Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

メリル・ストリープと大原麗子

休養したくても研修計画を遂行しなくてはならない。
しかし、家人が出勤、娘もキャンプ。プチ鬱と気抜けで半日居間に。
仕事の関係で借りてきた『プラダを来た悪魔』を見る。
映画館で見る事が叶わなかったので、念願叶った訳だが。
今年『マンマ・ミーア』でブレイクしていた往年の大女優、
昔の恋愛ドラマに欠かせなかった、メリル・ストリープ
その彼女が悪役をやったというので話題になった『プラダを着た悪魔』。


実は悪役をやったのに、若手のアン・ハサウェイよりも迫力、
若さを失いつつも、家庭と仕事で手一杯の女性陣から、
憧れとも応援とも付かぬ複雑な心境で受け入れられた、
鬼のような上司役が、健気に頑張る主人公よりも受けた。
興行成績も良く、(日本では考えられない)業界の雰囲気も、
アメリカナイズされた桁違いな公私混同のアシスタントの様子も、
仕事の苦しさ・凄まじさよりも喜劇の様相を呈していた。


原作の小説とかなり差があるらしいが、仕事に食いついていくガッツ、
今までの生活や理想との乖離、仕事に没頭し適応すればするほど、
得るものと失うものとのバランスが微妙になり揺れていく、
その極端なまでの変身(転身?)と華やかさに振り回されつつ、
画面を眺める午前中。その中に潜む偏見やワークバランス、
セクハラ・パワハラの要素、事例を探しつつ、映画そのものも楽しんだ。
そして思い出した。仕事に付いた頃、「スカートをはいて来い」と言われたこと。
しかし、そのスカートに、いちいちコメントがつけられて、
毎日の着替えに辟易としたこと。


そう、服装をとやかく言われるばかりではなく、
仕事をする相手の好みに合わせなくてはならないのかと、
うんざりした頃。2日続けて同じ服など着られない、
綺麗過ぎる服を着るには汚れる職場なのに、
無駄な出費と苛々しながら、妥協策として、
「おしゃれ」を捨てる決心をしたあの頃。
綺麗に化粧し、着飾るのが上手な「女性らしい」ことをアピールできないと
いくら仕事をしても駄目なんだとやけになったあの頃。


職場で求められる女性らしさは「自分らしさ」ではなくて、
職場で発言力を持っている人間の好みに、如何に応じることができるか。
現実、相手に合わせて仕事をするという事は仕事の無いようプラス、
如才なく相手に合わせて気を逸らさずに、「殿方を立てる」ことができるか。
そういう部分・要素がたぶんにあったあの頃。
なんと周囲に振り回され遠回りをしていたことか。
頑張ると「かわいくない」「無理している」「猪突猛進」と言われるのに、
転勤は結婚した人間から、独身でフルタイム残業オーケーの人間は、
使い回しの効く使い捨ての兵隊以外の何物でもなかったあの頃。


そんな昔の頃が苦々しく蘇る。
幸い今は、毎日服なんて変えなくても大丈夫だと思えるし、
(誰ですか、入る服が年々減って来ているかだなんていう人は)
家に居る時は本当に、野良着に等しいあっぱっぱで夏を過ごしている。
要はTPOさえわきまえて、スカートだろうがスボンだろうが。
パンタロンスーツの流行を中学生で迎えた世代の私。
この年になっても、スカートは苦手だ。
むろん、かかとの細いパンプスも。
それが個人的な好みを超えて、お洒落の主流ならやっていけない。

プラダを着た悪魔〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)

プラダを着た悪魔〈上〉 (ハヤカワ文庫NV)



メリル・ストリープが憎々しく我侭な上司、仕事の鬼、身勝手な母親、
今回演じる顔には、今までスクリーンで見てきた役柄を感じさせない。
恋愛の似合うしっとりした演技ができるのに、
押し殺した低い声で「That's all」。
そう、決して甲高い媚びた声でもなんでもない。
スクリーンを離れた私生活では、どんな顔を持っているのだろう。
『マンマ・ミーア』では40歳を過ぎたら映画の話なんて来ないだろう、
自分が主役になるなんて無いだろうと、語っていた彼女。


老いは誰にでも平等にやってくる。息の長い仕事を出来るかどうか。
運も巡り合わせもあって、何もかも手に入れる事は難しいし、
人生万事塞翁が馬だから、どこかで帳尻を合わせるのだろうけれど。
恵まれて華やかな生活を送ったから、その分最期は寂しくというのもどうか。
スクリーンやTVで美しく愛らしく華やかな活動が印象的だっただけに、
その孤独な死がショックだった、大原麗子のニュース。
老いは誰にでも平等にやってくる。しかし、病は。
病はどうなのか。


お酒の宣伝に出ていた彼女の「すこし愛して、なが〜く愛して」のキャッチコピーは
今でも覚えている。そして、『プラダを着た悪魔』のメリル演じるミランダが、
「2回目の離婚だわ・・・」と嘆いていたシーン。
大原麗子の結婚と離婚、闘病、死。
長く愛することが実生活では難しかったのか。
「人前に出られるような服は、みんな上げてしまって無いの」と話していたという。
そう、カメラの前で衣装を着るように、衣装が用意されるように、
私生活でも華やかに装うというのは大変なことなのだろう。
増してや、病気の身であれば。


映像の中の役柄と台詞と衣装と、二人の若い頃の姿、
オーバーラップし、絡み合って頭の中をぐるぐる回る。
私にとって1番印象的だった大原麗子NHK大河とラマ『春日局』。
ある意味、功成り名を成した、女の身ならぬ出世を遂げた物語。
その時の印象が余りに強く、今日の映画と重なる。
スクリーンの中では生き生きと若い姿で、あの頃のままで。
2歳ほどしか離れていない二人の女優の昔と今。


私には思い出になる「あの頃」の写真も何も一切無いが、
人前に立つことを生業として演技し続けた人の、
若く美しい姿が今も人々を魅了し続けていること、
そして、老いていく時もそれなりの感慨を与えていることに、
考えさせられる。役柄や仕事の仕方だけでなく、
生き方も死に方も感慨を与え続けていることに。


老いても活躍の場を得られる人生。
健康と仕事に恵まれる人生。
片や、病に苦しみ画面から遠ざかったまま逝った人生。
その寂しい晩年に涙し、冥福を祈りながら、
今日も仕事まがいの調べものをよろよろ続ける。
約束した集まりに少しだけ顔を出す。
娘はキャンプでどうしているか。
家族があることの幸せを感謝しながら、側に居ない寂しさを噛み締めながら、
今日、今週、やっと終わる。
大した事は何もできていないのだけれど。

マンマ・ミーア! [DVD]

マンマ・ミーア! [DVD]

居酒屋兆治 [DVD]

居酒屋兆治 [DVD]

ギランバレー症候群と闘った日々―完全四肢麻痺からの生還

ギランバレー症候群と闘った日々―完全四肢麻痺からの生還