Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

閉店した本屋

歯医者の帰り道、いつも寄る本屋に寄ろうとしたら、
なんと昨日で閉店。不況の波はここまで押し寄せていたのか?
かなり広く品揃えも良く、漫画は別のコーナーにどっさりとあり、
専門書もそれなりに、ビジネス街にあるから雑誌も充実、
通院する度にここで過ごして、本を物色するのが楽しみだったのに。
店には鉄格子、いや、シャッターが降り掛けていて、
その向こうにせっせと働く人々の姿が。
電灯は煌々と輝いているのに、本だけが姿を消して空の本棚が並ぶ。
その見慣れぬ光景に、虚を衝かれる思い。


棚卸ではなく、閉店の残務整理とでもいうのだろうか。
あれほど沢山あった本はどこへ? 
本の整理はというか、本屋の店員になりたしと思えども、
腰の悪き握力腕力胆力の無き者には、付いていけぬと
哀しく推し量らるる書店業務。
若きにーちゃん達が黙々と働いていたような。
ここの店員さんは愛想も良く、(そうじゃない本屋さんは多い)
買い物しやすいなあと思っていただけにショック。
不況の影響は、こんな客入りがいいと思われるビジネスビルの地下の
本屋にも及んでいるんだねえ・・・と実感。


今まで本屋へ入る道すがら見つめていた、かわいい写真。さようなら。
仕事と通院の合間、地下鉄に乗るまでの10分余りの空白を、
ぶらりと物色し、何冊か手に取り、時には買い求め、
帰りの地下鉄の中で読み耽り・・・。そう、仕事が忙しく、
精神的な疲労と老眼があいまって読む気持ちにならない時も、
「地下鉄の中の読書」用の本を調達という目的の為に、
欠かせない本屋だったのに・・・。

本屋の森のあかり(5) (KC KISS)

本屋の森のあかり(5) (KC KISS)

本屋の森のあかり(6) (KC KISS)

本屋の森のあかり(6) (KC KISS)



生活範囲、通勤・通院圏内の動線をはみ出して、
わざわざ遠回りになるような本屋まで出向くのは時間と体力のロス。
わかっている本ならアマゾンに頼んで宅配でOK。
ほんの中身を検分・下調べは、品揃えがそれなりの本屋でないと出来ない。
ああ、これで通院時の楽しみが減ってしまった。


その私が今繰り返し呼んでいるのは、先日も紹介した『海町diary』第3巻、
海堂尊の『外科医 須磨久善』。偶然、どちらにも医療に関する話が出てくる。
漫画の中に細かく心理描写された人間関係、
リアルなノンフィクションの中に流れる不思議な運命、
どちらも楽しみながら、あれこれ考えることができる。

外科医 須磨久善

外科医 須磨久善

すずちゃんの鎌倉さんぽ―海街diary (フラワーコミックススペシャル)

すずちゃんの鎌倉さんぽ―海街diary (フラワーコミックススペシャル)


今回『海街diary』第3巻「陽の当たる坂道」では、
小児科の看護師をしながら医師との不倫に悩み、最終的には別れ、
終末期医療・緩和ケア病棟の看護師を選ぶ、4人姉妹の長姉が主人公。
相手の医師は激務ゆえ妻との間に隙間風が吹き、すれ違いから心を病む妻と
悩みぬいた末に離婚、そういう設定。
心を病んだ患者なら接する事はできても、恋人の妻だと思うと憎らしくなる、
仕事と恋愛の間でゆれる女性の心を描き出していた。


むろん家族間の様々な思いも、1巻目から延々と続いているのだが、
漫画でありながら、現代の家族の在り方を上手く描いているなあと、
いつもいつも感心させられる。
その微妙な人間関係と心の揺れよりも、医師の仕事中心にシフトさせた、
外科医の成長と飛躍を乾いた筆で描いた作品、『外科医 須磨久善』。
それはそれで現代の心臓外科手術の歴史をおさらいした感じと、
少しばかりワイドショー的な、もしくは「プロジェクトX」的な世界。
リアルなフィクションと、ファンタジックなリアリズムを行ったり来たり。


仕事や家のことを思うと、胸がざわざわする。
「事実は小説より奇なり」であると思いながらも、
心身ともに揺さぶりが掛けられる事態に陥り、
消耗するだけの「揺さぶり」には、決して揺さぶられたくない。
避けたくとも、勝手にやって来るものの方が多い。
本の中の架空の体験・経験が、地道でかわり映えのない日常を補ってくれる。
それはそれでありがたい。本当の体験なくても、
何度でも味わえる、読み返せる、浸れる。それが読書。


現実は勢いに乗って買った本を持って歩くことさえ出来ず、
足の痛み腕の痛みから、郵便局から自宅に送ってしまう愚かさ。
買うのを我慢して、チェックだけしてアマゾンで・・・。
と思うのだが、「読みたいから買いたい」衝動はなかなか収まらない。
家の近くに本屋があれば・・・、と思いながら、
今日へ移転した本屋の別の支店たち、頑張れ! と祈る。
そんな午後。通院帰り。

新世紀書店--自分でつくる本屋のカタチ

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本屋さんの仕事 太陽レクチャー・ブック005

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