Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

大阪音楽大学音楽博物館見学

大阪音楽大学音楽博物館。偶然見つけて以前から来たいと思っていた。
音楽教室をやめて、娘を新しい先生に付けようと考えている矢先、
音楽を楽しむ、色んな楽器がある、音楽の世界を広げようと誘ってみた。
最初、余り乗り気でなかったような娘も・・・。
ガイドツァーの先生の巧みな話術と、余りにも膨大な楽器の数々に圧倒され、
機嫌よく楽器に触って、弾いたり吹いたり音を出す楽しみに没頭。
良かった良かった、かーちゃんはほっとする。
やっぱり、月に2度しかないガイドツアー。
それも土曜日は月に一度、今日わざわざ来た甲斐があったと・・・。

私の当初のお目当てはこれ。このフィールドワークというものに、
いたく心を惹かれていたのだが、初めて来て見て、
その考えの甘さに反省した。国立民族学博物館並みに、点数が半端で無い。
じっくり観たいものがあり過ぎて、ガイドツァーとは別の日に見に来なければ、
何にもならない・・・と思い至った次第。
ちなみに、ツアーそのものは期待していた以上に面白く、
実際に楽器を触らせて下さる博物館側の太っ腹な展示に感謝感激。
フィールドワーク展は3月中なので、興味のある方は是非。


月に1度の土曜ガイドツアーの2時に間に合うかどうか。
何があったのか道が異様に混んでいてひやひや。到着すれば、
殺伐とした工場外の裏手、高速道路の側、入り口が分かりにくい。
思いのほか子どもも若者も様々な年齢層の人々。ガイドの先生も、
「こんなに大勢、それも年齢層がバラバラなのは初めて」と驚いている。
普段はもっと少ないのか・・・。そういう時のほうが良かったかな。
とにかく、わくわくドキドキ。


さて、まず、入り口のかわいい埴輪。そう、古代人が楽器を奏でる様子。
さすが音楽博物館らしい掴み。
しかし、この上品な佇まいとは別に、色んなものがある事を
後で知らされたのだが、正面、私の目に飛び込んできたのは、
バリ島のガムランの打楽器、それに魔女ランダやバロン。
そのジェゴグやその他の楽器たち。きらびやかで存在感のある大小の楽器。
20代に訪れた懐かしいバリ島での2週間が蘇る。
舞踊団ティルタ・サリのプリアタン村に滞在して毎日ガムラン
バロンダンス、ケチャ、ワヤンクリットに浸っていた日々を。

  

  


話の最初はなかなか恥ずかしい?形のスリットドラム。
「これを見せると、話の掴みになる」とのこと。
確かにインパクトのある形。楽器としては「そこ」を取り外して、
本体を叩くと・・・なるほど。形、エネルギーや力を秘めた楽器の本来の、
うむ、面白さがのっけから噴出しています。(笑)
卑猥で原始的エネルギーに溢れたものから紹介を始める、お茶目な先生。
音楽と民俗学的な発想、原始宗教は切り離せないから、
当然といえば当然か。


石笛(いわぶえ)、古代遺跡から出た埴輪、昔の絵画、数多くの土俗の人形、
そういうものから古代の楽器の在りよう、使い方がわかるという。
なるほど、楽器の歴史を辿っていく時、お土産物の人形一つ、
民芸品の土鈴や鳴子、根付に至るまで見逃せないわけか。
様々な収集品が所狭しと並んでいる。
何気なく棚の中から、ケースから取り出して音を出して下さる。
その所作は何気ないが、音をすんなり出すのは難しいものも。
それにしても、「楽器は触れて音を出してこそ価値があるからね」と
次々に色んなものを見せて下さるので、年甲斐もなく胸がどきどき。


古代の楽器は高周波の音が出るものも多かったらしい。
凧揚げの凧が民俗学的な占いの道具、
神の依り代(よりしろ)であったのは知っていたが、
音を出すもの、祭祀に使われた古代の楽器が神寄せ、神下ろし、
神掛かりを演出する科学的な根拠を持っていた事を改めて知らされた。
はじかれる弦、唸る凧、悲鳴のような笛の音、
音楽以前の宗教的な声明(しょうみょう)、賛美歌然り、
神と共にいます場の演出と考えれば、芸能と音楽の密接な関係も、
そこから始まったのだと・・・。


昔は知っていたはずのことが、日常生活に埋もれて久しぶりに聞くと
耳に新しい風になって吹いてくる。学生の頃の民俗学、音楽美学、
そういうものを学んだ頃の華やいだ気持ちが蘇ってくる。
質問されると答えられる自分も嬉しい。
心の脳のどこかで眠っていた学ぶことに燃えていた自分が、
音楽が生活の一部だった子どもの頃の自分が、
ぱちぱちと弾けるように蘇ってくる。

 

笛、鈴、見慣れたものが、長い長い歴史の中で受け継がれてきた
生活の中の一部である事を、形や音、使われ方などを通して、
ほんの少しずつ披露される。普段意識していなかった風鈴さえも、
置物として飾っていた土鈴や人形さえも、神々しく見える瞬間。

  

沢山あるフィールドワークの展示物を見る暇もなく、次々と案内される。
所蔵点数も金額的価値も馬鹿にならない音楽博物館。
何故なら楽器は実用品であると同時に芸術品・美術品。ましてや、
歴史的価値のある上に、名人の作となるものであればなお。
無造作に置かれているように見えるが、その手の専門家からは垂涎の的、
貴重な資料ばかりが展示されている。(こんな警備でいいのかと思うくらい)
例えば、ピアノの歴史に欠かせないチェンバロ然り、その他の鍵盤楽器
係りの方が軽やかに当時の曲の一節を奏でる。
博物館は一瞬にしての貴族の館の音楽サロンに。

 


イタリア語・ドイツ語でチェンバロ。フランス語ではクラヴサン
ハープシコードの仕組み。当時の鍵盤は象牙の白と鼈甲の黒。
貴重で取れなくなり、逆転して鍵盤の色が変わったとのこと。
音の強弱が付け難く、女性の楽器だった当時の鍵盤楽器
優雅な白い指が黒鍵に生えて、美しく見え、音楽に興を添えたのだとか。


 

 


バッハやハイドンが弾いた、ドイツはヴィルトマイヤーのクラヴィコード
シーボルトが持ち込んだというスクエアピアノ。(ターフェルピアノ)
ベートーヴェンが弾いたのと同じ、古典ピアノ。次々に紹介されていく。
音の強弱がどんどんつけられるようになっていく、ピアノの歴史。
鍵盤の模型を観ながら、その機能の説明。うーむ、専門的。

 


やがて話は弦楽器に。先生はどうやら弦楽器がご専門の様子。
楽しげに楽器を弾かれる。何と言っても、ピッコロバイオリンは、
まごうかたなきストラディバリウスとグァルネリのもの。
いとも鮮やかに弾き比べて音の違いを聞かせてくれた。
ストラディバリウスは明るく軽やかで広がりのある音色だったが、
グァルネリは深みのあるやや渋く、濃厚な香りのするような音だった。

 


その他にも変わったバイオリンの数々。ステッキの形のもの、
ストロー(ラッパ)が付いていて初期の蓄音機録音などに活躍したもの。
ヘッド(渦巻き)が女性の形のもの。何故目隠しの顔?
普段見る事のでき無い様々な弦楽器を間近に見ることが出来た。

 

 


ここから後は管楽器。さすが音楽家、管楽器もこなされる様子。
ホルンやサックス、身近な縦笛、様々な笛がずらり。
死んだ人の側で吹くという鼻笛も。何でも、食べ物を入れるのは口。
音楽のための息は鼻からということで、鼻笛があるのだそう。

  

カナリアに歌を教えたという笛。
だから笛の事をリコーダー(recoder)というのだとか。
見学者にも吹けるアルペンホルン。アルプスの山々にこだまするはずが、
みんなのプオプオ吹き鳴らす音なのがご愛嬌。
家族でチャレンジしてみたが、娘が一番上手だった。
吹き方か、肺活量か、いずれにせよかーちゃん、年齢を感じた。


 

このほか太鼓についてもその他の民族楽器についても大急ぎで説明。
あっという間の1時間余りが楽しく過ぎた。
もっともっと説明を聞きたかったが、それぞれ三々五々に散って、
色んな楽器にチャレンジ。というか、見たこと無いものが多くて。
アルマジロの皮を張ってあったチャランゴ。彫刻の施されたストーリーボード。

 


振り鼓やトーキングドラム、怖いものでは人骨を用いて作った楽器。
チベット密教の高僧の大腿骨で作ったラッパ、カンリン。
獅子?(龍?)の彫刻が施されていた。高周波が出て儀式を盛り上げるのだそう。
続々と並ぶいかにも人骨で作った楽器たち。
写真の奥に見える青い色を塗った振り太鼓、振り鼓も頭蓋骨。
処女と童貞の頭蓋骨をくっつけて、頭皮を張って太鼓の皮に。
鳥葬の国ならではの楽器なのか。

 


アフリカ楽器のコーナーで、太鼓に施された様々な彫刻、
意匠についての説明も民俗学的で面白かった。
日常からかけ離れた形容、それは神の力、人間以上のものを意味する。
性的な表現、誇張された形容も、繁殖・豊饒を願ったもの。
太鼓の音で部族同士の会話、語り部が語る物語の伴奏。
神聖な儀式に使われた様々な楽器たち。

 


中でも、ドレミファソラシドで表現し切れない音について、
「西洋の音楽は雑音を駆逐してしまった、失くしてしまった」という説明に、
心惹かれるものがあった。雑音の混じる濁った音、曖昧な響き、
それもまた音楽、貴重な民俗音楽なのだと。
確かに人の心がすっぱり割り切れることが無いように、
様々な思いに満ち溢れ錯綜している事を思えば、音も音階で表現する以上に、
複雑なものであることは否めない。

 

 


説明の後は、自由に散策。楽器に触れたり音を出して観たり。
または、ちょっとした指導をしてもらいながら。
娘は初めてのバイオリンに四苦八苦。
家人は昔取った杵柄とて、ユーモレスクの一節を奏でてみたものの、
ヴァイオリンから離れて幾星霜、思うような音は出なかったよう。
私はあちらこちらの楽器に目移り。芸術品としての装飾、
眺めているだけで惚れ惚れする形、フォルム。
あちこちの国を旅した気持ちになる様々な楽器たち。

 

ずらりと並ぶヴィオラ・ダモーレ。下は螺鈿の装飾も美しい、
演奏弦の下に共鳴弦を持つハリングフェーレ。

  

 


編馨(へんけい)、編鐘(へんしょう)。お隣、韓国の雅楽器だそう。
ちっとも知らなかった。たいそう大がかりな楽器だ。
西洋の楽器は知っているのに、隣の国の楽器を知らない。
これもまた、考えさせられる所ではある。

   

この大阪音楽大学を開いた永井幸次氏はクリスチャン。
賛美歌の伴奏をするオルガンをこよなく愛されたとか。
「魂を天に導き、神に近づきしめる」ものとして、
学内の自室にオルガンを置かれていたのだそう。

 


あとは、ワイングラスを濡れた手で触って音を出すミュージカルグラス。
娘は上手なのに、私の指が硬いのか下手なのかなかなか音が出ない。
高周波が出るので演奏が禁じられている所もあるとか。
楽器は呪具から発達したので、色んな作用を人間に及ぼす。
音も形も音色もメロディーも、全て人間に影響する。
マイメロディを求めて日々ケータイを手に持ったサルたちは、
もっともっと楽器の成り立ち、音楽の歴史を遡ってみるべきなのかも。


とても短時間で見て回ることは出来ない、楽しい音楽博物館。
お目当てのフィールドワークをじっくり観ることができず、残念。
時間があれば何度でも訪れたいと思える素敵な博物館。
皆さんも、いつかはどうぞ。ガイドツアーお勧めです。

 


実際の楽器の音を聞きたいという方は、最後に紹介したこの本のCDを。
『よくわかる楽器のしくみ』小学生から大人まで楽しめます!
(なかなか優れものの本。カラー写真にに音源付きですから)
我が家では早速買って帰り、余韻に浸りながらあれこれ楽しみました。
その楽器を使った名曲の一節を奏でてくれるので、たまりません。

CD付き よくわかる楽器のしくみ (図解雑学)

CD付き よくわかる楽器のしくみ (図解雑学)

CDでわかる 音楽の科学 (図解雑学)

CDでわかる 音楽の科学 (図解雑学)


おまけ:閉館後、家族でお風呂屋岩盤浴で1週間の疲れを癒して帰宅。
充実した1日でした。