Festina Lente2

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妖怪アパートの幽雅な日常

娘の憧れる世界。それは、この本の中にあるような生活。
恐らく思春期の入り口で、親も祖父母も学校の友人さえも鬱陶しく、
距離を置きたい今日この頃。時々「私は根に持つタイプなんだよ」と
口走ってにこりと笑って「うふふふふ」などと一人笑いをするので不気味。
ただでさえ甘やかされて年不相応に貰うお年玉や進級祝いを、
あっという間に漫画に使って大人買い? 
自分の子供時代と比べてしまうので唖然。
こちらが与えなくてもほいほいお金を与える人がいるので困る。
娘の買うもの身の回りのもの、だんだん理解を超えるものが増えてきた。


こんなものが欲しいの? というようなものが増え、
友達から貰ったの交換しただの、本当なのか嘘なのか言い訳なのか、
親にも言えない言いたくない秘密が少しずつ増えていく年頃。
秘密を持つのはいいけれど、事によりけり、だ。
そして、親なんかいなければいいのにという夢想に浸る年頃。
思春期の入り口は長く、嵐の手前だというのに、
かーちゃんは少々戸惑いながら君を見ている。
自分が中学生のときよりも既に大きい、小学6年生の君を。

フツーの子の思春期―心理療法の現場から

フツーの子の思春期―心理療法の現場から

「橋の下から拾ってきた」等というフレーズは、もう聞かないご時世。
されど、自分がこの家の子供で無かったならば・・・、
親がいなければ、別の世界で暮らしていたならばと、
無限に自分の周囲の環境を変えてあれこれ想像する年頃、
世界の名作文学などに見向きもしない娘は何を読んでいるのか。
私がこの年頃読んでいたのはこの手の類・・・。
「家無き子」「家無き娘」「小公子」「小公女」「アルプスの少女ハイジ
秘密の花園」「2年間の休暇(十五少年漂流記)」「海底二万里
挙げればきりが無いのだが、半世紀近い年の差は埋めがたい。
最近の読書環境にはそぐわないのかもしれない。

娘お勧めのシリーズは『妖怪アパートの幽雅な日常』という、
いかにも今風の題名が付いている。何しろ、「妖怪」という流行のアイテム、
癒しやロハス、脱ストレスの流れを汲む「優雅? 幽雅な日常」という響き。
子供ならずとも大人の心をくすぐるようなタイトル。
(そこに胡散臭さや抵抗を感じるのは「古い」感性なのだろう)
事故で両親を一度に亡くし叔父の家に身を寄せる中学生男子。
肩身が狭く全寮制の高校に進学するも、寮が火事。
仕方なく紹介されたアパートは、この世のものならぬものと同居、
そこで第二の家族、仲間、師を得、世界が広がる主人公。


物語の枠組みは、誕生・出会い・別れ・成長(冒険・戦闘・恋愛)の繰り返し。
むろんこれはどの文学作品、児童文学ならずとも王道の枠組み。
ゲームの根底にあるのは目標達成の背景にある主人公の成長譚だ。
他の作品と一味違うのは、お袋の味・自然の恵みを強調するような、
素晴らしい料理の数々がアパートのまかないさんの「手」で、
作られていることだろう。・・・「手」だけの幽霊で。

妖怪アパートの幽雅な食卓 るり子さんのお料理日記 (YA! ENTERTAINMENT)

妖怪アパートの幽雅な食卓 るり子さんのお料理日記 (YA! ENTERTAINMENT)

妖怪アパートの幽雅な日常 1 (講談社文庫)

妖怪アパートの幽雅な日常 1 (講談社文庫)

実はこのシリーズで一番最初に読んだのは、この本。
娘にしてみると、自分の世界を小出しに紹介するのに、
お料理というか美味しいものには目が無いかーちゃんを釣るのに、
この手が一番と思ったのだろうか。
シリーズ後半はまだ読んでいないが、娘が一番最初に貸してくれたのは、
いじめや偏見、善意で動いているようで自分の価値観を譲らない、
不気味なまでのすれ違いが描かれていて、
反りが合わない連中、理解しがたい輩とどのように付き合っていくか、
軽くいなすか、そういう流れがさらりと書かれている作品だった。

妖怪アパートの幽雅な日常 5 (講談社文庫)

妖怪アパートの幽雅な日常 5 (講談社文庫)

親友がいつ出来るのか、友達とのいさかい、教師との相性、
(口には出さないまでも、かーちゃんやとーちゃんとの関係)
自分を取り巻く人間関係での悩み事を、物語世界に仮託、
少しばかり「非リア充」(という言葉も娘から教えて貰ったが)。
その異世界である物語世界に遊ぶことが、「リア充」に繋がると、
知ってか知らずか、それなりに読書体験を重ねているようだ。


それにしても、ばらばら殺人で手首だけの幽霊、
母親の虐待で成仏できない幼児の幽霊、
水木しげるの描く妖怪世界とはまた異なる世界だが、
アパートの住人や大家もまた異世界の人間、
もちろん人間もいるが、両親を亡くした主人公の親代わり兼、
先輩兼親友兼師匠といった感じで、なかなかアットホーム。
こういう世界を読んで娘は寛いでいたかと、しみじみ。
いつもほったらかし、寂しい思いばかりさせて、
降り返る間もなく思春期入り口まで来てしまい、
娘との関係が微妙になってきてる親としては、あれこれ考えさせられた。

妖怪アパートの幽雅な日常 2 (講談社文庫)

妖怪アパートの幽雅な日常 2 (講談社文庫)

妖怪アパートの幽雅な日常 3 (講談社文庫)

妖怪アパートの幽雅な日常 3 (講談社文庫)


何しろ、昔気質の文学少女
「世界の名作文学50」(小学館)で育った私は
最近のライトのベルが苦手、というか食わず嫌いと来ている。
YAと呼ばれたヤングアダルト分野、そのネーミングに
児童文学としては不穏なものを感じて、当初近付けなかったくらい。
妙な先入観が働いてしまい、なかなか読めなかったほどだ。

児童文学の世界―作品案内と入門講座 (講座 絵本・児童文学の世界)

児童文学の世界―作品案内と入門講座 (講座 絵本・児童文学の世界)

 

今でこそ児童文学の世界で生老病死の現実や、結婚離婚、
いじめや虐待などが主人公に絡むのは当たり前の感がある。
が、子供の頃『二人のロッテ』を読んだ私は、
その時に初めて、離婚が子供の世界に関わると知った人間。
主人公たちの両親の離婚を背景にしていると知って、
読んだ時にショックを受けた世代(世相)・環境で育った人間は、
良くも悪くも保守的で世間知らずなまま成長。
就職してから世間の荒波にほんの少しばかり揉まれて、
仕事上は多少のことには慣れたものの・・・。

「もの」から読み解く世界児童文学事典

「もの」から読み解く世界児童文学事典


物語の背景に潜んでいるのは古典的主題ではなく、
今、この時、現代が抱えている問題。
それを直撃すれば生々しくなって当然なのだが、
そこは児童文学、物語の枠組み構造にきちんとオブラート。
そうでなければ悪趣味で野次馬根性だけが強いワイドショー、
単なるドキュメンタリー、ルポ、週刊誌ネタになってしまう。

ふたりのロッテ (岩波少年文庫)

ふたりのロッテ (岩波少年文庫)

心に響く児童文学が持つ、ファンが胸を熱くする、
自分自身の抱えている問題や、感じている疑問、様々な思いを、
物語世界に重ねて投影するためには、いつも今の時代を背景に、
単なる冒険譚、異世界ファンタジーでは感情移入が難しい。
日本の良質なファンタジーや漫画も同様、
その枠組みを守ることで、読者の心の構造を守る。
心的世界をカタルシスに導くまでの過程が大切。


さすがに5冊も読むと、書き手の癖や用語の使い方、
ワンパターンが鼻についてきて気になる箇所も多かれど、
娘が進めてくれた限りはシリーズ全冊読んでみなければ。
なかなかファンが多いよう。最近はこういうのが受けるのね。
家の中では一人っ子で悩める子羊の年代に差し掛かって来た娘、
如何なる世界に出かけているのか、追体験
母は母なりに妖怪アパートの住人になってみる。


(追記)
さて、娘よ。賄い付きの妖怪アパート。
君は美味しいご飯が食べたいんだろうな。
滋養のある目にも鮮やか香りも香ばしい、
口に含んでは美味なる歯応えも嬉しい山海の珍味、
それは額に汗して働かなくては手に入らないものなんだぞ。
自分で作る手間暇を考えてみたことがあるか。
食事という心と体を作る滋養を、君はどれくらい真剣に?

こころの傷を読み解くための800冊の本 総解説

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