Festina Lente2

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バリ絵巻ワヤン・ベベル「スタソーマ」

(写真は大きくなります)
大阪音楽大学博物館、約1年半ぶりの訪問である。
前回の記事はこちら→http://d.hatena.ne.jp/neimu/20100306
かねてより連絡を頂いていて、前もってチケット購入。
やはり音楽博物館は根強いファンが多いようで、
開場前に来たのに、最前列の席はもう取られていた。
しかし、少々居眠り気味の娘がいたので、2列目でよかったかも。


  


25年前、2週間ほどバリに滞在した時に、山奥の村で
ワヤン・クリット(影絵の人形劇と音楽)を堪能した私。
無論ガムランも好きだ。あの時は怖いもの知らずで、
あちらこちら歩いて周り、当時人気だったケチャは勿論、
イベントカレンダーと観光局の情報を頼りに、
毎日のように何処かで行われているバリの伝統的な祭りを見物。
様々な儀礼や、音楽、食べ物に目も心も奪われる日々。


  


さて、そのワヤン・クリットの元となったワヤン・ベベル。
影絵ではなくて、もっとストレートに絵巻物を見せながら、
音楽と語りで聴衆に聞かせるもの。
バリ本当ではなく、お隣のジャワ島が本場らしいが、
今や廃れてしまい、その伝統は途切れてしまったのだとか。
芸能の島、バリでさえも、そしてインドネシアでさえも、
近代化の波は伝統芸能を途絶えさせるものなのか・・・。


  


その復興を手がけているのが、今回演奏を担当している、
ワヤン・ベベル・スダマニ。そして、日本屈指のガムラン芸能集団、
「ウロツテノヤ子」(逆から読んでみてね)
こちらを参考に→http://urotsute.com/info/archives/46


    


今回講演される「スタソーマ」は、仏教説話を知っていると楽しい。
ジャータカ物語やその他、仏教関連の知識があると、
話の展開に付いていきやすい。一方的な勧善懲悪でないのは、
いかにもバリヒンズーらしい展開だと思う。
悪は善に内包される必要悪の存在で、悪の存在故に善は輝く。
表裏一体の光と闇をいつも見せてくれるあの世界を知っていると・・・。
それでもこの作品は、ヒンズーであるバリでは上演も珍しいらしい。


  


ガムラン音楽の奏でる金属音が苦手な人でも、
語り手の物語性を損なわないようにボリュームダウンした音楽なので、
十分楽しめるとは思うが、ランダやバロンが戦う迫力のあるバリ舞踊、
または妙齢の美しい女性が踊るレゴンダンスなどを期待すると、
あれ? と思うかもしれない。



バリにはバリの伝統的な絵画も、新しい手法で絵が描かれた絵画も、
様々なバリ絵画が展開しているが、今回の絵巻もののように、
墨汁で書かれたシンプルな絵は、伝統的な手法が尊重されていて、
ヒンズーの迫力ある多神教の世界が展開されていて面白い。
細密画の丁寧さと、様式美があいまって独特の宗教画の世界なのだが、
劇画タッチの紙芝居のようにも思えてくるところが、庶民性か。



描き方によっては十分寺院に飾られるような宗教画になる絵なのに、
次々に語り手が手にしながら、開いては巻き、巻いては開く、
その単純な構造、語り手の迫力に引き込まれていく。
どちらかというと、弁士つきの白黒映画、臨場感溢れる、
ガムラン生演奏つきの上映、そんな雰囲気かもしれない。
さて、ワヤン・ベベルの「スタソーマ」の粗筋はこちら。


  


人食い魔王として人々を恐怖に陥れていたプルサダ王。
この破壊的な魔王から世界を守るべく如来の転生として生まれたスタソーマ。
成長するに連れ出家の思いが強くなり、王国を捨てて修行のために山奥へ。
山頂を目指すスタソーマの前に様々な障害が立ちはだかる。
ついに山頂で瞑想、解脱の境地に達した時、自らが生を受けた理由を思い出す。
そしてプルサダ王に立ち向かうスタソーマ。
魔王の破壊的な力を水のような静かな心で受け止め、
ついにはプルサダ王の力の源泉であるルドラ心が姿を現す。
その時、スタソーマの本体である仏如来が、
ルドラ心の本体であるシヴァ心と実は同体であるということが示され、
世界は平和を取り戻す。


    


本当は最初いい王様だったプルサダ王から良い心が離れて、
飛んでいってしまう場面。
善と悪が右左に分かれて、半身ずつ全く別々の人相になっている。
とても具体的で分かり易い絵巻物。
そして残酷なシーンが続き、全ての人を食い尽くして独りきりになる王。


  

随分はしょりましたが、14世紀以降インドネシア以外にも東南アジア、
琉球王朝にまで伝えられたというこの話は、マジャパヒト王国の宮廷詩人、
タントウラールによって語られた哲学思想が根底にあるのだとか。
「多様性の中の統一」・・・インドネシアのためにあるようなキャッチフレーズ。


ということで、こちらの記事(http://www.his-balifreak.com/article/266)も参考に。
「敗者なき勝利」これも凄い言葉ですね。
21世紀になって平和が訪れるどころか、天災に見舞われ、
国の内外で疲弊して行く現在、敵は己にありを思う日々。
競争社会の悪しき部分ばかりがクローズアップされ、
切磋琢磨という言葉が失われつつある今。
自己中心的な狭い世界が、ネットによってより自我を肥大化、増長させる今。


何かを求める余り、何を求めていたのか見失う現代社会。
そういう難しいことを考えることなく、音楽と舞台を楽しみ、
後になってしみじみと考えさせられる、今、であります。


さてさて、詳しい写真等は本家本元の記事をお楽しみください。
http://dewasugi.blog103.fc2.com/blog-category-2.html


おまけ記事。阪神大震災の時、音楽博物館がどんな風に被災したか、
写真を載せておく。そして、校舎内に静かに佇むベートーベン像も。


  


どこかから練習している音楽が聞こえてくる校舎内。
一階には魔除けのように、インドネシアの人形達が出張っている。


バリ島ワヤン夢うつつ―影絵人形芝居修業記

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