Festina Lente2

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神話絡み活劇(ネタばれ)

昨日の話の続き。
人間ドックの病院から急いで会場に直行したものの、
今年の五色百人一首大会は、娘にとっては不本意な予選落ち。
昨年、一昨年の記事はこちらから
残念ながら高学年の部、10勝か9勝でなければ予選突破できない。
娘は低学年の部で築いたビギナーズラッキー、
天狗の鼻を折られて予選敗退。この結果は致し方あるまい。


親ばかのとーちゃんかーちゃんは、喧嘩も忘れて休戦調停、
娘が落ち込み過ぎぬよう、景気付けにと食事と映画館へ。
パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々
突っ込みどころ満載の神話絡み活劇。
原作を読んでいれば、また異なる見方も出来たのかもしれない。
予備知識なして観て、見終わってから考えてみるに、
これはこれで結構ひどい話。


神々が勝手に喧嘩している。原因は相手の子どものせいだとなじる。
神々は子育てなんぞしていない。本能の赴くまま勝手に恋愛、
子作りに励み、子育ては人間に任せ、問題が起きると相手をなじる。
・・・さすが自由奔放なギリシア神話の神々だ。
世間からは浮いてしまう主人公達が人間世界に居辛くなり、
収容される施設、『訓練所』と名づけられているけれど、
古めかしい肉弾戦の戦いに明け暮れる場。
21世紀と相反する退化した神話的戦闘世界。
思うに神的(心的?)エネルギーを暴発させないよう、
神々の私生児を十把一絡げに収容した孤児院、収容所でしかない。


そこに主人公として据えられるポセイドンの息子、パーシー。
その出自を隠すために母親はロクデナシと共に過ごしている。
子どものために自分を犠牲にする母親像、
これもひどい設定。主人公が傷つくこと限りない。
訓練所でひときわ目立つ少女、アナベス。アテナの娘だという。
ギリシア神話ではアテナは処女神のはず。これもおかしい。
もっともアテナ自身、ゼウスの頭をかち割って武装して生まれてきたが。


そしてヘルメスの息子だというルーク。
父親の所から羽の生えた靴を盗み出し、
どうやら父親をぶっ飛ばしたいらしい彼。
最終的には親世代である神々を同士討ちで滅ぼし、
自分たちが新世代・次世代が世界の中心になって活躍する企てを抱く彼。
光を意味する名に反して、腹の中は真っ黒。
主人公パーシー以外、肉親を持つものは誰も出てこない。
神の子どもたち、デミゴッドの訓練所兼収容所は、
ある意味親に捨てられた恨みつらみが外に噴出しないよう、
結界になっているのではないかと思えるくらい。


若いエネルギーを無駄遣いさせ、欲求不満解消のために、
体力知力を使うシステム?と思うくらい、重い武具・剣・鎧・楯。
しかし、その中でリーダー格の反骨精神豊かなヘルメスの息子、
ルークは「最新型だぜ」と、パソコン・ゲーム機器を操っている。
肉弾戦にも仮想世界にも精通する辺り、聡明とされたヘルメス神の息子らしい。
主人公たちに武具を貸し与える親切心の裏側に、何が潜むのか。

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々 盗まれた雷撃

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々 盗まれた雷撃

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々〈2〉魔海の冒険

パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々〈2〉魔海の冒険



パーシーという主人公のネーミング、映画では早々にペルセウスを示唆、
英雄伝説、冒険譚が始まるよという伏線がわざとらしい。
この名は「仮面を見破る」という意味も持つ。
次々に慌しくなる自分の身辺。まあ、思春期はこういう時期だ。
子ども世界が音を立てて崩れ、自分の周囲に会った親世界、大人世界の
素晴らしさや力強さよりも、嫌悪し唾棄したくなるような現実が見えてくる。
何故自分が生まれてきたのか、その出自を問うて悩むのもよくあるパターン。
親と子、母と父の関係に思い巡らすのも当たり前。


自分自身を見つめ直す時期、それは精神的危機的状況と隣り合わせ。
それまで抱いていた世界と新しい世界をすり合わせながら認識する、
その過程は容易ではない。神の子でなくても、人間の思春期も同じ。
誰かの陰謀に乗らなくても、思春期は子ども時代に抱いた親の像を捨て、
自動幼年期と決別し、一人の人間として親に対峙するために、
自分を創り直す時期だ。それが、従来の物語の主軸である成長譚、冒険譚。
この手の映画や物語はその基本から外れることなく、進む。
子どもが主人公であれば尚更だ。


ルークというネーミング、これはあの有名な宇宙サガ、スペースオペラ
『STAR WARS』のルーク・スカイウォーカーを連想させる。
そして光も。すばやさを信条とするヘルメスの血筋、この辺が稲妻絡みか。
しかも物語の発端が「ゼウスの否妻が盗まれた。子どもなら盗むのが可能」
という仕掛けから、ヘルメスの息子は一番怪しい。
ヘルメスことマーキュリーは何と言っても、盗人の神、
生まれた時からアポロンの馬を盗むくらいで、冥界とも行き来できる。
その息子だから、最初から怪しいと考えて然るべき。
推理劇では「身近な見方を疑え」の鉄則を絵に描いたような、序盤。


もっとも勇者のクエスト、探求の旅には、試練には裏切りと謎解きは付き物。
その定番に乗っかっているに過ぎないといわれればそれまでだが、
旅の仲間が3人となるべきところを、神格を欠くフォーン、サテュロスが加わる。
グローバーが意味するのは、木立を守る人。
主人公の守護神だと自分で言う辺り、元々バッカスの隋人らしい役割か。


純粋で猪突猛進型の主人公、戦略的で切れ者の副主人公、
シリアスな話を盛り上げつつもガス抜きの役目を持つ道化、
えてして道化はトリックスターなので、物語のキーにもなる。
今回のマジックナンバーは3らしい。
オリンポスの神々の争い。ビッグスリー、ゼウス、ハデス、ポセイドン。
旅の仲間の3人。探すべきペルポセネーの真珠は3つ、
冥界行きの課題を3つこなさねばならない。


それにしても、メデューサはアテナに恨みを持っているものの、
ポセイドンの愛人だったこともあるはず。ヒドラもその一族。
どうも、ポセイドン絡みのこの物語、突っ込みどころ満載。
デミゴッド訓練所と称する収容所の教育係、ケンタウルスのケイロン。
数多くの英雄たちを教育した存在だったが、戦いに巻き込まれ、
確か、不死の身に毒矢が当たり死に切れず、
苦しさの余り不死を返上したという因縁曰く付だった筈。


そして、子どもが親世代を駆逐しようとする構図は、
ギリシャ神話「世界草創」のお得意のパターン。
それに、母親の誘拐、冥界への道行きはペルポセネー神話の構図。
神のものを「盗む」モチーフ。
あるべきものをあるべき場所へ返す構造。
指輪物語』もこうだったよね・・・。


神話や伝説って便利。どこか何かを摂ってつなげると、
あっという間にそれらしい別の新しい物語になる。
そして、現代的なモチーフ、無視された子ども、捨てられた子ども、
ネグレクトという虐待を、やんわりくるんでデミゴッド訓練所への収容。
それで子どもたちは救われるとでも?
原作を知らないけれど、神の子に生まれた子どもは親を選べないのに、
不幸な運命と向き合わなければならない。やれやれだ。
だから、光は影に転じ、聡明さは暗愚に、慈悲は我侭に堕する。
その逆も。


単なる娯楽映画で済んでくれてて良かったわ。
深読みしたくなるような場面がもっとあったら、悩む。
あちこちあら捜し、詮索したくなってしまう。
ちなみに、映画の公式サイトでは「ゼウスタイプ」と診断された私。
ガンガンに怒り倒して、周囲に雷を落とす辺りは当たっているかも。
とても12神の中央に座する度量はありません。
(家族の中で、体重だけは一番だとは思いますが・・・)
お気楽娯楽映画であれこれ突っ込めて楽しかったというべきでしょうか。


ちなみに、こんな戦いをせずに、100人一首カルタ取り。
娘は負けた鬱憤をこんな娯楽映画で晴らせたかどうか、
そちらの方が気がかりな親馬鹿かーちゃんです。

ギリシア神話 (図解雑学)

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ギリシア神話

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