Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

神農祭と道修町薬の資料館

自分の生活の基盤は仕事に吸い取られ、今や娘も大きくなり、
血と肉のふくよかな温かさが希薄になりつつあるこの頃、
自分の中の何を娘に与えることができるのか、立ち止まる。
もはや、自分のことがあやふやになりつつある老母と、
その世話で自分を律しつつ、老犬と老妻を世話する老父。
日常生活ではほとんどすれ違い、私が生活費を稼いでくる間、
彼らは寝起きし、会話らしい会話が無い。


宮城県人2世の私は、田舎の祭りも風習も、家族に伝えられる何か、
一族に受け継がれたかもしれない何かを知ることなく、この年に。
大阪に生まれ育ち、周囲との深い交わりもなく、浮き草のように育ち、
形に残らない、砂の上に字を書くような生業で生きてきて、半世紀。
普通の親よりも、子供と過ごす時間は確実に少ない。
普通の親よりも、地縁血縁が遥かに少ない。
そんな親が、子供に何を残せるのだろう。


そして、自分が仕事に追われどこにも行かず何も知らず、
年を取ってしまったことへの後悔が、
足元をいつ掬われるかわからない、落とし穴を塞いでの生活が、
アルバムに残せる思い出を、家族で行った場所を食べたものを、
てんこ盛りにしたいという衝動に駆り立てる。
自分はどこかで風のように消えて行きたいと思いつつ、
べっとりと張り付いて、拭い去る事のできない強烈な何かになりたいと、
矛盾した思いを抱えつつ生きている。

 


昨日今日は神農祭。少彦名神社の御祭り。
「神農さん」と親しまれている、中国で医薬の神様、神農氏をお祀りしている。
大阪の一年のお祭りは、1月の十日戎ではじまり、
神農祭は最後の祭りということで、「とめの祭り」なんだそう。
日本の薬祖神である少彦名命とともに、「神農さん」を祭る、
ここは大阪のキタ、ビジネスマンの町、北浜からほんの少し歩いて、
道修町(どしょうまち)。いわずと知れた薬の問屋街。
でも、30の半ばまでこの地名も知らずに読めず育った。

 


市内、街中の地名や祭りなどにご縁の無い、
生粋の大阪人でもない、宮城県人2世の、
毎日が仕事と憂さ晴らしのテニスに明け暮れていた人間に、
交通事故や病気で入院という厄年の洗礼がやって来た時。
大学以来の勉強を再び始めた頃に知った、道修町
家人・両親、愛犬シロ、そして自分自身、家族の健康を祈るため、
十分薬効に御世話になっている御礼も兼ねて、御参りすることに。

 

 


北浜は日曜休みの店が多い。なのに、今日はネクタイに縁のない人間、
庶民が溢れる道路、薬の空き箱連なる笹飾り、何故かトルコの屋台。
警備員も出て、参拝客の列整備も賑々しい日曜の町。
ビルの谷間に神社があるのが不思議なくらい。
それでも由緒ある道修町に鎮座増します、少彦名命と神農さん。
家人の干支である虎が目印、御参り後に家族全員のお守りを求める。
嬉しいことにおみくじは大安。家族の健康を祈り、感謝を捧げる。

 


 


社務所の3階は薬の道修町資料館。普段日曜は閉館だが今日は特別開館。
じっくり観ると面白い物ばかり。歴史、文献、経済、薬学、
色んな面から突っ込みどころ満載。ふと、娘と私が楽しみにしている、
江戸を舞台にしたファンタジー畠中恵しゃばけシリーズ、
主人公の一太郎の家は、病弱な息子のために親が集めた薬が商売、
薬種問屋を商っていたんだったなと思い出す。
お江戸の昔、道修町と全く無縁ではなかったはず・・・。

 


御参り後、張子の虎の付いた笹飾りを実家と家人宅に。
家人が寅年なのも欲しかった理由の一つだが、
このかわいい虎は来年の干支に関係なく、
「疫病除薬として虎頭骨等を配合し、虎頭殺鬼雄黄圓(ことうさっきうおうえん)
という丸薬を施与すると共に張子の虎を作り、神前に祈祷を行い、病除御守」
というありがたい張子の虎。

 

 


往時の商家の風習や扱った漢方薬、様々な薬剤、
販促グッズだったのか、薬と一緒に配られた体育の本。
薬の未来を予想した図など。本当にこんな薬が開発されたら、
医療現場も助かるんだろうけれど・・・。


どうして足柄山の金太郎さん? それから極彩色の健康すごろく?
問屋の装束、道修町に所縁ある谷崎潤一郎の『春琴抄』関連本、
じっくり観ると時間が足りないくらい。


 

 


お腹も空いて参りました。屋台で食べるのはちょいと寒い。
小雨混じりの空も晴れてきたものの、ちょっと腰を下ろす場所を求め、
堺筋から御堂筋の方へぶらぶら散歩。


御堂筋名物公孫樹の並木、黄葉をバックに張子の虎が。
でも、この周辺は大阪を動かす会社の居並ぶビジネス街。
バックにはどっしり大きな建物。
平日とは打って変わって、落ち着いた静かな佇まい。
いつもと異なる「よそ行きの顔」を見せる通り。
秋は静かに深まっていく。

 

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