HEREAFTER

クリント・イーストウッドが好きだ。彼の作る映画も。
しかし、昨日の映画はちょいと印象が違った。予想と違った。
おそらく、「グラントリノ」を作った後、彼は自分の死を、
自分の死後を垣間見るようになったのかもしれない。
年齢的にも多くの知人友人を見送り、自分の場合をリアルに想定する、
そんな年齢だから当然と言えば当然かもしれない。
しかし、一人のファンとしてはいきなり「あちら側の人」にになって、
そこから「こちらの世界」を垣間見ているような、
そんな視点で映画を作るようになってしまったとしたら、
ちょっと寂しい。

今からここから旅立てば何が待っているのか、どこへ行くのか。
それは誰も知らない。別れは突然やってく。予想もしない形で。
あの、｢ミリオンダラー・ベイビー」の主人公のように、
四肢の自由を奪われて、生ける屍になりたくないという、
切ない自殺願望に手を貸すことが、唯一の愛情の証だと、
そんな世界から、現実の世界に戻って来て、
再び映画の中と外と行ったり来たりする生活。
俳優と監督と作曲家を兼ねて、年齢を増すごとに渋く洗練されていく。

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彼の才能が有り余るほど詰まったあの作品から、
「死」そのものをどのように受け入れ受け止め、
生き残っていること、この世に留まって在ること、
如何に愛する人を思い続けていくのかを、
忘れられない人の思い出をどのように留めておくのかを、
考えなかった人はいないだろう。

「グラントリノ」に描かれた、妻との永遠の別れ。
父親の孤独を省みない子供たち、心の交流の無い家族。
愛と尊厳が損なわれたアメリカの魂、輝く車、かつての栄光、
戦争、少数民族の少女、少年、家族と人種差別、
様々な諍いの向こう、平安をもたらす老エンジェルは銃弾まみれで
天国へ旅立った。それから、「向こうの世界」に固執し始めたのだろうか。

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HEREAFTER　ここからどこへ、ここから後はどこへ？
クリント・イーストウッドは、何時から「向こう」へ行ってしまうつもりなのだろう？
そんな思いを感じさせられたこの映画、何だか眠くなる、
気だるい、感情移入するのが難しいストーリー展開。
臨死経験、死と隣り合わせの経験、大勢の死者、想像を絶する災害、
映画の冒頭の津波のシーンは迫力に満ちていた。

Hereafter: Original Motion Picture Score

　

私の日記はタイムラグを持っている。これは予定されたことではない。
仕事が忙しい時、家が、毎日が、生活が、ごった返している時、
タイムリーにFestina Lenteを書くのは難しい。
感動をすぐにしたためればインパクトのある日記になるのかもしれない。
予想とは隔たりがあった違和感を、近付きたくない世界への入り口を、
垣間見させる映画に対し、危険信号のようなものを感じて慄く、
そんな自分を「野生の獣」のように怯えた存在に、
卑小な存在に感じていたのだが・・・。

映画を見て数日も立たないうちに、「外の世界」では事件が起こった。
津波では無かったけれど、一瞬のうちに大勢の命が奪われた。
親は子供を、子供は親を捜し求めて、瓦礫の中を彷徨っている。
この日付の中に日記を書いている。
けれども、映画と事件の間の繋ぎの一日、
そういう巡り合わせのページに記事が差し挟まれることになった。

何だかシンクロするように、心の隙間に世の中が雪崩れ込んで来るように、
様々なことが押し寄せてくる。
逝ってしまった人がどこに去っていくのか、誰も知らない。
夢の中で走っていくように？
意識が過去と未来の時間の中を彷徨って、行きつ戻りつする。
そんな景色を、垣間見た世界を追いかけて追いかけて、　
誰もが「ここから先」に何があるのか思い巡らす。

時間が逆流したかのように、未来から災害が流れ込んで来る。
津波のように時間が逆巻いて押し寄せてくるようだ。
この世の終わりのラッパの響きを耳に残して。
The Beginning of the End？
映画は理解者を得た形のハッピーエンドのように終わっているけれど、
本当は死後の世界を垣間見たり、死者と交流できることではなくて、
生きている今の世界を行き抜くことだと、
そう思いながらも、哀し過ぎる。
今、この時期。HEREAFTER は心と記憶の奥底に沈殿していく
苦味の強い、ソーダドロップのようだ。

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End Credits