Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

髪を切り、髪を染め

メンテナンスをする日曜。家の内外、家族も自分も。
まずは家の中を片付けた後、もう一軒の家、
家人の単身赴任先の社宅に郵便物を取りに行く。
一時期転送という所まで気が回らなかった。
新聞は即効止めていたのだが。


電車の中は久しぶりに「物思う」時間だ。
雑事さえ振り返り斟酌しあれこれと考えることが出来る。
そのありふれた時間は、戦争のような忙しさの中では、
隙間時間を埋めていくだけで、「物思い」を楽しむことが出来ない。
瞬時に必要とされる判断とルーティンワークの流れ作業の中で、
見え隠れする「彼方への架け橋」である「物思う」時間。


上手くいってもドアtoドアだと片道2時間は掛かる。
乗り換えや何だかんだがあると、結構かかる。
通勤時間は短い方がいいに決まっている。
単身赴任は自活できる人間にとっては不利ではない。
受け身である人間にとっては不自由極まりないかもしれないが。
とにもかくにも、同じ地方自治体の中にお互いの家があるのが初めての経験。
行ったり来たりが一日で出来るのだから文句は言うまい?
家人宅への電車は小豆色と銀色の相互乗り入れ。
今日はどちらの色に乗れるのか・・・。


大都会の首都圏のサラリーマンの通勤時間は2時間は普通。
若ければともかく、この年齢でそれはキツイ。
もう学生でも、徹夜して飲んで歩けるトシでもない。
学生時代、片道2時間通学の頃、若かったし体力もあった。
アルバイトもたかだか家庭教師のかけもち。
学費の足しにと、時間の融通の利くアルバイト。


自転車、電車、地下鉄、電車、徒歩。
階段の上り下りがきつい地下鉄への乗り換え、
往復4時間の通学時間は体力維持と読書時間に。
毎日好きなだけ本が読める。これは至福の時間。
ウォークマン」なるものがなかった時代。
音楽を聴きながらの通学は叶わなかったが、
1時限目のドイツ語の予習は電車の中。
英語、ゼミのレジメの試案、何だろうが電車の中。


最近『阪急電車』という小説が話題。
まさにその路線で大学に通っていた。
この小説のターゲット世代よりも自分が少々年を取っているのと、
震災前の阪急電車今津線界隈を知っているので、
どうしてもしっくりと読見込めなかったが、
話の粗筋、展開そのものはオムニバス形式なので
それなりに面白いといっては面白いのだが・・・。


あの当時、往復4時間余りの通学ではクラブにも入れず、
少々心寂しかったが、当時は浪人も出来ず滑り止め、
本命では無い大学、自分が乗りたかったのは阪急宝塚線だったと、
若気の至りで気持ちを切り替えることも出来ず、鬱々と通学。
あたら青春期後半の学生時代を無駄に過ごしてしまったあの頃。
その路線こそ、今話題の『阪急電車』の今津線なのだが。


仲違いでセンチメンタルになっているのか、
昔の頃、若い頃の思い出に浸りながら電車に乗っている。

阪急電車 (幻冬舎文庫)

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永遠の0 (講談社文庫)

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とにもかくにもあれこれ思い巡らすこと1時間半、
目的地に着くまでに乗換駅で途中下車。
一人でゆっくり安いランチ。カチカチになった背中をほぐして貰う。
最後の駅を降りて決心した。
どう見ても殺伐とした雰囲気を与えかねない
振り乱した白髪交じりの頭を何とかせねばならぬと、
髪を短く切りヘアマニキュアを施した。


なるべく自然な黒に。仕事柄、茶髪はまかりならぬ。
仕事が立て込み老親と病人がいるとなると、
ただでさえなりふり構わずの自分が、
毛羽立った使い古しの何がしかに変貌していくのがわかる。
自分自身のメンテナンスの時間、余裕が無い。
見舞いに来るなと言われてこれ幸い、
社宅と自分のメンテナンスを同時にして何が悪かろう。


行ったり来たりと片付けものと、
自分自身へのご褒美も兼ねてグルーミング。
背中から肩までにと短くなった髪。
これほどまで体が軽く感じられるとは。
「気は心」、本当に気分一新。


仲違いしたままなのは申し訳ないが、
この1週間は双方どちらにとってもしんどい時間。
プライベートな面子を潰されて疎外感を味わったのは、
私の方だという気持ちが打ち消せない。


会社でも友人でもSNSでも何でも構わぬ。
動くことの出来ぬ病人、暇を持て余した人間が
手慰みにケータイで連絡を取り合うのは。
されど、最低限に必要事項を電話やメールでも伝えてこない
甘えの延長ずぼらさ加減、見舞いに日参当たり前、
故に自分から連絡を取らぬという埒も無いことをされては、
犬も喰わぬ喧嘩もせねばなるまい。


再び帰りの電車で嘆息、明日からの仕事の段取りを考える。
家事や育児より差し迫た仕事のことを考えている自分が哀しい。
メンテナンスは疲れた顔を見せず、
気取られず仕事をするためにある。
家庭内では、どんな顔をすればいいのか途方に暮れるが。
そんなかーちゃんは失恋した少女のように、髪を切り、髪を染め、
気分一新を図るメンテナンスの日曜。

レインツリーの国 (新潮文庫)

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クジラの彼 (角川文庫)

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