複雑な心境

せっかく娘が帰ってくるというのに、お迎えに行けない。
仕事絡み、付き合い上、恩師、顔つなぎ、何と言えばいいのか。
朝からは土砂降り。電話をあちこち掛けても、確実な事はわからない。
とにかく、この雨の中を帰ってくるらしい。
決壊し、水路に水が溢れ、増水し、崩落で道路が寸断。
こんなニュースばかり入ってくるのに、お迎えに行けない。
幼児が入る時ってこんな時なのだ。
家人にお願いしてお迎えに。
そして、私は年に一度あるか無いかの義理を果たしに。

でも、複雑な心境。
そこで主に語られるのは、仕事に関することでも学問上のことでも、
何でもない、信じられないことに、近況報告がメインでもなく。
殿方の、ここでならばセクハラにはならないでしょうという、
暗黙の了解を求めた上での、たわいも無いシモネタ話。
酒肴があればそういう話の一つや二つ無いと、間が持たないのか。
それとも、本音というのはそういうところに出るのか。
その手の話を肴にしないと、酒が進まないのか。
大人がする話の、話の接ぎ穂にセクハラまがいの話題。

いくら仕事に絡んで「リーダーというものは、人を引っ張るだけではなく、
下から人を支えたり、人と人を繋ぐものもリーダーであって、
在り方は一様ではないのだ」と聞かされても、ねえ。
２０代ならばむくれて席を立っただろうが、
冷たく受け答えしながら「これも付き合いのうち」と思いつつ、
人の間にある今日は、いったい、どういう日なのだ。
複雑な心境。

優先順位をさて、娘のお迎えに回すべきだったのか、
この滅多に逢えない人に逢うのだからという判断をよしとすべきか、
かーちゃんは多いに悩みながら、仕事のうちと割り切る。
場を持たせることなく、場に馴染むでもなく、
恐らくこの年齢が、ひんやりした「気の利かなさ」でもって、
目立たない程度の頓珍漢を装って、
振舞うことを平気でさせるようになっているのか。

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娘や家人の好きなものを作って台所に用意してきた。
今頃ちゃんとお迎え、大丈夫かな。
ご飯食べているかな。疲れきっていないか、怪我していないか。
かーちゃんはあれこれ悩みながら、急いで家路に着く。
昨日から味付けしていた鯵の南蛮漬けは、口に合ったかな。
大好きなポトフ風味の野菜スープはどうかな。
食べる元気はあるかな。
とーちゃんとゃんぷの話、しているかな。

「もうすぐ着くからね。22時半過ぎには帰れるからね。」
元気な娘の声が電話の向こうに聞こえる。
「うん、わかった。今ご飯食べている所。美味しいよ。
　早く帰ってきてねー。」
その声に心底ほっとして、疲れも吹き飛ぶ重い。
お迎えに行けないことを、行けなかった事を、
仕事絡みの付き合いに、天秤に掛けられたことなど微塵も気にせず、
無邪気な娘の声にほっとする。

でも、恐らく誰もがこんな風に、都合をつけて仕事をし、
家族と自分の距離を縮めたり伸ばしたり、
振り子になって揺れたり、どうしようもなく束縛されたり、
水の泡だと、今までのことを犠牲にしたりしながら、
どうにかこうにか、やりくり算段しているのだろう。
それが優先順位、損して得取れ。
何も関係なくてもかまわないと割り切れないから、
顔を繋ぐ、顔を出す、しかし・・・。

そこで聞かされる話や、見せられる顔が、
セクハラまがい、セクハラ寸前の酒の席での話題であれば、
付き合いとはいえ、心は萎える。
「最近は冗談を受け入れてもらえる場も少なくてねえ」という、
本音と甘えの入り混じった発言にうんざりしながら、
こういう話題以外に座をほぐすことが出来ないのだろうか、
気心知れたお友達でもないのにと考える、私は固い？

職務の中にこの手の仕事があれば、尚更気にせざるを得ない。
仕事柄ぴりぴりしながら、仕事柄にこやかに応対しながら、
いつになればこんな複雑な心境にならず、相対することができるか、
その程度の相手だと思われているのだろうかと、落ち込む。
適当にいなされるような自分なのか、この年でも。
それとも、まだこれが親愛の情なのか、何なのか。
相手を図りかねながら、２時間を過ごす。

そんなかーちゃんの疲れをほぐしてくれる、娘のお土産。
緑色のすだちプリン。さわやかな味で美味しかったよ。
ありがとね。
さあ、明日に備えて寝ましょうか。
キャンプが台風で駄目になる事もある。
久しぶりの再会も、期待したことばかりではないのは当たり前。
気を取り直して、お盆の週。
私の夏休みも目の前。

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