Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

上を向いて歩こう

星空を見上げると、思い出す。「上を向いて歩こう
あれは妹が生まれる冬の日の晩、側に母親がいない。
誰もいない。ラジオから音楽が流れてくる。
上を向いて歩こう

♪ 涙がこぼれないように・・・  ♪ 一人ぼっちの夜。
☆ 幸せは雲の上に 幸せは空の上に 


切れ切れに聞こえてくるメロディーに、
幼稚園に入る前の私は大泣き。
何がそんなに哀しかったのだろう。
何がそんなに寂しかったのだろう。
人生の孤独・寂寥を感じるには、早すぎる年齢だったのに。
この曲がかかるたびに、条件反射になってしまったかのよう。
訳もなく哀しくなり、涙が零れ落ちる。


夜の帳(とばり)星空は、喜びよりも悲しみのほうが似合う、
そんなイメージが、私の中には小さい頃から定着している。
きっと昔話やお話の中にあるフレーズも、まずかったのだろう。
「○○は死んで、お空の星になりました」 『よだかの星』?
「天国で、幸せに暮らしているでしょう」 『マッチ売りの少女』?
「神様に召されて、天に昇ったのです」 『フランダースの犬』?
いずれにせよ、お空の上は楽しい所というよりも、
寂しくて哀しくて、生きているうちは行けない、
死んだ人が行く世界、凍れる魂の世界のイメージが強い。


よだかの星 (日本の童話名作選)

よだかの星 (日本の童話名作選)

マッチ売りの少女・雪の女王 (世界の名作)

マッチ売りの少女・雪の女王 (世界の名作)


「天離る月星(あまさかるつきほし)」の世界は、
人を寄せ付けない冷徹さに満ちている、そんな気がする。
人の世の穢れを忌み嫌う世界、のような気がする。
上を向いて歩いていても、そこは遥かに遠くかけ離れた場所、
地上で流す人間の涙が、星の輝きを持つことなどありえない。



ただ、下ばかり見ている生活をしていてはいけない。
太陽を見上げると眩しくて、眩暈・貧血・立ち眩み、ではいけない。
まして、星月夜さえも見上げることができない生活など、
降るような星空を心に留め置くことができない生活など、
銀河の流れを遡る夢を、かささぎの渡せる橋を知らないまま、
生きていくなんてこと、あってはならない。


幼稚園の頃、空を見上げるたびに七つの星を探した。
大きなひしゃくから冷たい水が溢れる、
空から心の中に注がれる、清冽な輝きと冷たさを
命の源を想像し、憧れ、思い描き、
その一滴を、幼いながらに心待ちにし、夜空を眺めた。


小学生の頃、ナイチンゲールという鳥の名前を知った。
旧制中学の名残を残す父が「小夜曲(さよきょく)」を歌った。
セレナーデをピアノで弾けるようになり、
夜のしじまに耳を傾けることもできるようになっていった。
夜中目覚めれば、松の木から見え隠れする月。


星は、沢山見えたはず、だった。子供の頃は。
今やこの、都会の田舎。道路横の坪地になってしまった我が家には、
騒音と汚れた空気、振動、反響、命を削る煩わしさばかり。
およそ住むには適さない場所に、ささやかな緑を植えて涼を求め、
水を撒き、犬を飼い・・・、そして歳を重ねた。


私は『上を向いて歩こう』のメロディーも歌詞も、歌わない。
心の中でだけ、そっと奏でる。
星を見上げなければならないほど、楽しい時なんてないのだから。
星を見上げなければならない時ほど、涙がこぼれてくるのだから。
星の上の幸せに憧れたりはしない。
より多くを望んで、むだに「ひしゃく」を傾けさせたりはしない。

星と月のコレクション (ふしぎコレクション)

星と月のコレクション (ふしぎコレクション)

星のこよみ

星のこよみ


上を向いて歩くのは、ただ星を眺めたいだけ。
上を向いて歩くのは、その記された運命の確かさに導かれて
迷いなく歩いていくため。Starがstellenであれば尚更。
古来、悪い星の下に生まれるということが、disaster(ディザスター=災害)
物事を良く考えるが「consider(コンシダー=熟考する)」も「共にある」
星の下に生きるということは、なかなかに意味深だ。


定められた位置に在り、輝いていけるように、
頭を冷やしてよく考えよう、星のお告げに瑞兆を見出そう。
1年の半分が過ぎようとしている。
上を向いて歩くのは、仰ぎ見るものを持ちたいがため。
上を向いて歩くのは、地上に束縛されずに求めたいがため。


私は永遠に、ひしゃくを持って歩く女の子でいよう。
トルストイの童話のように、「まごころ」を忘れないでいよう。
北斗七星を、涙で溢れさせたりはしない。
ちびっ子カムのように、七つ星を引っ張ろう。
いつの日もいつの日も、上を向いて歩こう
自分の星を探しながら、歩こう。


七つの星                

七つの星                

ちびっこカムのぼうけん (新・名作の愛蔵版)

ちびっこカムのぼうけん (新・名作の愛蔵版)