Festina Lente2

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雪の建国記念日

紀元節
父が昔「雲にそびゆる高千穂の♪」と歌っていた紀元節
大雪の朝。まだまだ振り続けている。
一体何時まで降り積もるのか、大阪では全く珍しい。
それは、天が何かを覆ってくれるような、隠してくれるような、
いたわってくれるような雪化粧、雪野原、雪布団、
そんな天の恵みが空からやって来た建国記念日

  


実家の庭は、雪に覆われてまるで小さな雪原。
大阪ではなくてどこか北国の庭園のように見える。
いつも採るほうれん草や大根、小松菜のありかも分からない。
朝寝坊を決め込んでいた娘も、いつの間にやら外に出て、
何も言わずとも雪遊び。ここに元気なシロがいれば、
「犬は喜び庭駆け回り♪」の世界なんだけれど。

  


ああ、こんな風に雪で遊んだのはついこの間、
家族スキーを楽しんだお正月だったのに、家人は骨折、
病院の窓からこの雪を見ているだろうか。寒さは骨にこたえる。
今日が退院でなくて良かったと胸をなでおろしつつ、
明後日は晴れて欲しいと思う。
こんな天気では景色はロマンチックでも、退院はままならない。

  


天は私を知っているかのようだ。
内外で辛い哀しいことがあると、何かの知らせのように、
「もしかするとこれは?」そんな感じのことがよく起こる。
涙の代わりに降る雪は、私や私以外の人の心にも、
柔らかく降り積もっているだろうか。


それでも、大阪の雪は天変地異に等しい出来事。
思いがけない事故や不便、不都合を生み出す。
世間では今年の大雪のせいで沢山の犠牲者が出た。
雪下ろしの辛さ大変さを知らない地域の人間が、
ささやかな感傷に浸る暇など笑止千万。
例年にない大雪に見舞われた人々が
どれ程の思いでこの冬を乗り切ろうとしているか、
ただただ頭を下げるしか無いのだけれど、
目の前の景色は、ひたすら美しい。

 



娘が生まれて半年近く経った頃、感嘆して雪の社宅の庭を眺めた。
こんな風に雪景色を眺めた徳島、阿南での日々。
あの頃は、子育てが楽しくただただ娘に恵まれた生活が幸せで、
産休が終わり、育休の日々。家族が一緒に過ごせた幸せな期間。
まだ半年も一緒に暮らせる時間があると、日々を噛み締めていた頃。
当時は両親も健在で、親との距離を取りながら、娘を得て
親となった喜びに浸りつつ、雪景色を眺めやった。


あれから10年余が過ぎ、私も両親も大台に乗り、
お互い競うように病院通い、家人も骨折入院中。
今の職場に転勤してからの7年間、娘のみがひたすら元気。
父1回、母2回、私が2回、そして、家人が5回目の入院中。
入院はそれ自体がストレスで、母の認知症は入院を期に一気に進んだ。
酒もタバコも一時やめただけで元通りの父は元気だ。
今回幸運なことに危ぶまれた命のやり取りは無かったものの、
家人の受け入れ先の病院が主治医のいる病院でなければ、
どうなっていたか分からない。


一病息災であればまだまだ笑って過ごしていられるが、
二つも三つも重なるとなると、そうは行かない。
どんなに病人が出ていても、収入の道は確保しなければならない。
何よりも、「かーちゃん元気」で働いている姿を
娘に見せておかなければならない。
これぐらいでめげないよという、アピールをしなければ、
自分を支えていることもしんどくなって来てしまう。


雪は化粧もお洒落もせずに、日日(にちにち)をやりくりする、
そんな戦闘体制の日常生活を、武装解除させる、
そんな気持ちの切り替えをくれる。
たただた日々の憂いや心の闇を覆い隠し、ひと時、
真っ白で静かな、音を吸収する世界を見せてくれる。
私が納得ずくで引き受けられないことを、引き受けて、
ただただ真っ白にしてくれる。


今のように老親の健康を気遣いながら、
日々を過ごす、週末羽を伸ばす、それでバランスを取りながら、
家族は毎日毎日を乗り越えていく。
両の翼で力強く羽ばたく日もあれば、片翼飛行になることも、
雨風で休む日も、そんな毎日が家族の日常。
仕事は待ってはくれないけれど・・・。


家でも職場でも事故や事件が起こると、心がフリーズする。
寒々とした思いよりも、哀しみだけが広がって、
今までの努力や奮闘が、笑顔や思い出が、
凍りつき砕け散ってしまうような、そんな思いに晒される。
家人の退院が目の前に迫り、嬉しいよりも気忙しさが先にたつ、
そんな自分が情けない。


単身赴任家族は自分が元気、それぞれが元気が基本。
誰かが病気や怪我でもせぬ限り、仕事を休むことが出来ず、
親が自分が家人が、誰かに何かあれば歯車がきしみ、
しんどい日常生活の区切りとなる「楽しみ」は、贅沢。
まさに日常に追われて生活を楽しむことが出来ない。


そんな私や娘に、雪はひと時の安らぎを与えてくれる。
寒さよりも、目に訴えかけてくる柔らかな白い世界で。
何もかも覆い尽くす優しい白さで。