Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

岩手へ

久しぶりに北へ向かう機上の人となる。
前回、副鼻腔炎のせいで起こった航空性中耳炎と思しき
耳や目の痛みに悩まされた1時間と打って変わって、
今回、爽やかな秋晴れの中を気持ちよく北上、
秋の仙台空港は10年ほど前の祖母の葬儀の時以来だ。
宮城県人2世も年を取り、バスガイドはぴちぴちの19歳。
あ、今時「ぴちぴち」なんて言葉使わないか。


それはともかく、今日のお目当ては生まれて初めて訪れる岩手県
松尾芭蕉奥の細道』で有名な中尊寺
奥の細道は知っていても、天台宗のお寺だとは知らなかったので、
これはきっと夏に根本中堂をお参りしたご縁だと感じた。
http://d.hatena.ne.jp/neimu/20100814


空港は晴れていたのに、ここまで来ると今にも雨が降りそうな空模様。
まずは腹ごしらえ、さすが米どころらしく昼食は汁にも餅、
デザートにも漉し餡の餅と贅沢な献立、正月でもないのに餅とは嬉しい。
上げ膳据え膳の旅行の料理は何でも美味しくいただける。
周りの若い人は、平気で餡餅を残している。ふと思い出した日本昔話。


射的を楽しむ長者が戯れに餅を的にして矢を射た。
的の餅を射抜いたかとその瞬間、白い餅は鳥になって飛んでいった。
ありがたい収穫、額に汗して収穫した米から作った餅を
遊び心で的に使った罰当たりな長者の田は米が取れなくなり、
落ちぶれてしまったという。


そんな豊かな黄金色の田を見下ろしながら、関山を登る。
目指す金色堂は山の上。巨木に囲まれた参道はプチ高野山
曇り空の下なお暗く、神秘的な雰囲気が伝わってくる。
もっとも殊勝な信仰心を持ち合わせているわけではないが、
小高い場所から見下ろす衣川と北上川、いまやコンクリートの護岸を持つ
その場所は、かつて奥州平泉氏の領地として栄えた流域。
当時10万の人口を抱えた小京都は、現在わずか1万と聞く。


−−−  三代の栄耀一睡の中にして、大門の跡は一里こなたに有り。秀衡が跡は田野に成て、金鶏山のみ形を残す。先、高館にのぼれば、北上川南部より流るゝ大河也。泰衡等が旧跡は、衣が関を隔て、南部口をさし堅め、夷をふせぐとみえたり。偖も義臣すぐつて此城にこもり、功名一時の叢となる。
国破れて山河あり、城春にして草青みたりと、笠打敷て、時のうつるまで泪を落し侍りぬ。

夏草や兵どもが夢の跡 卯の花に兼房みゆる白毛かな 曽良  −−−


−−−兼て耳驚したる二堂開帳す。 経堂は三将の像をのこし、光堂は三代の棺を納め、三尊の仏を安置す。七宝散うせて、珠の扉風にやぶれ、金の柱霜雪に朽て、既頽廃空虚の叢と成べきを、四面新に囲て、甍を覆て雨風を凌。暫時千歳の記念とはなれり。

五月雨の降のこしてや光堂 −−−



鄙びた風情の中、湿った空気、しかし保護するための建物の中で
20世紀に修復された金色堂は眩しいばかりの光を放ち、
その宝物館の貴重な品々と共に平安時代にタイムトリップさせてくれた。
無論、有名な奥州藤原家3代のミイラは見ることは叶わない。


昔々いつだったか、少年マガジンでミイラ特集。
かつて栄えた土地に残るミイラ、即身仏、不思議・怪奇な存在。
歴史物語としての「義経記」、冒険譚としての牛若丸と弁慶。
金売り吉次、奥州の地を逃れてチンギス・ハンになった義経伝説。
静かな世界の中に浸って昔物語を反芻するうち、ぼーっとして
時間を間違え、あわやバスに乗り遅れるところだった。


のんびり『奥の細道』の世界に浸ることもできない。
据えられた像は思っていたより大振りなので、
俳聖芭蕉を偲ばせるより、忍者説芭蕉を思わせる健脚なイメージ。
もっとも、時雨れてきそうな空の下、たたずむ姿は古色蒼然。
もう少し拝んでいたいが、この山をバス停まで下るのは、
軟弱な生活をしている人間には少々ハードだった。


某政治家のお陰で潤っているのではないかと思われる、
地方とは思えぬ(失礼)豪華な建物の夕映えが美しい。
都会にもこんな立派な建物は滅多に見ないよ、というか、
こんな大きな「うわもの」を建てる土地が無いといった方が正しい。
平面駐車場を付けて、この建物、ありえない。
さすが、面積の上でもドンと東北に控える岩手県だけのことはある。

  


今夜の宿が温泉なのがありがたい。
お薬師さまの霊験あらたかな名湯とのこと。
宿の入り口には強面(こわもて)のアテルイが陣取っているが、
玄関口を入ると薬師如来が出迎えてくれる。


透き通った癖の無いお湯、やや熱めだがかまわない。
痛む足裏、足底筋膜炎の足を酷使した関山中尊寺の疲れ、
早朝からかばんを持ってウロウロした疲れをなだめたい。
露天風呂の石に腰掛けて半身浴、足浴で疲れを取る。
何とも言えずいい気分。思わず仕事を忘れる。

 

 
更に主婦にとっては、上げ膳据え膳なのがありがたい。
こんなに沢山作るのに、どれだけ手間かと思いつつも、
あれもこれも食べられるのが嬉しい。
仕事だから飲めないけれど、やっぱりご飯が美味しい東北。
1日目は移動だけで終わったが、とりあえず山のようにお守りも買った。
平山郁夫の描いた中尊寺の絵葉書も家に送った。
気持ちだけは高ぶってなかなか眠れないが、とりあえず1日目。

中尊寺・毛越寺 JTBキャンブックス

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