Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

ダイビルの中で見た景色

ナカノシマ大学でダイビルを冒険する話があって、
是非聞こうと思っていたけれど、仕事の都合上地下鉄が利用できず、
JR大阪から回る事になった。案内葉書にはJR大阪から4分とある。
幾らなんでもそれは無いだろうと思っていたけれど、
悪徳不動産よりもひどい? 距離と時間のロスを被った。
さすがの私も葉書のアクセス内容に違和感を感じたものの、
10分の誤差がある誤植とは気付かなかった。


  
  


遅れてぜーはー到着後、中ノ島ダイビルのアクセスにはちゃんと、
JR大阪から徒歩14分、渡辺橋より徒歩1分と書いてある。
案内葉書を過信して、きちんと地図をダウンロードしなかった自分が悪い。
そうかもしれないが、終業後の気分転換どころか、気落ちした。
出鼻をくじかれて、土地勘の無い人間は時間をロスした。
そのせいで今日の講義は耳に入らず、何だか来ただけ疲れてしまった。


  


仕事は押しているのに、気分転換になるかと申し込んでいた催し、
本当はとっても楽しみにしていたはずなのに、
地震と日々の仕事とのギャップに神経をこそげられてしまって、
久しぶりに見る夜景も町の景色も空々しく感じるばかり。
そういえば、駅でも大々的に募金活動していたっけ。
ここはまるで別世界。人工的な光の輝く空間に迷い込んで、
場違いな人間が来てしまった、そんな気持ちで吹き抜けの空間を見る。
4階から見下ろし、1階から見上げ、ビルの中の景色を味わった。


  


ここには真新しい人工的な光と空間が、世間での報道から隔絶された、
静かで暖かい、時の指輪と称された彫刻を伴って構成されている。
まるで星空のような黒光りする床や壁。
何だか本当に、どうしてここに、自分がいるのか、
親戚が、知人が巻き込まれている世界と、
1ヶ月前から予定していた催しに出向いている自分と、
何だか体と心が引き裂かれていくような感じ。
仕事は、家族は、ボランティアは、予定は、娘は、両親は?
この場に共にいる自分の夫さえも、本物なのかどうか、
何だか人工的な世界の付属物のように、
実体が上手く把握できないような、そんな感じがしてしまう。

  


きっと昼間はもっと人が溢れている活気のあるオフィスビルなのだろう。
地下鉄仕様の京阪中の島線とも直結しているビル、
知的で美しいビル空間を演出する工夫に溢れているビル。
そこで寛ぐ人は、この人工的な空間が生活の中の身近な景色、
風景、仕事と寛ぎ、そのバランスを取る場所。


  


しかし、余りにも食事するには店の相場が高すぎる。
居酒屋でも何でも、ドーチカの安い店まで歩くのには遠い、
ちょっと歩くのに不便なこの場所は、
真新しいビルのショバ代にも似て、夜のお値段のホテル並み飲食費。
エスカレーター横のまるで結婚式場の祭壇みたいな作り、
おまけに、やたら眩しく煌くエスカレーター。
社用族ならともかく、不況下の個人サラリーマンが利用するには、
随分足元を見てくれるお値段の店が多い。


  

  


帰りしな、久しぶりに一緒に入った居酒屋の賑わいも、
パネルタッチで注文する方法も、何もかも非現実的。
ゆっくり歩いてくれと注文を付ける家人は、
帰るためにタクシーを拾うことも無く、リハビリのつもりなのか、
両松葉杖で二駅も歩く始末。
そのくせ、少しはなれて先を歩く私に、「ゆっくり歩け」ですと?


去年の今頃、足底筋膜炎で痛くて歩けず、待ってくれ、
タクシーにしてくれと頼んだ時に、甘えるなと、
娘と二人ですたすたと置いてきぼりにして、
先に社宅に帰ったのはどこの誰?
3年前の春、憩室炎の前兆なのか何なのか、その時はわからずに、
脇腹が痛み、腹部から足に掛けて引き攣り、
上手く歩けずしんどいとよたよたしている私に、
タクシーなんか贅沢だと、歩いていたのはどこの誰?


今までの仕打ちを思い出して、ほんの5、6メートルしか離れていなくても
「待て」をかけてくる家人に苛立つ。
私を待ってくれなかった時のことばかりが思い出される。
(待ってくれた時もあっただろうけれど)
人はいい時のことよりも、悪い時のことばかり思い出し易い。



行きは案内状のミスから、帰りは家人の頑固さから、
必要以上に歩かされた私の足は、不機嫌極まりない。
荷物を持ってウロウロする、冬の名残りの強い弥生半ば。
仕事の余韻は達成感よりもやるせない苛立ちを招くばかり。
当たり前の生活をしている、その贅沢さに、
感謝の気持ちよりも、申し訳なさのほうが先に立つ。
普通に歩けることさえも、すまなく感じてしまう。
この生活、この感覚は良くない。


人工的な空間を後にしても、この人工的なものの中でしか生活できない、
今の現代人、日本人、老若男女。
そんな風に感じると、辛い夜。夜が更けていく。

超高層ビルの“なぜ”を科学する―だれもが抱く素朴な疑問にズバリ答える!

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新 次世代ビルの条件

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