Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

改めて観れば哀しき「RED」かな

とーちゃん退院前日。娘と再び映画鑑賞。
元より、とーちゃんが怪我した日、みんなで見る予定だった。
娘と二人で契機付けに、踏ん切り、いや、けじめ?
とにかく鑑賞予定をこなしてしまおうの今日。
予告編を見て楽しみにしていた娘の予想を裏切る展開だったらしい。
なかんずく、私自身も当てが外れたのではあったが、
昨年『エクスエンダブルズ』を見た時も、熟年俳優救済映画ではないかと危ぶんでいたから。


出ている俳優は最盛期を過ぎている。それは仕方がない。
みんな年老いていくものだ。現実の私も、映画の中の人も。
誰もがいつかは仕事を引退し、年齢相応の暮らし。
年齢相応? 俳優に定年はないが、この映画の中の登場人物たちは?
年齢に応じて出来ることは変わる。出来ないことも増えるが、
今までできなかったこともできるようになる。
老いるとはどのようなことなのか、
老いてもなおどのような心持ちであるのか、
どのように老いて行きたいのか、
今まで為しえて来たことを、どのように伝え残して行きたいか。


引退したスパイ、諜報部員などというものがどのような存在か、
それどころか「現役」時代の顔かたちで生活しているのかどうか、
それさえも分からないけれど、とにかく引退した彼ら、
何と言うか涙ぐましい普通の生活の人もいれば、
(近隣と同様のごみだし、クリスマスの飾りつけ、
 年金係と電話越しの語らいに現を抜かすあたり、
 本当にブルース・ウィリス? とギョッとさせられるような、
 オープニングの掴みは上手い)


しかし、一旦襲われるとなると反撃の仕方が凄い。
というか、一般人として生活する「振り」をするなんぞ、
プロ中のプロにとっては雑作もないことだった。
目立たぬように潜伏し、必要な情報を得、跡形もなく姿を消し、
必要とあれば、陽動作戦も隠蔽工作も何でも来いなのだから。


ということで、追われつつ何故追われる羽目になったのか、
問題の根本的解決に当たって単独行動では不可能とみるや、
仲間を求めてのロードムービーと化すあたり、
観客を飽きさせぬ工夫は至る所で為されている。
でも、老人ホームで余命を、それも不治の病を抱えつつ、
余生を過ごす者があのモーガン・フリーマン
べトコンと戦っているんあじゃるまいし、ちょっと切れている、
トンデル状態の臨戦・野戦状態に入れりのマルコビッチ。
久しぶりに彼を見ると、こんなに老けたのかとちょっとショック。


中でも、ピンクの豚を肌身離さず持っているシーンは、
ちょっと胸が痛むものがあったのだけれど、
その中から豪勢に銃が出てきてぶっ放されたあたり、
スカッとしたのは確か。
何しろ、彼を「ジジイ」呼ばわりしたおばさんスパイ(ヒヨッコ?)に対しむかついたのは、
自分自身の中に感じる「普段の苛立ち」を意識したから。


定年まで10年を切ると、かつてとは異なる仕事も増える。
立場が変わればやらねばならないことも、やりたいことも、
同時にやりたくないことも、やらされたくないことも変わる。
しかし、若手に侮られるのは不本意ではあるし、
「経験がものを言う」世界にいると、その分のプライドは募る。
ピンクの豚から出て来た武器は、自分が持ちたいと思っている、
そんな攻撃的な野心、負けじ魂を刺激する。

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少々受け入れ難かったのは旧ソ連の彼と元英国諜報部の彼女が、
今も恋中で、持ちつ持たれつの関係にあるということ。
この設定はあんまり欲しくなかったかなという個人的感想。
老いらくの恋ではなくて、引きずる恋。
いや、忘れられない一生に一度の恋というべきなのか・・・。
その辺の恋愛沙汰は無しでシビアに展開して欲しかったのに、
女性をメンバーに加えると必ず色恋沙汰に話の方向が持っていかれるのが、
何だかこそばゆいと言うか歯がゆいと言うか。


静かな佇まいの印象が強いヘレン・ミレンがぶっ放す弾丸、
スナイパーとしての迫力よりも、「人殺しが好きなの」と嘯くあたり、
その世界を知らない人間が幾ら抵抗を感じようと、
仕事ってこんなものかもしれないと感じることはできたが、
都合よく助けが現れる下りは信じがたかった。
諜報活動で失敗やミスは、即、死を意味する。
映画はその辺が実に能天気に出来ていて、受け入れ難い。


老いて自由が利かなくなる自分に対する何がしかの思い入れを、
鬱憤を過去を思い通りにならない現在を振り切るが如くに、
全てを破壊しそれでも破壊しつくせないもの、
壊れていく自分自身、そんな感じが否めないのは、
20代の若さから登場人物を眺めているのではなく、
自分の先輩、遠からぬ未来、そんな風に客観視してしまうから?


引退した、超危険な奴ら。あっさりと侵入を許す建物、
旧東西の間での取引、冷戦を乗り越えた友愛、昨日の敵は今日の友、
そんな危険な人物との恋愛が引き起こす非日常的なハーレクインロマンス、
それを観客に提供して残るのは、何?
自分がこんな風に華々しく老いているのではないということ?
老いて知る人生の楽しさ? 味わい方?
昔取った杵柄の「しっくり来るスリルとサスペンス」感?


この年齢で少々憂いに浸りつつ、熟年役者労働番組、いや、
映画を見ながらあれこれ思い悩む私の横で、娘は言い放った。
「これだったら、宇宙戦艦ヤマトのほうが面白かったなあ。」
・・・そうですか、かーちゃんもそれは否定しません。
恋愛も悲壮感も自己犠牲も若くして散る花があればこそ、
ここまで生き延びてきた老い先短い人物が、体を張っても、
「醍醐味」には程遠いのかもしれない、
かーちゃんでさえもそう感じてしまったくらいだから。
娘よ、君に言われると二重にショックだけれどね。


ということで、「RED」予想外に面白いよりも落ち込んだ、
というか、考えさせられざるを得ない年齢だということを、
自覚させられたアクション映画とでもいいましょうか。
明日は、とーちゃんの退院日。
はてさて、どうなることやら。

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