Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

旧千代田生命ビル見学 茶室

(写真は全て大きくなります)
村野藤吾という建築家がこの旧千代田生命ビルに三つも茶室を造っている。
どうして四つも作ったのか分からないが、ビル内に小さなものを一つ、
大きなものを一つ、そしてきちんと待合を持つ独立した形で一つ。
(実際には屋根続きになってはいるものの、それを感じさせない作り)


    

   


目黒区民で、登録団体であれば安価で利用とのことで、
かなり仕様が変わってしまっている部分もあるらしい。
実際は当時の姿とは異なる照明、天井なのが残念という解説者。
当時の会社は5時を過ぎたら社員はリフレッシュに励み、仕事に還元と、
徹底した福利厚生施設が完備された時代先取りの様相を呈していたらしい。


    


地下の茶室に向かう途中、まあ、厳密に言えば一階になるが窓からは坪庭、
水鳥の泳ぐ池などが見えて心涼やか。
当時は食堂もこの庭や池に面してあったそうで、
さぞかし気持ちよく食事が出来ただろうなと羨ましい。


    



どこぞの地方公共施設にプールやジムを作ったら、仕事帰りに運動だの贅沢、
施設を作ること自体も利用すること自体も贅沢となじられ、
利用者が増えず、みんなが利用を控え、外部に宣伝もしないまま、宝の持ち腐れ。
そのあげくに利用者が少ない施設は無駄だと潰されてしまった。
福利厚生なんぞ謳っても、使うものは贅沢だと言われればどうしようもない
それが21世紀の現状なんだが。


それはともかく、モダンなオフィスビルに一服の茶を求めて静寂の時間、
それは仕事の効率を上げる云々以前に、日本の文化を知る貴重な時間だったはず。
目黒区ゆかりの木と草と鳥の名前が付いていて、それぞれ「しいの間」「しじゅうからの間」、
「はぎの間」、そして、離れの本格的な茶室。一番最初に目を通したのが「しいの間」。


    

    


そしてモードリアンの現代美術を連想させる障子、竹林の中にいるような錯覚とでも言えばいいのか、
そこここに四十雀が隠れているのだろうか、モダンで繊細、古くて新しいデザインに溢れた茶室、
「しじゅうからの間」外の景色も四季折々美しいだろうが、細かく編まれた素材から漏れる光、
その天井も、曲面を演出する柱も何もかも優しさに溢れている。
立ったり座ったり、あれこれ説明を伺いながら見上げたり見下ろしたり、振り返ったり。
その立ち位置座る位置で趣を変える景色に見とれてしまう。


    

    

  

   

  


居ながらにして竹藪を感じさせる障子、藤蔓を編んで透過光を楽しむ天井、
壁の色は当時のままなのだろうか、襖の柄は?
あれこれ思いつつ廊下に出ればガラス窓の向こうに茶室が見える。
美しい坪庭も建築家が手塚ら探し求めた植木も伸び放題に伸び、
当時の面影とは異なる佇まいだがそれも仕方あるまい。


    

    

    

  

   


オブジェ、彫刻、動線、何を意図して金属を、木を、土を、形と色を与えて
オフィスビルのあちらこちらにしつらえたのか、風情の極みの茶室、
それぞれ広さ、趣の異なる部屋を部屋を繋ぐ内部、外部、廊下からの景色、
そして外からの景色、どんな未来を描いて用意した空間だったのか、
その計り知れぬ想像力の縁に立つ気分で、そこここを眺めやる。
和の宴会場ともいえる広い「はぎの間」の月見障子のような床の間、
透かし天井が取り払われあられもなく光源がむき出しの天井。
特注だったらしい壁紙や襖紙。
 

    

    

  

    

   


この見学コースは一般コースを選んだのだが、どうやら茶室だけ集中して見学するコースもあるらしい。
細かく見ればきりがないのだろう、その思い入れ、こだわりを辿る人々が、
今もこんなにいるということが凄い。そう思いつつひたすら眺めるだけ、
説明を聞くだけ。当時に思いを馳せるのみ。


    

  

  

    

  


さて、本命の茶室に入る前に金属の性質を知り尽くして屋根や樋、石との調和、
移ろいゆく季節という自然を、どのように人工のものと折り合いをつけて、
しっとりと落ち着かせるように心を砕いていたのか、
そういった説明がなされたが、中盤の山場、数々の茶室見学だけでもはや1時間以上経つ。

    

    

    

    

    


親子3人で写真を撮りまくるものだから、整理しながら訳が分からなくなってきた後日。
茶室関連はほんのちょっと立ち位置を買えただけで景色が変わるので、
静かな中にも面白味が満載、だったのだろう。


    

    

    

  


恐らく昔の茶人たちも、招かれた道すがらの景色を楽しみ、茶室にたどり着くまでの行程を、
ささやかな道中を物珍しく心に留め置いて楽しんだに違いないのだ。
季節の折々の花、木々の枝ぶり、葉の色、紅葉のあるなし、石畳や石庭の上に降り積もる木の葉、
苔や草花の種類や配置、どれをとっても待合や手水で立ち座りするたびに趣を変える、
この小さな庭に差し込む光と影の変容を、それぞれ楽しんだに違いないのだ。


    

    

    

  


昔習った時に炉の灰は宝物だと言われたが、一体ここではどう扱っているのだろうか。
窓の外に目を転ずると、暗闇に慣れた目がまた室内を見るのに不便な、
そんな明暗のぎくしゃくした不思議な空間で、春夏秋冬どのような茶会が催されたのか。
水屋の周囲、見渡しながら贅沢な空間から再び外へ。


    

    

    

    

  


灯篭や蹲、その他諸々、茶の湯をたしなんだ静かで口数の少ない建築家は、
その残した形あるものにおいてのみ、饒舌で雄弁、多情多恨の様相を呈し、
観る者は圧倒されるのみ。広大なフォルムから微細な陰翳までを、
「人間」を基準に建築し続けたという村野藤吾の茶室とその周辺を巡り歩いて、
ただただ、感動もし、疲れてきたので、次は地上へ出ての見学と相成った。


    

    

    

  

自然との交歓―建築と庭 (村野藤吾のデザイン・エッセンス)

自然との交歓―建築と庭 (村野藤吾のデザイン・エッセンス)

伝統の昇華―本歌取りの手法 (村野藤吾のデザイン・エッセンス)

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