Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

初・濡れおかき

食欲の秋。何が悲しいって・・・好きなものを好きなように、
好きなだけ食べられない。別に絶食だの、
欠食だの食事制限が掛かっているわけでない。
入院中でも、絶飲食のルート確保で点滴でもない。
でも、食欲の秋が楽しめない。
何と言っても歯を悪くしてから、食べる楽しみ半減。
総入れ歯ではないけれど、たった1本の部分入れ歯でも、
食事が楽しめない。ブリッジでも楽しめない。
何故か・・・かぶりつけないから。


食べ物はがっつくに限る。
特に美味しい食べ物に関しては、がっつくに限る。
エネルギーを一気に充填するためには、がつがつかっ込むに限る。
旅行中、いつ食べられるか食べ物が手に入るかわからない。
そんな昔の旅行中の経験、水を背負い数日分の食べ物を確保して、
予定の立たない日々の思い出、ふと蘇るお多福風邪の病床。


病人は固いものが食べられない。消化のよいもの、
吸収のよい物を摂取するのが鉄則。
だから? 林檎のすりおろし、水あめ、ミックスジュース、
梅干のお粥、カステラ、シュークリーム、だめだめ。
大きな口を開けられなかったお多福風邪の時、
イチゴ一個さえも口に入れることのできなかった、あの時。
熱が下がってきたのを幸いに、額に貼られた梅干が乾いてカラカラ。
つまんで口に入れて味わう酸っぱさと塩辛さ。


だめだめ、今の私に欲しいのは、子供の頃の元気な前歯。
シャリッと勢いよく林檎や梨を齧ったあの歯。
梅干を噛み砕いて、中の小さな実を取り出して、
まじまじ眺めてから食べたあの頃の、元気な歯。
あの前歯、あの奥歯が欲しい。
食欲の秋は歯を悪くしてから欲求不満の秋。
食べたという実感が口腔内から失われてしまった感じ。


料理をしても、柔らかいものを作っていたり、
小さく刻んでいる自分が嫌だ。
何も手間隙かけるのが嫌なのではない。
柔らかいものが嫌いなわけではない。
単に、堅いものを、固いものを、硬いものを、
噛み砕けない自分が嫌なのだ。

「水」をかじる (ちくま新書)

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またまた99匹の跳ぶ、這う、かじる仲間―昆虫たちの秘密の履歴書

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味わえない、それにもまして、噛み切って、噛み砕いて、
咀嚼できない自分の歯がゆさが嫌。
バリバリ噛み切って、がしがし噛み砕いて、
どんどん勢いよく食べて胃袋を満たすような勢い、
生きるためにがっついて食べるすさまじい食欲、
そんなものが消えてしまった、いや、消されてしまった。
そんな感じがして、がっくり来る。
生きるためのなりふり構わない勢いがそがれて、
文明人めいた食べ方や調理法にごまかされてしまった、
そんな気がしてならない、今の食べ方が嫌。


音をさせながら食べたい。元気な音をさせながら。
林檎でも梨でも、骨付き肉の骨を齧りながら、
髄の部分を噛み砕いて、吸い出して、
行儀悪いとわかっていても、がつがつバリバリ。
むしゃむしゃ、ぱくぱく。ごっくん・・・。
ああ、丈夫で元気な歯が欲しい。


この年にして知る。昔の老婦人、貴婦人、お上品だから
手でおかきを割って小さくして食べていたのではなかった。
煎餅・おかきの類を、手で割って小さな粉が散るのを、
膝の上のハンカチで受けたり、あらかじめ包んでから割ったり、
そうして「かけら」を口元に運んでいたのは、
礼儀作法でも何でもなかった。
齧るための歯が無かったせいなのだ。
(せっかく塗った口紅がはげたりするのを防ぐ意味も?)


そんな葛藤(誰? 大げさだと笑っているのは?)を抱えて、
食欲の秋、小腹の空いた昼下がり、職場の小テーブルの上に、
見慣れぬ食べ物の小袋、誰が持って来たのか、濡れおかき?
何? 濡れおかきとな? 何だ、それは。
そう言えば最近耳にするなあ、濡れ何とかって。
興味津々、口に放り込んでみると・・・面妖な感触。
味は「醤油味のおかき」らしいが、柔らかい。


あの、記憶の中にある醤油味のバリバリしたおかきではなく、
しっとりと口の中でおかきがひん曲がり、小さく噛み砕かれていく。
何なんだ、これは? 美味しいというべきなのか、
美味しいかもしれないというべきなのか・・・。
濡れおかき、初体験。空腹は多少満たされましたが、
手で小さく割らなくても食べられましたが・・・。
欲求不満が解消されたかというと、やっぱりノー。


というわけで、初・濡れおかきも私を満たすことなく、
誰が持って来たのか、おやつコーナーに忽然と現れたおかき。
未知との遭遇」とはなりましたが、満足度までは。
上品さよりも、礼儀作法よりも何よりも、食感にこだわる私。
変? 

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