Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

クリスマス前日比較した映画

訳あって仕事場に赴かざるを得ず、中途半端な休日を昼と深夜、
映画館で過ごすことになった本日。


東西映画三昧 源氏物語とニューイヤーズ・イブ。
東洋と西洋。古典と現代。どちらが面白かったかといえば、後者。
これから映画を見て気分転換したい人は、『ニューイヤーズ・イブ』がお勧め。
大人のラブコメディだけれど、重くなりすぎず軽くなりすぎず。
程よいユーモアと抑制感のある、年末年始にふさわしい内容。
さりげなく挟み込まれたメッセージ、ナレーションには、
大震災で打ちひしがれている日本人に向けて、もしくは、
それに匹敵する災難に見舞われた人々に対する、
温かい労りや励ましが感じられた。


過去を振り返るよりも未来を望む映画、その方が気持ちが幾分明るくなる。
様々な映画で活躍してきた有名な俳優たちの描く人間模様、
同時進行オムニバス形式の、特別な一日、ニューイヤーズ・イブ。
ヤドリギの下のキスの話だと高をくくらずに、ほのぼのした結末を味わおう。
誰もが大切にしている人の記憶、家族の思い出、絆、生活、仕事、恋愛、
親子であること、誰かと知り合うこと、何かを始めること、
観客が感情移入し易い様々なシチュエーションを盛り込んで、
生きることへのメッセージをちりばめたこの作品は、『プリティ・ウーマン』の監督、
ゲイリー・マーシャルが監督。そして豪華な俳優陣。


ちょっと痛ましかったのは、ミッシェル・ファイファーやサラ・ジェシカ・パーカー
年齢が醸し出す雰囲気た素敵ではあるのだけれど、最盛期の美しい時を思うと、
どうしても痛い…。役柄も痛い役だったりする。
ちょっと嬉しかったのはヒラリー・スワンクの女性的な姿。
ミリオンダラー・ベイビー』での姿が結構トラウマだったので、
たまにはこんな役もいいなあと。
人生は辛いことと嬉しいことが回転ドアのように回っている。
そういう雰囲気をハル・ベリーロバート・デニーロがさりげなく演じて、
病や戦争が、日々の生活とは切っても切り離せないものであることを印象付ける。


色んなことがあるけれど、優しい気持ちに、やり直したい、始めたい、
歩き出したい、もう一度手を取りたい、そんな気持ちにさせてくれる。
何よりも笑顔が美しく、人を信じたい気持ちになれる。
明日を信じたい、乗り切りっていきたい前向きな気持ちに。
映画の場面、タイムズ・スクエアも30年以上前に見た佳作、
タイムズ・スクエア』のエネルギーを思い出させてくれる。
ニューヨークの名所もちらほら写って、懐かしい気持ちにさせてくれる。
大人の癒し系映画だった『ニューイヤーズ・イブ』は、昼間に見た
源氏物語―千年の謎』のお口直し作品となって、レイトショーの時間、
ようやっと寛ぐことができた。

New Years Eve: Original Motion Picture Soundtrack

New Years Eve: Original Motion Picture Soundtrack

ニューイヤーズ・イブ Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)

ニューイヤーズ・イブ Blu-ray & DVDセット(初回限定生産)


ねっとりした情念の世界、こちらは見ても気持ちは晴れない。
源氏物語のストーリーを知らない人間が見ても不毛な仕上がり。
衣装は大和和紀の挿絵の真似のような柄の十二単
一歩間違えば青少年に誤解を与えかねない、平安時代のラブシーン。
鳴り物入りで公開された古典の名作だけれど、結局は源氏物語
作者紫式部と時の権力者藤原道長恋物語の形という前提で、
虚実織り交ぜた仕上がりになっているので、端的といえば端的、
中途半端といえば中途半端な仕上がり。
本質的な源氏物語を期待した人には、全くの期待外れの作品。


何となく雰囲気だけ味わいたい人間でも、全く予備知識のないまま見ては、
何が何だかわからない物語。沢山女性が出てきて、一見きらびやか。
叶わぬ恋の恨みが凝り固まった思いを作品にぶつけて出来た物語世界は、
人の心を揺さぶる不思議な力を持っていて、禍々しささえ感じさせる。
故に、紫式部の取った行動は、そして道長は。
数多の人の命を奪い、自らを律することも出来ぬ恋の衝動に突き動かされ、
望む望まぬに関わらず、相手を嫉妬の余り取り殺してしまう怨念の凄まじさ。


人の世の現世(うつしよ)、物語の虚構入り交じる世界を自由に行き来する、
作者という名の君臨者、逸脱者、夢遊病者のような紫式部が、
最後に作中人物の光源氏と言葉を交わして、道長の側を辞していく、
そういう設定だが、肝心の源氏の苦悩はこれから深まるのであって、
六条御息所や葵上との出来事はその前哨戦でしかない。
それを耽美的に取り上げたこと自体、古典を愛する人間から見ると、
失敗作だなあという気がする。若い人にはビジュアル面で受けるかもしれないが。


カメラワークも作ったセットを意識しすぎて一方的で動きが少なく、
豪華な衣装を用いた割には、その存在感をクローズアップする場面が少なかった。
男も女も白塗りの顔にお歯黒をする平安メイクでもないので、
今風の痴話ドラマを民族衣装的な伝統和装で行ったような感覚にとらわれ、
何とも妙な具合に感じてしまった私は、よほど意地悪でひねくれた視点で
映画を見てしまったのかもしれない。


陰翳礼讃を重んじる画像ではなく、CG煌めく派手な画面でないと、
集客に響くのは分かっていても違和感の強い映画だった。
最初からおかしな副題を付けずに、続き物シリーズとして、
原作に忠実な作品に仕上げてもらう方がどれほどよかったかと感じるのは、
私の贅沢な望みなのだろう。
耽美的なのかもしれないが、自分が想定して利う耽美とは違う世界、
あまりにもざっくりと源氏の一部分を切り取ってしまったがゆえに、
古典を愛する者には物足りない、何も知らない人間にはおどろおどろしい展開の、
中途半端な作品に仕上がっているのが残念。


天皇誕生日、23日はこれから始まる私の年末、映画ウィークの前座。
仕事を、家の中を、掃除後片付けなどきれいさっぱり
忘れてしまいたい私の1週間の始まり。