして、結婚をテーマにして始まる物語が、
本人も予期しないクローンの出現で、息子殺し・父親殺しのテーマを背負い、
女性・母親不在・蔑視の世界を描く所が微妙・・・。

アメリカの描く幻想も、とうとう自分の作り上げた幻影に独り相撲、
もしくは過去からの亡霊に祟られ、限りなき全身に翳りが見えてきたか。
そんな皮肉な見方をしたくなる設定ではあるが、娯楽映画としてはよく出来ている。
副艦長と結婚したカウンセラーの心の中に侵入する敵役、
心理的にも肉体的にも、クローンの持つ禍々しい側面、暗黒面を印象付ける。
「復讐（ネメシス）」とは、自分の出自に対するものなのか、
運命に抗うことなのか、DNAの出所を抹殺すれば自分が成り代われるものなのか、
なかなか意味深な題名の付け方だが、アメリカでは人気が無かったらしい。

私の世代から見れば、ヤマトの闘いを髣髴とさせ、
肉を切らせて骨を断つの闘い、自爆か自滅かの危うい選択、
尊い犠牲の上に成り立つ勝利というパターンに酔いしれるのだけれど、
本国ではもっと派手に、もっとすっきりと戦うスマートさが必要だったのか。
復讐、復讐の女神の名を抱く映画。
新婚旅行になるはずのフライトが、仲間を失う旅路だということ、
生み出すよりも亡くすこと、逢うは別れの初め、
さよならだけが人生さをSFの宇宙船の中に描いていて面白い。

いくら文明が進もうと、アンドロイドが開発されようと、
共有した時間を取り戻すことは出来ない。
存在した人間、仲間、同志を失った穴を埋めることは出来ない。
クローンが本物になれないのは、共有した経験値の差であり、
クローンとして生まれても別の人生を望まない限り、
相手に成り代わろうとすればするほど、悲惨さが伴う。

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データの爆死に涙する娘は、物語の世界に感情移入しやすい年頃。
喜々として解剖学実習に取り組んでいたが、目の前の組織は、
生きている人間のものだったということを実感できず、
おもんぱかる以前に、新しい経験、知識の吸収に胸が弾むばかり。
むろんこのような純粋に知的好奇心を満足させる探究心がなければ、
医学の発展はありえないし、研究そのものが成立しない。

見知らぬ人の死や不幸に涙するよりも、身近な物語の登場人物の人生、
その喜びや悲しみに同調し、世界を共有し、感情移入する方がたやすく、
目の前の現実を見極めて受け入れる方が難しい。
そんなギャップがあるからこそ、ある意味日常生活は見た目の平穏さに支えられ、
杞憂に苛まれて悶々とすること無く毎日を過ごすことが出来る。

アンドロイドの記憶・データは感情を伴い複雑に絡み合い、
日々成長することを願い、より人間に近づいていったという。
誰が世界に必要かという判断を瞬時にこなし、人を救い自分を捨てる。
その犠牲的精神が損得勘定に基づいた判断ではなくて、
人道的な見地、好悪の相混じった感情、相手への愛情と尊敬を含むのなら、
この場合、アンドロイドは人間と変わらない存在だ。

データの犠牲に涙する娘。ポンコツアンドロイドの下手な歌い声に、
データの片鱗を見つけて喜ぶ娘。私にとってはそんなふうに一喜一憂しながら、
映画や物語を楽しむようになって来た娘に驚く。
自分の半身、自分が産み育てた娘がこのように反応することに、
ある種の感慨を抱く。自分の記憶の底にある9歳の夏と比較する。
私は何を考え、何に感激し、何に泣き崩れ、一喜一憂していただろう。
クローンではない。でも、私のDNAを受け継いだ娘は、
私の何かを受け継いでいるのだろうと、ふと実感する夜。

再生、複製、それはDNAを用いて生殖を行わないのであれば、
データの保存、データの再生産、何かの片鱗を受け継ぎ残すこと、
生きていた証拠を未来に向かって連綿と残し続けること、
今、日に日に乳幼児期の面影を失い、思春期前期まっしぐらの娘。
似て欲しくない所ばかりが目に付き、鼻白む思いの多い日々。
物語の脇役の死に（今回はかなり重要な役）涙する娘に、
ほっとするような照れ臭いような。
かーちゃん名状し難い思いが去来する。

ただ単純に娘に受け継がれていきたい自分を思う。
それが、ネメシスの怒りに触れることなく、
視野の広い経験豊かな人生、実り多く、豊かなものであるよう心から願う。
宇宙時代の入り口、21世紀の素晴らしさをより多く実感出来る日々が、
娘の未来に、私の人生の先にある娘の未来にもたらされるように、
エンタープライズの飛び去る姿を重ねて思いやる。
私の見ること叶わぬ宇宙時代を見るだろう、娘の未来を重ねて。

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