Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

木簡と茶話会

久しぶりに土曜の昼に待ち合わせてランチ。
家人の以前の勤め先があったビルは相変わらず工事中。
初めてのイタリア料理店は見事な前菜だったが、
パスタそのものは胃にこたえる重さで辟易した。
お陰で、この後の予定で「甘いもの」に目が無い私は、
他の方々に遅れを取る憂き目(苦笑)に遭うのだが。


目指す建物に向かう途中、こんなビルあったっけ?
今にも細い足元がぽきんと折れても不思議じゃない。
秋空のもと、あれれれれのビル。

 


中の島界隈、高速道路と川と橋と建物。水都大阪の景色の一つ。
先ほどのビルの全景をご覧下さい。

 


本日の目的、その一。夫婦で出席する茶話会。
平城京関連の講演を聴く。主に木簡に関して。
(興味のある方は こちらの記事も楽しいです。
不肖、日本文学科万葉集専攻の「文学部の血」が騒ぐ。(笑)
何しろいつも、「歴史と文学、どちらがしたいのか」と言われていたので。


演題 「平城遷都1300年記念「平城京に暮らす―天平びとの泣き笑い―」
講師 奈良文化財研究所都城発掘調査部主任研究員
   馬場 基(ばば はじめ)氏
場所 中央電気倶楽部
   

新進気鋭の若手研究者と思っていたが、なかなか手練れの話し手。
最高学府卒の傘を年配の聴講生にあからさまに着せてはならじと、
築地下町の出身であることを話の枕に、若さと謙虚さをアピール。
ご高配の前にて甚だ恐縮の体(てい)を取りつつ、
弁舌も爽やかにユーモアたっぷり、平城京での発掘作業、
そのリアルさや職場での苦労、ちらりと上司を肴に皮肉りつつ、
膨大な仕事の一端を想像して貰うという、小技連続の小一時間。
短い時間で門外漢を飽きさせずに、ミニ講義を行った。


非常に若く見えるが、不惑目前の研究者だ。
場慣れしていて練れた話なのも当然。
ハンサムで頭も切れる。今も昔もさぞかしモテることだろう。
多少尾篭な話題を扱って笑いを取るのはある意味、男性らしいか。
女性の研究者ではしないかもしれない話題を、なるほどと聞かせる、
それもそれで自分の研究の着眼点をアピールすることになるのだろう。
私なぞは単純に美味しい若布の産地として、徳島は鳴門、「撫養」が
木簡に書かれていたことに嬉しさを禁じえなかったが。


さて、考古学を専攻する人間は概ねロマンチストだと思う。
文学に次いでロマンを時空の彼方に求めるのだが、
科学的なセンス、知識、根気が無ければ勤まるものではない。
それでなくても海外から日本の考古学者の理系音痴は嘆きの的だ。
都合の良いデータばかりを駆使して、客観的なデータから類推せず、
壮大なロマンばかりを追いかけると揶揄されている。
捏造事件ももあったりして、歴史ロマンは常に学術的な名声の影で、
儚い栄光をたゆとうている。


与えられた資料をもとに、古代人の生活を垣間見る時間は楽しく、
さりげなく著書を売り込む辺り、奈良を、遷都1300年のイベントを、
文化財研究所での仕事というものに対する理解を広め、
宣伝することに余念なく上手に盛り込みつつ、話は進む。
あっという間に楽しい時間は過ぎた。
現代人が余り知ることのない当時の生活が、木簡を眺めてわかる。
ある程度の推理ができる。そこから何を読み取るか、掴み取るか。
全ては研究者のセンス(個性)に掛かってくる。


このところ毎年正倉院展に出向いている私。万葉集専攻の昔文学少女は、
社会人になってもその手の柔らかい本(学術論文でないもの)を手にする。
今日の話はその手の話のさわりといった感じ。
もう少し手ごたえが欲しかったが、聴衆は家人のように門外漢か、
どうみてもわが両親の年代に近き方々が殆ど、
講師は孫の年代となろうか。
若干舟を漕ぐ方もいたが、現役時代はそうそうたる方々なのだ。
私如きが足元にも近寄れないような。
無難な形で話をまとめたが得策といえば得策の茶話会の前半だった。

平城京に暮らす―天平びとの泣き笑い (歴史文化ライブラリー)

平城京に暮らす―天平びとの泣き笑い (歴史文化ライブラリー)

木簡から古代がみえる (岩波新書)

木簡から古代がみえる (岩波新書)



今日の楽しみの一つは、講演が行われた中央電気倶楽部、
この会員制の建物に入れたことが大きい。
外観もちょっと変わっていて、できれば由来や説明書が欲しい。

 

 


茶話会そものもの家人のお供であり、どんな面々がと、
半ば憂えていたのであるが、まあ、現役は若干で、
悠々自適の方々が大半であり、私たちは若手も若手の部類だった。
おまけに茶話会と銘打っただけあって、英国式だったのか、
スコーンやサンドイッチ、ケーキ、ムース、タルトなど盛り沢山。
皆さん健啖家、あっという間に平らげ、びっくりするほど甘党。


そして、馬場氏に質問の嵐。自分の研究まで資料として渡される方も。
これだから、ねえ。いやはや、こういった会での「若い」人間は、
大変気を遣いますな。おまけに大阪倶楽部同様、中央電気倶楽部も、
きっと会員の方々は名士揃いで、我々本当に場違いな所にお邪魔?
このレトロなビルに憧れて一度内部を見たいと思っていたけれど、
大阪倶楽部でのナカノシマ大学の講演の時の様に、案内者はいない。
だから会員以外入れない所は見学できない。残念。

  

  


旧館をほんのちらり撮影。会員制であることと、使用者が少ないこと、
古めかしさも大阪倶楽部ほどではないこと、ただし見えている範囲内で。
一般に門戸を広げているわけではない、それでいて会報にはちゃんと女性向けの話題も。
その辺、編集者の知的な配慮が見え隠れする。
大阪倶楽部と異なって、原則男性というわけではなく、業務上の繋がり、
役職にあった人間を個人会員としても認めているので、女性会員の要望もあるのか。

    


せっかく誘ってくれた家人であるのに、元気がない。
彼は彼で、仕事が大変なのだろう。
しかし何も言って来ないうちは、こちらから訊くのも気が引ける。
それに言わないということは、言ったからとてどうなるものでもないと、
自分自身に起因するところのものであるならば、愚痴るだけ野暮という、
そういう類のものだろうから、今更言ったところで・・・。


家族の時間を大切にする原則として、大人の時間。
本日は以前から予定のうちの一つだった茶話会に夫婦で出席。
知的に過ごした午後。
娘と合流するまで、あと1時間半、さあどうする?

エンジョイ、レトロビル! 未来のビンテージビルを創る

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