Festina Lente2

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文字の海の向こうに

ひたすら文書作成にいそしんでいる。
仕事だから。
尻に火が付くとはこのことで、作業に追われている。
期日のある仕事なのに、なかなかはかどらない。
予定は目白押し。
やらなければならないこともやりたいことも。


時間が無い時は経験が役に立つ。若い時にはできなかった要領、
それ以上に上手な手抜きや省略があればもっと嬉しい?
諦めと打算で塗り固められた仕事をしているのではないか、
そんな危惧を抱きながらも、進めなければならない事を進めていく。
使い捨てにされないようにと願いながらも、
沢山の文字も、文字列も、文字の海の向こうに、彼方に消えて、
本当に役に立っているのかいないのか、実感が希薄になり、
文書を作る自分自身が使い捨てにされているような気分になる。


作業と言えばいいのか、知的作業といえば聞こえはいいが、
不毛な作業だと言われれば否定できない、文書作成。
大量に作られて大量に廃棄されていく、一回性のもの。
消費と言えばそれまでだが、それまでに掛けられた労力は?


不毛と感じながらも続けなければいけない。
当たり前の作業、仕事の中に、文字列、文字の海を眺めながら、
その文字の向こうに同じように不毛な群れ、虚しい群れを見出す。
毎朝毎晩の画面から、新聞から、ラジオから、目の底、耳の底に、
届く不毛なニュース、哀しく虚しい知らせの数々。


罪も無く殺されていく動物、それも大切に育てられ、人の役に立つはずの、
牛や豚の群れが、文字列の向こうに並んでいるような気がしてくる。
自分の仕事のなかみに思い入れが希薄になった時、
自分の立ち位置が揺らぐような瞬間、
文字は人に、動物に、ものに、あらゆるものに化けて視界を覆う。

日本の神話・伝説を読む―声から文字へ (岩波新書)

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ロジカル・ライティング

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家族同様に育てられ、手間と時間と愛情と、仕事としての遣り甲斐・生き甲斐、
その延長線上にあった生き物、動物が、殺処分消えていく。
画面上のワイプアウト、デリートキーの一瞬の押し間違いでは許されない、
復元可能ではない、非可逆的な処分が、精魂込めた仕事を、
それまでの何もかも無為に帰され、非難され、白眼視され、
言われもない汚名の元に叩き潰されようとしている。
病だから、伝染するからと沢山の命があっさりと切り捨てられて、
尊い犠牲だから、他を救うのだからと、実質見捨てられていく。


人間であれば殺処分というわけにはいかないだろうに。
伝染性の病だからと映画の中の話のように、実験材料、処分、
そんな単純な経緯で扱われることは無いだろうに。
まるで大地震が起こってその地域を破壊していくように、
生き物の命も、人の生活も根こそぎ消えていこうとしている。


写真でみる農耕と畜産の歴史 (「知」のビジュアル百科)

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ふと、娘との会話を思い出す。
10歳の娘でも、ひこにゃんのふるさと、滋賀の近江牛は、
宮崎からやってきた子牛たちが育てられて、ブランド牛として、
食と観光を支えているのだと知っている。
去年今年と旅行して、美味しい食事を味わった娘は、
近江牛のルーツを知り、食べ物のルーツを危ぶみ、
日々のニュースに胸を痛めている。


世間ではふるさと納税で地方を助けようの動き。
担税能力の有無は別として、納税をどのようにするのか、
単純に寄付を集めるのか、それはどうなるかは別として、
娘も私も何かできることはあるはずだ。
仕事をしながら、仕事から遠く離れて虚しい文字列、
文字のの海に沈みこみ、窒息しそうになりながら、
ふと思い出す娘との会話の中に、
生きている人間としての自分に気が付く。
まだ何かできるはずの自分に気が付く。

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