Festina Lente2

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星新一生誕85周年記念ロゴ

昨日に引き続き、記念ロゴ連日。
但し、今日のロゴは日本だけのもの。
星新一、といっても世界的に有名というわけではない。
フレディ・マーキュリーほどセンセーショナルな存在ではない。
でも、思春期前期の私にとっては影響力が大きかった。
やはり思い出されるのは『声の網』。
今のインターネット社会を彼が知ったらどう思ったことか。
彼の著作も今や電子書籍で販売されていることを知ったら。


小学生時代から培ったはずの読書力・読書欲が、
どんどん落ちてしまった中学生時代。
話の面白さだけでは楽しくない。
中身について語り合う仲間がいない。
自分だけの解釈や妄想、想像力の翼だけでは飛べない。
そういう苛立ちを抱き始めた中学生時代。
純粋に物語の世界に入っていくには、変に知恵が付きはじめ、
素直に物事を受け止めるには、ひねこびてきた頃。


星新一ショートショートは大人世界の毒を含みながらも、
何かしら皮肉や冷笑で相手を突き放すのではなく、
どん底まで落とすことなく考えさせられる、そういう世界だった。
もっとも、その短編の中には「ぞくり・ひやり・どきり」とさせられる、
なんとも言いようのない恐ろしさや怖さがあって、結構ミニホラー。
道徳の本ではないけれど、身に沁みるような教訓が含まれていて、
苦い飲み物のような読み応えがあった。
ある意味、子ども時代の私は怖いもの見たさも手伝って、
星新一の世界を読み歩いていたのかもしれない。


高校の図書館に全集が入っていて嬉しかったものの、
10代の半ばはもっと背伸びしたものが読みたい年頃で、
だんだんSFやショートショートから離れていってしまった。
無論、読書三昧の生活に浸る時間も受験に縛られ減ってしまい、
気が付けば、音楽を聞く時間の方が増えていたような、
そんな高校生時代。星新一は遠ざかっていった。

ノックの音が (新潮文庫)

ノックの音が (新潮文庫)

ようこそ地球さん (新潮文庫)

ようこそ地球さん (新潮文庫)


社会人になってから『人民は弱し官吏は強し』を、
もっと後になってから、『明治の人物誌』。
この2冊は子供ではなくなった私に大きな影響を与えた。
そして、自分には歴史に関わるような人物の知り合いが無いことを、
ほっとしつつも寂しい思いにとらわれ、
単なる一般人であることに安堵しつつも失望して、
「二十歳過ぎればただの人」の集まりの中で仕事をしていた。


彼は強烈な個性の親を持ち、時代に翻弄され、大波小波に揺られ、
人生を築き上げてきたというのに、伝記らしい伝記は少なく、
数多くの多彩なショートショートの中に、
人生の艱難辛苦を目立たぬほど大きさに散りばめて、
生きていれば85歳。昭和と共に苦労を背負って生きた年月、
未来における鶴の進化型、ホシヅルを生み出し、
サイン代わりに描いていたという。
これがロゴマークの中の鳥。


さて、私の世代は彼のショートショートで育ったが、
未来に羽ばたく鶴の進化を見出しているか。
自分がその進化の真ん中に立っているか。
はなはだ疑問だが、諦めずに生き続けなければならない。

人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)

人民は弱し 官吏は強し (新潮文庫)

明治の人物誌 (新潮文庫)

明治の人物誌 (新潮文庫)