Festina Lente2

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金木犀薫る

カレンダーを知っているように、神無月になると咲く金木犀
朝早く、職場の金木犀の香りに迎えられほっとする。
仕事を終え、帰宅する門の横、金木犀は香り立つ。
風向きなのか、天候なのか、はたまた気温か、
何のことはない、自分の体調もしくは鼻の具合。
いつもよりも薫るような気もすれば、そうではないような。
香りが弱いと鼻が悪くなったからだろうかと気を揉み、
今年の気候のせいで蕾が、花の付きが悪いのだろうかと心配し、
いずれにしても、予定通りに金木犀が咲かず香り立たないと、
気になって気になって仕方がない神無月の初め。


四半世紀も昔に旅した中国南部、金木犀の香る街、桂林では、
この花びらが入った桂花茶を売っていたような気がする。
当時、まだまだ共産主義だった中国では、
華やかな雰囲気は乏しく、今のような急激な発展は都市部にもなく、
依然と悠々とした雰囲気が流れていたように思えた。


その旅の思い出は真夏の景色なので、「髪は長い友達」の宣伝にある、
カルスト地形の奇景を眺めながらの船旅は、ジャスミンやウーロン、
その他鄙びた味のするお茶を口に含む度に、庶民の味、
日本で口にするのとは随分異なるお茶の味に驚かされ・・・。
桂花と称される金木犀がどのように咲き誇るのか、
秋の景色を想像したものだった。


なのに、最近ではトイレの消臭剤の香りから金木犀を連想する若者が多い。
同様に、あちらこちらから入る中国関連のニュースを聞くと、
爽やかな金木犀の香りとはほど遠かった、現地の旅行の乱雑さ、
返還前の香港との余りの違い、地方の貧しさ、お役人仕事のいい加減さ、
いつ飛ぶかわからない「不明」の文字が並ぶ飛行場、
生理用品が平面にばらまかれているドアのないトイレ、
営業時間が終わったからと、コースの途中で料理が打ち切られたディナー、
そんな思い出が溢れてきてしまう。


貧しさはあれど、古き良き中国の伝統のようなものが根底にあり、
私は歴史で垣間見た、良くも悪くも大国の片鱗を感じさせた中国。
その国が、サイバー攻撃を仕掛けてきていたり、
大量の迷惑メールを送りつけている組織を持っていたり、
何だか訳のわからない噂ともニュースとも付かぬものが、
ネットの世界でも現実でも悪臭を漂わせるようにやってくる。

椿堂 練り香水 金木犀

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竹彩香りらくきんもくせい 50ml

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社会人院生時代、中国から留学してきていた英語の教師、
彼女は今頃どうしているだろう、日本語も英語も出来る中国人。
夫と子どもを置いて、勉強に来ていた勤勉な中国人。
料理が上手で、寮の小さな台所で、臓物の悪を丁寧に洗いあくを取り、
日本にはない香辛料で味付けして食べさせてくれた。


彼女のスピーチの原稿を訂正し、朗読し、アクセントを直し、
それを目と耳の両方から覚えてお別れの挨拶とした彼女、
今頃どうしているだろうか。そのまま中国に住んでいるのか、
それとも海外に脱出しているのか、上海や北京のお金持ちになっているのか。
余り、学者として生きて行くには道が無さそうな、そんな今の中国。


香り豊かな金木犀を胸の奥に吸い込む時、
あの時の鄙びた茶の味わいと、香りと、旅行中のアクシデントと、
様々な思い出が香りと共に蘇る。
プルーストの『失われた時を求めて』ほど壮大ではなくても、
苦い思い出の多かった、それでも行って良かった中国南部の旅。
季節が変わると共に花開く、秋の深まりを感じさせる、
金木犀の香りは四半世紀も昔の思い出を一瞬のうちに思い出させてくれる。

きんもくせいのうた

きんもくせいのうた