Festina Lente2

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薬師寺東塔特別開扉 その1

小5の娘の毎日の宿題の一つに、教科書の朗読がある。
その中に「千年の釘にいどむ」という話が出てくる。

鉄、千年のいのち

鉄、千年のいのち


有名な薬師寺西塔再建の折の苦労話。
教科書の定番ともいうべき話だが、無論私は習っていない。
まだ母が元気だった頃、勤めて間もない頃だったか、
できたての薬師寺西塔を訪れたことがある。(ついでに唐招提寺も)
滅多に無い母と2人きりの「お出かけ」だった。


聞けば傷みの激しい東塔を解体修理するらしい。
10月一杯で拝観を中止、8年間見られないと聞いて、
これは娘に本物を見せねばなるまいと、決心。
母も珍しく孫と出かけたかったのか、家人に頼んでドライブ。
天気は晴天、暑いくらい。さあ、本物は?


駐車場について、あれ? 記憶の中の薬師寺と風景が違う。
建物が増え過ぎ? 道も変わった。再建整備し過ぎ?
何だか昔の記憶の景色とのギャップに少々頭が混乱。
薬師寺ってこんな風景、風情だったっけ?
遷都1300年祭関連整備事業の影響もあるのだろうけれど、
人手の多さは予想よりも少ないくらい、それよりも、
野中にぽつんと見えた風情ある薬師寺近辺の景色が・・・。



薬師寺に入る前に正一位孫太郎大明神、お稲荷様?
そして道路の向こうに、恭しく? 石碑に世界遺産 薬師寺と。
えーと、お神酒をお供えした神社に、お稲荷様、
そしてお隣にお寺さん。薬師寺法相宗大本山
御神域は古より霊妙あらたかな集いの場であったらしい。
天武天皇が妻の鵜野讃良皇后のために建てた寺とか。


娘を入れて記念撮影をと臨む、薬師寺西塔。
丹塗りの色もまた新しく、太陽光の光の反射も煌びやか。
まことに奈良にふさわしい、「塔の上なる一片(ひとひら)の雲」の風情。


えーと、いつの間にか飛行機雲が。
青空が美しいのでついつい、何枚も撮ってしまった。


自分の心の中では西塔完成時に訪れた記憶はあるが、
こんなに煌びやかだったかどうか、丹の色の赤さに違和感が募る。
彩色美しい神像も、少しばかり付いていけない感じ。
青空の下に映える美しさではあるのだけれど。
古の人々もこの壮麗な派手派手しい異国めいた華やかさに
目を奪われ楽しんだのであろうけれど・・・。



中央の金堂にも人が並んでいる。
はてさて、中におわしたのは何仏様だったっけ?
あれ、10月とは思えぬ暑さにやられたか?
薬師寺だもの、お薬師様に決まっているじゃない。
それよりも、やはり見慣れた景色、
枯れた風情の東塔がしっくり目に入る。
心の中にある侘びさび、日本の景色、幼少時から植えつけられた、
古びた雰囲気のイメージにすっぽりはまる東塔の姿。

  


皆さん見学のために並んでおられる。しかし、呼ばわる人の声。
何ですと? 西塔の見学の時間が決められているから、
できればそちらを先に見て頂きたい時間帯ですと? あれまあ。


というわけで、まだそれほど傷んでもおらぬ昭和の塔の内部に。
それから再び東塔側に並び直し、待つこと30分余り。


三連休の最終日ともなれば、かなりの人出と思っていたが、
自分が思っていたよりもましか。少しでも修理前の姿を目に焼き付けよう。
わざわざ見に来たからとて、何の変哲もない昔の建物。
しかしこの建物があったればこそ、昭和の西塔の再建は成功した。
並びながら、鬼瓦を見上げつつ、昔の教科書で読んだはずの文章を記憶の中に探る。
あれは、この場所この塔について書かれたものだった。
福永武彦の随筆。いや、評論だったか。『飛天』という題もおぼろげ。

  


レプリカでなければ、飛天を見ることも叶わぬ天辺。
カリョウビンガ、カラビンガ、誰の為に舞い踊る。
飛天、天女よ、アプサラス。誰の為に舞い踊る。
晴れ渡った空に見ゆる水煙の中、凍れる音楽の天辺で。


『草の花』の印象が強かっただけに、古典に馴染んだ福永武彦が、
フランス文学とマチネ・ポエティックの印象があった彼が、
どうも頭の中で結びつかなくて違和感を持ったあの時の感覚に、
何となく近いような今の私の心境。
この静かな西ノ京の、薬師寺のこの場所が、人を集めている背景。
さてさて、あと何分待つことになるのか。

  


その間並んだ人間が退屈するのを防ぐように並んだ、
補修工事の必要性を訴えるパネルと、
お釈迦様の一生を説明した図などを眺めながら
順番待ちのお昼前。頭の中を通り過ぎる思い出と文章。
目の前の景色。

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