落雷と停電とそれから
仕事中に雷が落ちて、苦労して作画していた図が飛んでしまった。
幸いなことに途中までバックアップが残っていたものの、
雷で停電なんて久しぶりの経験だ。
先ほどから不穏な音を響かせていたこの雷を面白がって、
稲妻から何秒で音がするか数えていた先輩、1,2,3、
3秒、近いね、なんて雑談していたら、まさか停電とは・・・。
書きかけの図でよかった。長い文章ならば目も当てられない。
最近のパソコンは性能がいいから、自動バックアップも万全だが、
昔はこうじゃなかったので、ちょくちょく悲劇が起こったのを目撃したことはあった。
が、まさか自分がパソコン使用中に、バグではなく、
突然停電で電源が落ちたのは生まれて初めての経験だった。
派遣社員が涼しい顔で仕事を続けている。
みんな停電でコピーさえも止まっているのに?
さもありなん、彼のノートパソコンはバッテリーで動いていたのだった。
うーん、でかいパソコンはこういうときに劣勢だなあ。
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停電なんてもうしばらく経験していない。
昔はよくあったのに。そう、日本だって、停電は珍しくなかった。
子供の頃、夜の闇が怖くて懐中電灯を枕元に置いて寝た。
豆電球は子供の睡眠を妨げるので良くないらしいが、
豆電球がついていないと怖くてなかなか眠れなかった。
それに、夜中によく目が覚める子供で、お月様を眺めながら、
空行く雲を随分早く動くなあと思ったりしていた。
そう、停電の夜、そういう真っ暗な夜は珍しくなかった。
昼間、ブレーカーが落ちるのも珍しくなかった。
暑い中、クーラーのせいで、寒い時電気ストーブやドライヤーのせいで、
停電どころかワット数以上の接続で、線が燃えた事もあった。
電気を使い過ぎると、電気がへたる。そんな生活から遠ざかり、
本でさえもケータイや電子ブックの時代になって、
蛍雪の功なんてどういう意味だかわかんない時代になって、
突然パソコンやケータイが使えなくなったら、世の中大パニックなんだろうな。
数分の電気のない生活、パソコンが回復して文書類を確かめる。
問題なくバックアップから仕事を継続する、午後。
終業前のアクシデントで、後もう少し、
きりの良い所で終わりたかった仕事が終わらない。
ま、世の中こんなもんだ。
いつもと違う新鮮な経験の代償。
稲光り わたしは 透きとほらねば ならぬ 富沢赤黄男
火の島と 銀河を 照らす いなびかり 野見山朱鳥
光る速さよりも早く心が老いて行きそうな、
すとんと落とし穴に落ちるような、そんな最期を観る白昼夢。
パソコンの画面に命が宿っているならば、突然訪れる真っ暗な画面、
自らの空白をどんなふうに意識するだろうか。
機械は再び立ち上がる「生」もあれば、強制的に終了させられる「死」もある。
さて、自らが透き通っていかねばならぬ時とはどんな時ぞ。
火の鳥のように永遠の命をもち銀河の彼方まで往くことの出来ぬ、
限られた命の人間の私は。
遠雷のしばしは鳴りてゐたれども
虹を形見におきて去りたり 藤井 常世
そんな風に美しいものを残して去っていける人生であればと、
ちらりと思う。これから先がまだまだ続くのかもしれないが、
そのまだまだは、限られたまだまだ。
パソコンが落ちるように、バックアップできる人生があれば、
やり直しも修正もきくのだろうけれど、自分はどうかな。
せめて、虹を残せるように生きたいものだ。
そんなことを「ちらり」と考えて、本日終業。
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