妖怪アパートの幽雅な日常
娘の憧れる世界。それは、この本の中にあるような生活。
恐らく思春期の入り口で、親も祖父母も学校の友人さえも鬱陶しく、
距離を置きたい今日この頃。時々「私は根に持つタイプなんだよ」と
口走ってにこりと笑って「うふふふふ」などと一人笑いをするので不気味。
ただでさえ甘やかされて年不相応に貰うお年玉や進級祝いを、
あっという間に漫画に使って大人買い?
自分の子供時代と比べてしまうので唖然。
こちらが与えなくてもほいほいお金を与える人がいるので困る。
娘の買うもの身の回りのもの、だんだん理解を超えるものが増えてきた。
こんなものが欲しいの? というようなものが増え、
友達から貰ったの交換しただの、本当なのか嘘なのか言い訳なのか、
親にも言えない言いたくない秘密が少しずつ増えていく年頃。
秘密を持つのはいいけれど、事によりけり、だ。
そして、親なんかいなければいいのにという夢想に浸る年頃。
思春期の入り口は長く、嵐の手前だというのに、
かーちゃんは少々戸惑いながら君を見ている。
自分が中学生のときよりも既に大きい、小学6年生の君を。
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「橋の下から拾ってきた」等というフレーズは、もう聞かないご時世。
されど、自分がこの家の子供で無かったならば・・・、
親がいなければ、別の世界で暮らしていたならばと、
無限に自分の周囲の環境を変えてあれこれ想像する年頃、
世界の名作文学などに見向きもしない娘は何を読んでいるのか。
私がこの年頃読んでいたのはこの手の類・・・。
「家無き子」「家無き娘」「小公子」「小公女」「アルプスの少女ハイジ」
「秘密の花園」「2年間の休暇(十五少年漂流記)」「海底二万里」
挙げればきりが無いのだが、半世紀近い年の差は埋めがたい。
最近の読書環境にはそぐわないのかもしれない。
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娘お勧めのシリーズは『妖怪アパートの幽雅な日常』という、
いかにも今風の題名が付いている。何しろ、「妖怪」という流行のアイテム、
癒しやロハス、脱ストレスの流れを汲む「優雅? 幽雅な日常」という響き。
子供ならずとも大人の心をくすぐるようなタイトル。
(そこに胡散臭さや抵抗を感じるのは「古い」感性なのだろう)
事故で両親を一度に亡くし叔父の家に身を寄せる中学生男子。
肩身が狭く全寮制の高校に進学するも、寮が火事。
仕方なく紹介されたアパートは、この世のものならぬものと同居、
そこで第二の家族、仲間、師を得、世界が広がる主人公。
物語の枠組みは、誕生・出会い・別れ・成長(冒険・戦闘・恋愛)の繰り返し。
むろんこれはどの文学作品、児童文学ならずとも王道の枠組み。
ゲームの根底にあるのは目標達成の背景にある主人公の成長譚だ。
他の作品と一味違うのは、お袋の味・自然の恵みを強調するような、
素晴らしい料理の数々がアパートのまかないさんの「手」で、
作られていることだろう。・・・「手」だけの幽霊で。
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実はこのシリーズで一番最初に読んだのは、この本。
娘にしてみると、自分の世界を小出しに紹介するのに、
お料理というか美味しいものには目が無いかーちゃんを釣るのに、
この手が一番と思ったのだろうか。
シリーズ後半はまだ読んでいないが、娘が一番最初に貸してくれたのは、
いじめや偏見、善意で動いているようで自分の価値観を譲らない、
不気味なまでのすれ違いが描かれていて、
反りが合わない連中、理解しがたい輩とどのように付き合っていくか、
軽くいなすか、そういう流れがさらりと書かれている作品だった。
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親友がいつ出来るのか、友達とのいさかい、教師との相性、
(口には出さないまでも、かーちゃんやとーちゃんとの関係)
自分を取り巻く人間関係での悩み事を、物語世界に仮託、
少しばかり「非リア充」(という言葉も娘から教えて貰ったが)。
その異世界である物語世界に遊ぶことが、「リア充」に繋がると、
知ってか知らずか、それなりに読書体験を重ねているようだ。
それにしても、ばらばら殺人で手首だけの幽霊、
母親の虐待で成仏できない幼児の幽霊、
水木しげるの描く妖怪世界とはまた異なる世界だが、
アパートの住人や大家もまた異世界の人間、
もちろん人間もいるが、両親を亡くした主人公の親代わり兼、
先輩兼親友兼師匠といった感じで、なかなかアットホーム。
こういう世界を読んで娘は寛いでいたかと、しみじみ。
いつもほったらかし、寂しい思いばかりさせて、
降り返る間もなく思春期入り口まで来てしまい、
娘との関係が微妙になってきてる親としては、あれこれ考えさせられた。
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何しろ、昔気質の文学少女。
「世界の名作文学50」(小学館)で育った私は
最近のライトのベルが苦手、というか食わず嫌いと来ている。
YAと呼ばれたヤングアダルト分野、そのネーミングに
児童文学としては不穏なものを感じて、当初近付けなかったくらい。
妙な先入観が働いてしまい、なかなか読めなかったほどだ。
児童文学の世界―作品案内と入門講座 (講座 絵本・児童文学の世界)
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今でこそ児童文学の世界で生老病死の現実や、結婚離婚、
いじめや虐待などが主人公に絡むのは当たり前の感がある。
が、子供の頃『二人のロッテ』を読んだ私は、
その時に初めて、離婚が子供の世界に関わると知った人間。
主人公たちの両親の離婚を背景にしていると知って、
読んだ時にショックを受けた世代(世相)・環境で育った人間は、
良くも悪くも保守的で世間知らずなまま成長。
就職してから世間の荒波にほんの少しばかり揉まれて、
仕事上は多少のことには慣れたものの・・・。
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物語の背景に潜んでいるのは古典的主題ではなく、
今、この時、現代が抱えている問題。
それを直撃すれば生々しくなって当然なのだが、
そこは児童文学、物語の枠組み構造にきちんとオブラート。
そうでなければ悪趣味で野次馬根性だけが強いワイドショー、
単なるドキュメンタリー、ルポ、週刊誌ネタになってしまう。
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心に響く児童文学が持つ、ファンが胸を熱くする、
自分自身の抱えている問題や、感じている疑問、様々な思いを、
物語世界に重ねて投影するためには、いつも今の時代を背景に、
単なる冒険譚、異世界ファンタジーでは感情移入が難しい。
日本の良質なファンタジーや漫画も同様、
その枠組みを守ることで、読者の心の構造を守る。
心的世界をカタルシスに導くまでの過程が大切。
さすがに5冊も読むと、書き手の癖や用語の使い方、
ワンパターンが鼻についてきて気になる箇所も多かれど、
娘が進めてくれた限りはシリーズ全冊読んでみなければ。
なかなかファンが多いよう。最近はこういうのが受けるのね。
家の中では一人っ子で悩める子羊の年代に差し掛かって来た娘、
如何なる世界に出かけているのか、追体験。
母は母なりに妖怪アパートの住人になってみる。
(追記)
さて、娘よ。賄い付きの妖怪アパート。
君は美味しいご飯が食べたいんだろうな。
滋養のある目にも鮮やか香りも香ばしい、
口に含んでは美味なる歯応えも嬉しい山海の珍味、
それは額に汗して働かなくては手に入らないものなんだぞ。
自分で作る手間暇を考えてみたことがあるか。
食事という心と体を作る滋養を、君はどれくらい真剣に?
- 作者: 赤木かん子
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