バレンタイン?
職場はいつになく華やいでいて、テーブルの上にはたくさんのチョコレート。
ただでさえ疲れるデスクワーク、気を遣うことの多い書類の山。
気遣い・気配りといえば普段からお世話になっている異性・同性に、
ささやかなるお礼の意味をこめて、甘いものでも少しばかり。
そんな職場の習慣上のやり取りを、去年までは何とかこなす気持ちがあった私。
なのに、今年はその準備さえも全くできていなかった。
する気ににもなれなかった。
チョコレートは買った。確かにたくさん買った。
例年よりも沢山、それも注文までして人気のものを。
家人用にも娘用にも、いろんな物を。
けれども、職場には何も用意しなかった。
職場の人間関係のことなど、頭から飛んでいる。
職場のことなど、頭から払いのけたい気持ちになっている。
だから、もう何も、用意などしていない。
心遣いなどできる心境にはならない。
ありがとう、こんにちは、さようなら。
どういたしまいして、こちらこそ、とんでもない。
そんなやり取りが、気遣いが、すっぽり抜け落ちて、
軽い離人症状の壁ができているような、自分の日常。
職場での日常。薄い膜を被せたように、なのに滑らかにはいかない、
ざらざらと焼け爛れたような、ひりひりとした痛みばかりが走る、
気持ちのやり場のない、苛立ちばかり募る、節操のない気持ち。
仕事も人事も、明るい見通しのない今、ルーティワークは重荷だ。
解放されることばかりを願って、時間が過ぎていくのを願う。
甘いものを食べても、甘いと感じる以前に喉を通り過ぎていく。
甘いはずのチョコは、いつでもビターな刺激。
甘いはずのチョコは、ちっとも胸につかえず、むせもせず、
満腹感もなく、機械的に流れ落ちていく。
若い人の、「友チョコ」流行の昨今、下手な気遣いやかんぐりは無用で、
ただただおいしい珍しいチョコを食べるための、ささやかな休憩時間。
そんな様相さえ呈している中で、チョコを吟味して用意することさえも、
人事評価に直結するような、人間関係にダイレクトに伝わるような、
「イタイ」痛さが見え隠れして、疲れ果ててしまう。
だから、もう、何も用意しない。
用意したりしない。
そういう気遣いに、疲れてしまって、何もしたくない今年。
気遣いさえも、気遣われることさえも腹立たしい。
気を遣われなければ、それはそれで余計に気落ちするだろうに、
あちらこちらで横行する若い人たちのチョコが飛び交う景色、
なんともうんざりしてしまう、本日の職場の風景。
他の職場もこんなものなのだろうか。
この景色をアットホームな職場と思えばいいのだろうか。
今年のバレンタインは、家族のためだけにチョコ。
旅行を用意してくれた家人に。
いつもさびしい思いをさせていえる娘に。
今年の私は、仕事からとても距離をとりたい。
今の私は、とてもとても距離をとりたい。
チョコの甘さでなんか紛れる気持ちではないのだから。
それはそうと、友達のためにと血道を上げてチョコを作っていた娘、
いったい今日の守備はどうだったのか…?
かーちゃんは君に貢ぐばかりで、ひとつも味見させてもらえないなあ。
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