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『ジーン・ワルツ』

娘のために前売り券を用意していた。
土曜日に気分転換に見に行っていたのは、この映画。
私たちが大好きなチームバチスタシリーズで有名な海堂尊の作品。
女性としては避けて通ることが出来ない、産むか産まないか、
産めるか産めないか、妊娠出産子育ての問題を、
現代日本が抱える医療問題の側面から鋭くえぐった作品。


しかし、残念ながら少々期待はずれ。
原作を換骨奪胎し過ぎたようだ。
宣伝が誇大広告で、原作の良さを伝えきれていないというか、
原作のハードな部分、きつい部分をそぎ落として、
当たり障りの無い部分を取り出して映画にしたというか。
海堂尊の描いた切れ味の良いナイフのような当たりは、
誰が持っても傷つかないおままごとのナイフに取って代わられたような、
そんな作品に仕上がってしまい、何と勿体無い。


原作と裏表になっている『マドンナ・ヴェルデ』を読んでいたからだろうか。
クール・ウィッチと称される主人公の女医の生き方、
大胆な行動を楽しみたい、わくわくしたいと思っていたのに、
いささか倫理的な問題を含んでいるせいか、
それとも障碍者問題に触れるせいか、
はたまた未解決の問題が多いせいか、
映画制作としては、最後の最後で逃げてしまったのかという感じ。


ともかく、注目される医療の面に関しても
「赤ちゃん誕生」シーンを感動的に映し出し、描くことばかりに焦点が当てられてしまい、
無難に大団円的にまとめて終わりという、迫力の無いエンディング。
これじゃあ、『マドンナ・ヴェルデ』を書いた意味も無いのでは。
それどころか、バチスタシリーズで主人公の田口を男性から女性に、
強引に変えて映画化してしまったのと同様、
映画に女優を使いたかった、それだけの理由で原作をコケさせた、
そんな風にしか感じられないんだけれど・・・。


小田和正の歌声が流れてきたクレジットに至っては、
生命保険の宣伝じゃあるまいしという気分にさせられた。
問題提起の映画ではなく、イメージのみ浮上させて、
させそこなって、ハッピーエンドのような終わり方。
これから先の戦いを予感させるわけでもなく、
示唆するでもなく、問題をすり替えられた。
見終わった後はその苛立ちの方が先になってしまった。

ジーン・ワルツ (新潮文庫)

ジーン・ワルツ (新潮文庫)

マドンナ・ヴェルデ

マドンナ・ヴェルデ



小5の娘でさえも「原作と違う」と憤慨。
そうだろうなあ、看板に偽りありって感じで。
原作のはらはらどきどきの展開を、
女性が女性であるために経験する受難、
女性ゆえに享受することが可能な恩恵、
女性でありながら取らなければならない隔絶孤高の立場、
女性であることを武器にした戦いが、
女性ならではの戦略的思考と行動が、全てそぎ落とされて、
メロドラマまがいの親子ゲームがか不倫・恋愛モード。
こんなはずじゃなかったと、期待を裏切られた海堂尊ファンは多い違いない。


ジーン・ワルツ」・・・生命の誕生にまつわる遺伝子の不思議、
生命科学不妊治療、産科の置かれた状況、医療の問題、
全てをコラージュのように切り張り、
様々なことを盛り込み過ぎた傾向が強かった原作を、
サスペンス仕立ての迫力ある映像でもなく、
一体何を訴える映画に?


出産そのものへの畏敬の念をかき立てようと意図し過ぎたせいか、
ある意味お産を見世物にしたような、
個人の経験である一人一人の出産の経験を軽んじられたような、
そんな気がしてしまったのは、何故だろう。
この戦場のような出産シーンは、医療者の側から見たお産の現場、
その凄まじさ、忙しさ、慌ただしさを描きたかったから、だけ?


医療の側面、ジェンダーの問題、法整備、経済面、そして、
少子化問題を支える「共通理解」が得るための、
強硬手段の一つとして、「出産」を崇め奉るかのような、
安易なラストシーンが受け入れられない。
話の中の代理母の問題はどこへ消えていったのか、それさえも曖昧。
やっぱり、ラストの小田和正の歌声に誤魔化されてはいけない。


ラブストーリーは突然やっては来ない。
赤ちゃんはコウノトリが運んでくるわけじゃない。
親の精神的経済的基盤を抜きにして、育児は出来ない。
社会支援が無くては、子供の健全な成長を促すことなど、
親が親として育つ場、子供を子供として育てる場など確保できやしない。


その一番最初の場面。
子供が生まれる前の、親が親ともいえない状態の、
産むか産まないか選択するする時代の、
授かるか授からないかよりも、作るか作らないかを悩む時代の、
そんな時代の切実な物語を、生命保険のCMを連想させる歌とメロディで、
誤魔化して終わらせているようじゃ、駄目だ。


というわけで、実は大いにぼやきながらドライブして帰宅した
一昨日土曜の夜の母の娘の映画鑑賞。

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