Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

赤プリと歌舞伎座

この世で半世紀も過ごすと、賢くなったかどうかは別として、
あれこれ思い当たること、感慨に耽りたくなること、
懐かしく思い出すこと、残念に感じること、そんな事が増える。
ロキシー・ミュージックだったか、歌っていたのは。
共有できるのは過去だけだと。
そんな感じがどんどん増えてくるのが不惑以降。
娘の成長に紛れて自分の年を忘れることもしばしばだが、
いくら若い子ぶりっ子しようにも、すぐに限界がやってくる。
まず気力体力はもちろんのこと、記憶力に。


誤解めさるな。忘れっぽくなったのではない。
何かと言うと、昔の事をよく思い出す方の記憶力。
年を取った証拠だと笑われても結構。
実際、忘れていたはずの思い出が、何かの拍子にふと蘇る。
どこかのフランス文学の冒頭のシーンののように、
ある香りが幼い頃の記憶を蘇らせる。
新聞の片隅、ラジオの聞きかじり、ちょっとした走り書き、
小耳に挟んだCMのBGMや絵柄、雰囲気から、
どんどん溢れてくる脳内タイムカプセルからの呼び声。


例えば今日のニュース。最近の若い人には赤プリなんて言っても、
通じないかもしれないホテル。そう言えば、『ホテル』って題名の
連載漫画を原作にしたドラマも流行っていたっけ。
まだ20代だった頃、幼馴染みと言ってもいい中学時代の友人が、
お見合いから結婚へと話が進み、東京で結婚式を挙げることに。
新幹線の回数券をお車代として同封した招待状を頂き、
あれ? 挨拶したんだったかしなかったんだか、したような。
ハイな気分で「おら東京さ行くだ」新幹線車中。


赤坂プリンスホテルの旧館で行われた格式高い結婚式。
ぶったまげたの何のって、後にも先にもあんな豪華な結婚式に
招かれた覚えはないというくらい、豪華だった記憶が。
若さゆえ多少の花は添えたかもしれないが、
私は場違いと思ったくらい。赤坂プリンスホテルでの結婚式。
正確にはその披露宴の席に招かれて、「こういう世界」もあるのね的な感慨。


中学時代遊びに行った家は・・・テニスコートが取れる広さ。
友人の父上はピアノで「月光」を弾いていたっけ。
いやあ、もうそこからして私の日常からかけ離れた別世界。
それから10年以上も付き合い、(いまだに多少の行き来はあるが)
進学先も何もかも違えど、テニスを一緒に習い、
こちらが仕事に熱中している間、彼女は「お見合い」。
「嫁ぐ」というか、御曹司とまではいかねども、大企業に勤める人と
良縁整い、めでたく華燭の典。


折しもバブル期直前。何かと華やか、派手が当たり前?
当時の思い出と結びついている赤坂プリンスホテル
2次会3次会と宴は続き、新婚夫婦を残して、若者は徹夜で遊び狂い、
再びホテルで朝食。丸一日掛けて遊び倒して帰阪した土日。
あんなことはもう2度と出来ない。赤プリの昼、東京の夜、赤プリの朝。
今でいうオール、オールナイトの空騒ぎ。

ザ・ホテル―扉の向こうに隠された世界 (文春文庫)

ザ・ホテル―扉の向こうに隠された世界 (文春文庫)

一度は訪れたい東京の憧れホテル (SEIBIDO MOOK)

一度は訪れたい東京の憧れホテル (SEIBIDO MOOK)



赤坂プリンスホテル。ニュースによれば、2011年3月31日をもって終了とのこと。
施設の老朽化、新しい設備を持つホテルとの競合に敗れたか?
歴史的価値のある旧館は保存。当時は何も知らなかったが、
旧朝鮮王家の邸宅として建てられた旧館は、各政党も事務所を置いたらしい。


似たようなニュースが同時に流された。
江戸文化の象徴である「歌舞伎座」(1951年開場)の建て替えの為の閉場。
30日には閉場式。グランドプリンスホテル赤坂の閉館が公表された今日28日、
現在の歌舞伎座では最後の公演となる「御名残四月大歌舞伎」が千秋楽。
周辺には名残を惜しむファンが詰め掛けたとのこと。
とうとう一度も行くことなかったなあ。
いや、行ったことは行ったっけ?


20代の頃、学生料金が安かった歌舞伎を見た記憶があるが、
それも曖昧。当時は母も健在で好きだった歌舞伎を一緒に観に行ったが、
殆どが大阪でのことだから・・・。
記憶は曖昧だが、ぼんやりとした懐かしさ、
何であれこれ熱中? 背伸び? エネルギー? 
振り返ると遊びも学びも一緒くただった若い頃のバブルな思い出。
その枠組みを支えてくれたハードな部分が老朽化。


こちらの体も心もなかなかポンコツになってきた更年期、
建て替えがきく建物が羨ましくもある。
アンチエイジングなどという言葉が流行ではあるけれど、
私には『サイボーグ009』を支えるギルモア博士はいない。
建て直しも作り直しもきかないこの体一つ、身一つで、
後何十年か何とか持たせなければならない。
赤坂プリンスホテルを知らない人が、歌舞伎座を覗いた事のない人が、
大勢いるのが当たり前の大都会、21世紀。


思い出は増えていくのに馴染みの場所、思い出の場所は減っていく一方。
これが年を取るって事の一部、年を重ねていく事の代償。
何だか不思議。少しずつ失くして行く事が、当たり前になっていく。


−−−−−−−−−

今日の聖句 2010年 4月28日 神は光
「その苦難の日々の後、たちまち太陽は暗くなり、
 月は光を放たず、星は空から落ち、天体は揺り動かされる。
 そのとき、人の子の徴が天に現れる。
 そして、そのとき、地上のすべての民族は悲しみ、
 人の子が大いなる力と栄光を帯びて天の雲に乗って来るのを見る。
 人の子は、大きなラッパの音を合図にその天使たちを遣わす。
 天使たちは、天の果てから果てまで、
 彼によって選ばれた人たちを四方から呼び集める。」
           (マタイによる福音書24章29〜31)


世の中も世界でさえ作り変える必要があると、
昔から神様の評価基準をクリアを必要がする。
まして、人間界のホテルやその他の施設をや。
思い出などという感傷、蓄積された記憶の小さな噴火、
それがどれほどのもの? そう思いながらも振り返る事が増える一方。
忘れていてもいいはずなのに、振り返りたくなる事が増える一方。
なのに新しい事がどれほど蓄積されている?

ホテル ミレニアム・サービス編 1 (ビッグコミックス)

ホテル ミレニアム・サービス編 1 (ビッグコミックス)