Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

薬師寺東塔特別開扉 その2

昨日の続き、薬師寺東塔特別開扉の記事の続きです。
写真が沢山なので2日に分けてのアップです。
飛天に思いを寄せている間、少しずつ行列は進む。
退屈しのぎに写真を撮り続ける。
なかなか綺麗に撮れないことに苛立ちながら。


ライトアップのためのものかなあ、この紐、邪魔。
明るく輝く金堂とくすんで静かな東塔と、その対比、
趣の違いが秋の日の済んだ空気の中でかっちりと向き合っている。
復元彩色された西塔と金堂の明るさに対し、
年月の重みを加えた落ち着きと枯淡な味わいは、
当時の姿を保ち続けた自信に裏打ちされた成熟さ。
多少のくたびれは許容範囲と思し召せ。


もうこの角度からの眺めを見てかなりの時間。
おばあちゃんは大丈夫かな。
老母は孫かわいさに付いて来てくれたものの、
どこに来ているのかわかっているかしらん。
かつて私と2人でやって来た西の京の春の旅、あれは随分昔。
唐招提寺に歩いていく元気もあったあの頃。
けれど、今日は無理っぽい。ここで立ち往生に時間を食っている。


退屈しているのは人ばかりではないらしい。
東塔の上にとまっているカラス。いかにも手持ち無沙汰。
ぞろぞろと並ぶ人間がそれほどまでに珍しいか?
向こうに見える建物、あれは講堂? 
お、少し前に列が動いて金堂の正面、注連縄のようなものが。
ズームで撮ってみた。

東塔の真下。風雨に晒された迫力の軒下。
そして、やっと辿りついても少しの間しか見られない。
ほんの少しの間の逢瀬、普段は公開されていない
東塔の内部、土台の部分を見せてもらって本当にしみじみ。
ああ、この心柱(芯柱)は、心礎は天平人の心意気を
今に伝えて背筋をぴんと伸ばして立ち続けているのだ。
あの煌びやかな西塔と比べてしまうと哀しいくらい
殆ど内装がわからなくなってしまっているが。


その感動を更に駄目押ししたのは、次に目に入った次なる和歌。
行く秋の 大和の国の薬師寺の 塔の上なるひとひらの雲
佐佐木信綱の有名な和歌。心があちこちさまよう老母は、
歌を詠まず書き写す一辺倒の人と化して久しい。
目の前に歌碑があるが気付かぬようだが、説明し促すと
機嫌よく写真に納まってくれた。
(その後はすぐに忘れてしまうのだけれど)


さて、時間を掛けてほんの少ししか見られなかった東塔、
あとはさくさくと(本当はじっくり見たいが、もう昼を過ぎている)
回ってみるしかない。というか、予想外だったのだ。
昔の薬師寺のイメージしか残っていない私にとって、
高田好胤によって次々に再建された、かつてと全く異なる姿、
広い境内は想定外で、見学の予定時間を大幅に超えることになった。



何となく無駄に写真を撮っているような気もする。
寺院の内部は撮影できないので、外側に執着してしまったのかも。
煩悩の塊の私は、歩いて角度が違って見える景色を
思わず撮りたくなってしまう。余り考えもせずに。
デジカメを持つようになってからの悪い癖。
ポスターと重なる東塔まで撮ってしまった。


この丹塗りの鮮やかさ。名物僧侶が写経で集めた資金、
遷都祭に向けて計画的に整備された境内、
観光客を抱え込む秋の日の一日の景色、
心の中にあわ立つ違和感。
そのさなかに薬師三尊像はおわす。
俗の中にあって聖、昭和平成と続く混迷の中にあって、
古(いにしえ)もまた、権力争いの嵐の中の血を血で洗った日々の
その生臭さを思い出させるかのような、丹塗りの色に、
眩暈さえ覚える、その中に安置されている国宝の仏たち。


その仏の御座を支える台にシルクロードを越えて伝わって来た、
文様や思考、思想に形式、東西南北の意匠に見られる浮き彫りに、
滑稽なまでかわいい御座の守り手に、人は何を思うべき?
そして玄奘塔。娘はまだ孫悟空玄奘法師を知らない。


疲れて昼食を取りたいが、ここまできたら最後まで見ないと。
奥の玄奘三蔵院には普段なかなか見られない、
あの平山郁夫が30年掛けて製作した「大唐西域壁画」がある。
ファンの私としては一目見て帰りたい。
更に、今回は特別展示で吉祥天女展がある。
初公開の美しい吉祥天女も見ることができた。
・・・この時代に生まれていれば、多少ぽっちゃりの私は
天平美人間違いなしなのだが。(苦笑)


あともう一息。気を取り直して梵鐘を眺め、
もと来た道を戻って景色を眺め、
国宝の東院堂に向かう。忘れて見落とすところだった。
こちらは落ち着いた時代を経た色でほっとした。
華やかな色は昔を再現しているのかもしれないが、
何もタイムスリップが味わいたいわけではない。
流れ去った歴史、時間を感じたいのだから、
当時のままでなくても構わない私なのだ。


おみくじを買って東院堂前で結ぶ娘。
今日のことを覚えておいてね。
おばあちゃんも一緒に外に出られた日のことを。
我が家では君が家刀自、吉祥天女


そして、見ているだけで買わなかったジュースたち。
遅いお昼は大和郡山に新しくできていたどでかい・・・
あまりにもどでかい郊外型ショッピングモールでランチ。
・・・お疲れ様の一日でした。思い出の薬師寺再訪。
とーちゃん、運転ありがとう。