Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

『阪急電車』と『喋々喃々』

最近軽い本ばかり読んでいる。
たまたま関西と関東が舞台の内容、少々対照的だったので、
抱き合わせとして読む恋愛話にはなかなか面白かった。
本を読むのに「抱き合わせ」なんていう表現はおかしいかもしれないが、
読んでみて何だか一対の面白さを感じてしまった。


阪急電車』に関しては、自分が学生時代に使った電車でもあり、
その舞台がかつての生活に密着していたので、少々違和感があった。
話の中が軽く、明るく、「あ、かるく」描かれている部分と、
重たく暗くきつく描かれている部分と、電車の揺れや乗り合わせた乗客の、
背景となる人生を思うと少々リアルに思い出が蘇って来て、
あっさり読みすごした割には、その後の読後感が重かった。


何しろ私が知っているのは、阪神淡路大震災前の阪急今津線沿線。
阪急は神戸線宝塚線京都線・千里線と今津線に分かれる。
学生の頃きらびやかな身なりの美しい学生が行き来する神戸線
質実剛健なのかもしれないけれど、何故か地味な宝塚線
どうして京都に行くのに京阪ではなくて阪急なのか理解できなかった京都線
千里線に至っては地下鉄で千里中央ならいざ知らず、淡路島でもないのに、
淡路で乗りかえってどういうこと?の世界。


今津線西宮北口で乗り換え。今でこそ駅は建て変わってしまったが、
立体交差の駅で有名であり、宝塚音楽学校の生徒、
神戸女学院関西学院の学生で賑わう駅。
震災前の景色を知るものにとって、思い出は尽きない。
その複雑な過去をぺらりとはがしたように、塗り替えられた小説。


今津線を舞台に小説が、余りに?随分庶民的で・・・というか、
いかにも万人向けに書きました、それも、10代から20代に受けるように、
という描きっぷりに、その雰囲気に付いて行けなかった。
よく書けている小説だとは思うけれど、男性の目。男性の視線。
女性のようにも見えるけれど・・・。(よく考えてみたら、
作家は女性だったのにそう感じてしまった自分は・・・?)
これが世代の差? 作家の視線・描写から受ける印象に、
女性よりも職場で感じるような若い男性の感覚を
感じてしまっっている自分って・・・。


そして今津線だけを取り上げているのに、
阪急電車』なんて題名を使うなんて、許せない・・・。
そんなやるせない感覚に襲われてしまった・・・。
おそらく私の阪急電車は、震災前のイメージが強く、
作家の描き出す世界に、震災後の復興イメージが織り込まれているから?
話の中の老婦人ほどの年齢でもなく、おばちゃん世代の私。
ブランド物に無関係な人生、きらびやかな神戸線沿線が眩しかった昔。
それを思い出したから?


その後、『蝶々喃々』を出張の合間に読んだ。
昔、20代の頃東京に出張した時に訪れた谷中・鶯谷界隈。
ディズニーランドになんぞ見向きもせずに、
地図を片手にせっせと歩き回ったあの情熱は何だったのだろう。
大名時計博物館も、朝倉彫塑館も、今も心の中に鮮やかに残っている。
そう、あの出張は春も浅い頃だった。
何故か空に爆音轟き飛行機が飛び、見上げれば
曲芸飛行のようなことをやっている。眺めていたら、
「ハルガキタヨ」とカタカナで、薄ぼんやりした空に文字が描かれた。


湯島の聖堂、上野も寛永寺も、何で電車に乗らずに、
地図を見ながら歩いて回っていたんだろうか。
不忍池下町風俗資料館も、国技館界隈の手焼き煎餅の店も、
JRのガード下の小さな喫茶店のランチも、みんな懐かしい。
東京に出張というとお洒落な町から遥か離れて、
ぐるぐると路地裏を歩き回り、森鴎外の邸宅跡、
樋口一葉の、あれは芭蕉記念館と歩きに歩いた、
そんな思い出を髣髴とさせる、『蝶々喃々』。


要はマイナースポットのジモティ(地元の人)の御用達、
おいしいものどころ、ちょっとした名所、そんな乙女心、
というには何だか女性雑誌の文字版みたいな感じのする、
そして、渡辺淳一がややソフトになったような感じの話の展開、
食と性をなだらかに描いて、プラス、ファッション。
それもレトロな町並みにしっくりくる着物の講義付き。
そんな大人のデートをしてみましょ的な書きっぷりに、
20代から30代向けを狙った本だと半ば突き放しながらも、
昔の町並みを懐かしく思い起こして読んでいる自分が居た。


許されない恋も、叶わなかった恋も、
全てを街中の景色に溶け込ませて、
しっとりと描き出すのも、「袖触れ合うも他生の縁」と、
ケータイ世代向けにオムニバス形式であっさり書き切るのも、
どちらもまあ、軽い読書として楽しめることは楽しめる。
そう感じていることに、トシを感じてまた落ち込んだりもする。
そんな自分がいるのだけれど。


そう、こういう恋愛をしてみるのもいいね、若い方々。
恋愛には指南書、モデルケース、憧れ、夢が必要だから。
現実がどれほど過酷でおどろおどろしくても、
一度は甘い夢を見て、理想をなぞって背伸びして生きるのも悪くない。
だから、この本も悪くない。デビュー作に比べれば人を刺す棘が無い。
抱き合わせには、いいかもしれない読書。
上手に恋を捨てるために、素敵な恋に出会うために。
そして、死んだ人とではなく、生きている人と生きていくために。
「抱き合わせで若い人向けの本」だと、ほほえましく読み過ぎた。

阪急電車

阪急電車

喋々喃々

喋々喃々



人を恋うる気持ちが無くなったわけではないが、
好いた惚れたのすったもんだやおどろおどろしいほどの濃密な恋愛、
体全身を絞っても絞りきれないほど涙に暮れる悲劇からは、
遠ざかって久しい。久しいというか、距離を置いて暮らしている。


万事人様より遅れて気が付いた時には何処にも誰も居ない。
今から思えばあれは精一杯の気持ちの表れだったかもしれない。
人があれこれお膳立てしてくれていたのかもしれない。
そんな人生の機微も知らず、自分の目の前の思い込みだけに執着し、
相思相愛だったにもかかわらず、どちらも何も言わぬまま、
気が付けばとんびに油げさらわれたような、
逃がした魚は大きかったというべきか、
悔やんでも悔やみきれない思いをするのが嫌で、
真っ当な人間で居ることをやめていた期間も長かった。


自分という人間に自信が無く、流されがちなくせに、
仕事だけは手放したくないというアンバランスの元、
気が付けば、心優しい気遣い目遣い言葉遣いの一つも無く、
なりだけはでかく年を取っても、ウブというにはとうが立って、
にっちもさっちもいかない、融通も、愛想もこそも無い、
煮ても焼いても食えないかわいげの無い奴。
そんな毎日をかろうじて送っていたのだが、
捨てる神あれば拾う神ありで、
お互いの悪い所はいいっこなしよの相手と、何とか暮らしている。


神様がどんなご褒美をくれるか、人それぞれ。
価値観が違うので、隣の芝生はみな青く、
飢えと乾きはおさまらぬのが人の世。
加減というもの、満足というもの、得心が行くとなると、
自分ばかりが損をしたような気持ちになり、
早めに手を打った短期損気な意気地なしのようにも思え、
のんびりと構えていると、鈍重で鈍感な野暮天。
気を利かせようと慣れぬことをして、頭隠して尻隠さずの失敗。
ここ一番という所で、してはならぬ失敗を繰り返して頭を抱える。


何度も同じことを繰り返す。
失敗が身に付いてしまったのか、
失敗を失敗とも思えぬようになり、
生活を塗り直していくことになるのか、
人を恋うることの純粋な疼き、痛み、激しさ。
ある時は熱く、ある時は冷たい、その情熱を通り過ぎて、
食べ物やファッション、乗り合わせすれ違う電車の中での人生。


一瞬のうちに目の前を通り過ぎていく、
二度と戻らない時間を、振り返らない強さ、
そんな生き方を、反芻し、過ぎていく読書時間。
こんな時間も悪くない。
恋愛から遠く離れて、年を取ってしまっていても。

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