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ヒューゴの不思議な発明

水曜日のレディスデー。HUGOを娘と見に行く。
子どものように振り返る過去の少ない者よりも、
ある程度振り返る過去を持つ年配の方が考えさせられる、
ある意味、「癒し」の要素を持つ映画ではある。
一見主人公は子ども(たち)だが、子供だけではないとも言える。
少年は、子どもでいたくてもできないほどの辛い現在を生きている。
だからこそ、辛い過去を持つ大人と接点を持つことが出来る、
と言ってしまっていいものかどうかは、ともかく。


奪われたものは幸せな過去、家族、両親、想い出の品、温かい家庭、学校。
子どもとして親の庇護の元で培われるはずのあらゆるものを失って、
なおかつ「自分の役割」を信じて生き続ける、
亡き父親からのメッセージを信じて機械人形を直し続ける、
その信念、心の強さはどこから来るのだろう。


今の状態の私が失ってしまっているものを。
信念ではなく、思い込みにしか過ぎない、
かろうじてプライドの体裁を持っている、「社会的役割」のために、
犠牲にしてしまったものの多さに辟易としている人間にとって、
主人公のまっすぐなひたむきさは少々眩しすぎる。
大人が見失いそうになる「自分の役割」を前面に押し出されると。


それはともかく、意外なものが意外な関係、意外な結びつき、
意外な理解者を招き寄せ、物語は不思議な大団円を迎える。
傷つくものが癒される時、相乗効果というか波及効果というか、
終わりよければ全てよしの形をとって、映画は閉じられていく。


このような終わり方を用意していないと、こじ開けられた傷は塞がれることなく
見るものも見られるものも、癒されない傷を抱えて生きていくことになる。
しかし、そうならないように作ることが映画としての作品の生命と興行を支える。
それにしても入れ子構造の、映画が映画を作る話、
映画が映画の魅力を語る話に被せるように展開する「現実」。


戦争で失われたもの、それは今の日本に置き換えれば震災で失われたもの。
それをどのようにして取り戻していくのか、
以前と同じものを蘇らせるわけには行かないけれど・・・。
そんな問いかけを囁かれたような、見終わった後の気持ち。
子供が見るには余りにも難しすぎる大人のためのファンタジー
この映画の良さを、娘はどんな風に感じたのだろうか。


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駅の時計台に隠れ住む孤児の少年ヒューゴの冒険。
「映画の父」として知られるジョルジュ・メリエスの映画創世記の時代、
1930年代のパリ。映画のような精密なイラストのような不思議な色合い。
原作である冒険ファンタジー小説ユゴーの不思議な発明」を知らないだけに、
この映画の持つ雰囲気に後々まで影響されそうな気もする。
(逆に案外寝てしまうと忘れてしまうような、そんな非現実的な要素もある)


ジョルジュ・メリエスの月世界旅行 他三編/映画創世期短編集 [DVD]

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ファンタジーが悲哀を帯びているというのに、
機械人形やハートの鍵というアイテムが余りにも子供子供しているからか、
スコセッシ監督の視点がいつも大時代的なというか、
大が掛かり、大袈裟な位置から物語を撮っているせいか。
ハッピーエンドのように見えながら、暖かさよりも冷たさを、
希望に見えてその場しのぎ的な安らぎを感じてしまうのは何故だろう?


魔術師メリエス―映画の世紀を開いたわが祖父の生涯

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そう、まるで以前の作品『ギャング・オブ・ニューヨーク』と変わらない、
父と息子の間に流れる血の絆、そのことがもたらす幸いと不幸、
情熱と失望、いさかいと揉め事、そういうものを連想してしまう
主人公たちが幼くても、血まみれの青年であっても、
スコセッシ監督の描き出す本質は変わらないような気がしてならない。
彼の映画の持つ醒めた情熱が、歴史的な背景を持ってセピア色に描かれる。
その場所がニューヨークであろうがパリだろうが、同じこと。


ギャング・オブ・ニューヨーク [DVD]

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雄たけびも情熱も愛情も幸せも容赦なく過ぎ去っていく。
時間の流れの中に、見えぬ楔を打ち込むことが出来るかのように、
物語は紡がれる、ひと時の憩い、安らぎ、平安の形をとって。
それが垣間見る、見せられることによって更に深い絶望や、
退廃の陰を感じてしまうことを前提にして、作られているのか、
そのような描かれ方に必然的になってしまうのか、
スコセッシの映画は見ていて最終的に辛い。


時の流れは優しくは無い。そのことを改めて感じる。
ハッピーエンドのように見えていて、実は残酷な、
そのことを改めて思い出させてくれる、メルヘンタッチの映画。
そんな風に見てしまう自分に、ため息を付きたくなる夜。

ヒューゴの不思議な発明 公式ガイドブック

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ユゴーの不思議な発明(文庫) (アスペクト文庫)

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