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『サイボーグ009』と『ブレーメンⅡ』

仕事に疲れ、寄り道をするコンビニの本棚に分厚く赤い雑誌が見える。
発表されて半世紀近く経っても、相変わらず人気があるのか、
それとも私のような年齢層にアピールするからなのか、
ついつい手にとってしまい、買ってしまうマンガの類。
それが本日は、ダイジェスト版の『サイボーグ009』。
編集者の(好みで)集めたいいとこ取り、というわけ。


それにしても、リアルタイムで読んだ最初は『少年マガジン』で連載していた頃。
小学生低学年。確かTVアニメ化、映画化(同時上映は実写版『ワタリ』)もされたが、
いまだに人気衰えず、手塚治虫同様、石ノ森章太郎人気。(連載当時は石森章太郎
今の若い人には興味が無いのだろうが、コンビニに並ぶ所を見ると売れるのだろう。
私はついつい、娘と共有する話題を持ちたいがために買ってみたり、
自分のマンガ蔵書を紐解いてみたりはするのだが、
こういういいとこ取りアンソロジーは賛否両論はあれど、
ついつい手にとってしまう・・・自分の性(さが)が情けない。


昔から時代を追って絵柄が変わっていくのがわかる。
ストーリーも四半世紀を費やして未完のまま終わっている。
色んなエピソードから成り立っている『サイボーグ009
これを読んだのは20世紀の半ば過ぎ、いまや21世紀。
けれども、ここで想定されたようなSFの世界にはまだまだ追いつけない。
ブラックゴーストはともかく、戦争も死の商人も無くならず、
様々な能力を持つ超人は現れない。
せいぜいCGを駆使した映画の世界の中だけ。
(例えば封切待たれる『アバター』のように)


今日も今日とてボランティアを終えて帰る空腹の夜道、
本屋で見つけた『ブレーメンⅡ」の文庫版4巻。娘へのお土産。
家を探せば初版の大型本があるはずなのだが、探すのに時間が掛かる。
読んでいた頃は面白さだけに終わっていたけれど、
気が付けばこの作品は、星雲賞コミック部門、
センス・オブ・ジェンダー賞特別賞まで受賞ている。
単なる少女漫画、SF漫画で終わってはいない。
以前にも書いた関連記事は http://d.hatena.ne.jp/neimu/20090918

サイボーグ009 SUPER BEST~サイボーグ009 生誕40周年記念盤~

サイボーグ009 SUPER BEST~サイボーグ009 生誕40周年記念盤~


題名からして『ブレーメンⅡ』だから動物達の出てくる話と想像は付くが、
その後の展開が何しろ凄い。宇宙船の乗組員が、船長を除いて動物達。
差別や迫害、人間との確執、それのみならず、麻薬や男女同権、
アンドロイド、風水、神話、聖書、色んな要素が満載で、
突っ込みどころもたっぷり。知的好奇心を満たしてくれる作品。
その最終話、大団円を迎えるにあたり、今まで関わった人達が、
「働く動物」の権利を保障するという流れに・・・。


ジャックと豆の木」「やぎさんゆうびん」「第6の封印」
「黄泉国まで」「タイガー タイガー」「熊の親切」
「ドラゴンを探して」「長靴をはいた猫
こんなテーマで語られるそれぞれの話の中には、
笑いあり、怒りあり、悲しみも憤りも、心癒されるエピソードも、
はらはらどきどきするシーンも、簡略化されたかつての川原泉のペンタッチとは
やや異なるシャープさをもって描かれていて、
長年のファンとしては複雑な思いに駆られるものの、
そのストーリ展開にはぐいぐい引き込まれる。


最近のぐだぐだした、単に暴力的で救いの無い展開や、
何が言いたいのか主義主張もなく雰囲気だけで流れていくストーリー、
絵が下手なのか、わざとみんな同じ顔にしているの格別の付かない、
体系だけではなく頭の中身までもネオテニー化した作品。
そういう中にあって、単純な絵柄の中にも細やかな配慮や癒し、
力強いメッセージ性があり、性善説を信じ、
泣きながら歯を食い縛って耐えて頑張る者に、
拍手したくなるような、そんな話を肩肘張らずに書き続ける川原泉


親子で全作品を読んでいるので、辛い時も悲しい時も、
楽しい時は勿論、励まされる川原作品のエピソード。
思えば亀や熊が脇役としてストーリーの中に出てきた頃から、
(『森には真理が落ちている』『オペラ座の怪人』)
動物の世界に仮託して、人と人との繋がりの難しさ、
肌の色や主義主張の違いで必要以上にいがみ合い、誤解しあう人間を、
どうにかしてこの世を良い方向に変える事はできないだろうか、
そんな思いが満ちている川原ワールド。


生活苦から守銭奴になる青年と、私生児として叔母夫婦に育てられる少女と、
祖国を失ったフロイトが出てくる『フロイト1/2』、
父と兄を事故で失った葡萄園に手伝いに来る葡萄の精、
母親に駆け落ちされた幼女とその父が、一つの家族になる『美貌の果実』、
女性ばかりで作られる野球チームの奮闘『メイプル戦記』、
話の内容は全く異なるけれど、川原作品に共通しているのは、
登場人物たちの不遇な境遇、変えられない個性、傷ましい心の傷、
そういうものが再生していく過程を描く、作者のまなざしだ。


ただ優しいだけではなく、包み込むばかりでもなく、
顔で笑って心で泣くような、日本人的な笑みも、
がははと大笑いして暗雲吹き飛ばすような、実はから元気も、
人と少し違うとわかっていても、合わせ切るほど器用じゃない、
わかっていてもどうしようもないのでそのままを貫いている
そんな主人公達に、とても優しい。


ボランティアは決して楽しいものではない。
自分に何かできるかもしれないと思いつつ、
自分に何ができるのだろうと落ち込むことの方が多い。
そんな時、「悪を憎み、戦争を憎み、戦い続けることを辞めない」
サイボーグ戦士たちの姿を垣間見たり、
前向きに明るく生きていくことを諦めない、
人を恨まず裏切らず、自分のできることをさくさくこなしていく、
そんな『ブレーメンⅡ』の仲間達を見て、ちょっと癒される。


昔のマンガ、単なる思い出、ではなくて、
そういう作品に励まされつつ、今まで歩いてきたはずの自分を振り返り、
これからも頑張るんだもんね、と自分に言い聞かせたくなる。
そんな夜。ため息を吐き切って、明日を明後日を考える夜。
言葉とイメージで。

ブレーメン2 第4巻 (白泉社文庫 か 1-17)

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美貌の果実 (白泉社文庫)

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