Festina Lente2

Festina Lente(ゆっくりいそげ)から移行しました

笹生陽子に会ってみて

どうも、ピンと来ない。何を言っているのか、どういう流れなのか、
なかなか把握できなかった。講演ではなく質問コーナー?
まあ、世代的にはやや近い。
かつて漫画家になりかけた漫画世代、
一条ゆかりくらもちふさこのファン、受験勉強も得意で、
そつなくこなして慶応出身、創作について早稲田や日大、短大等で
講義を受け持つも時間稼ぎのコマ埋めにDVDに頼ることもしばしば。
執筆ができないので今春からは講師関係は辞める。
とある作品は根強く韓国で出版されてウォンの印税が結構入る、
等など、裏話が延々と続く。面白くないこともないが・・・。


これを講演会というのだろうか。公開インタビューにしか過ぎない。
マイクの角度が悪い? それにしてもあまりにも早口で、聞き辛い。
作品紹介でもなければ、絶対に訴えたいというメッセージ性も無い。
予定調和にのっとって自分の創作活動を切り開いてきた、
マニアックな創作者のプロ意識のようなものは垣間見られるが、
聞き手を無視した感の語り口に、疲労感が募ってくる。


「長靴下のピッピ」と友達になりたいタイプではなく、
「自分が長靴下のピッピ」だというタイプだとのたまうが、
まさにそういう感じ。自分の世界で、自己完結しながら淡々と、
熱く語っているようで、醒めている、そんな感じ。
慣れないとお付き合いするのはしんどそうな、マニアックな印象。
強いて言えば記憶に残った内容は、・・・。

楽園のつくりかた (角川文庫)

楽園のつくりかた (角川文庫)

きのう、火星に行った。 (講談社文庫)

きのう、火星に行った。 (講談社文庫)

ぼくは悪党になりたい

ぼくは悪党になりたい


―小学校低学年から高学年にかけての本を書いてみたいが、
 採算が取れる見込みの無いということで、
 出版社GOサインを出さないから書きたくても書けない。
 辛うじて中学生以上をターゲットにした作品は、
 OKが貰えるので書いているので今に至る。
 書きたい世代の本の依頼は、全くという程無い―
という身も蓋も無い業界の裏話、本音が中心だった。
聞いていて一部の人には楽しかろうが、私にはあんまり。


どちらかと言うと講演ではなく、ファンサイトからの質問をまとめて
インタビューの形で質問して会話を引き出していく。
人気作家を迎えたマニアックなコミケの内輪の集まりの拡大版、
そんな感じがしてしまったのは、私が部外者で1冊も読んでおらず、
ファンでも何でも無いからだろう。
いずれにせよきちんとした論題を持つ講演ではなく、
高尚な思い出語りに過ぎなかったのは期待外れで残念だった。


むろん、なるほどねと思わされた内容が無かった訳ではない。
―最近のライトノベルやYAアダルトまがいの作品を扱う側、
子どもに本を選択して与えるべき大人の側がぶれていて、
親を始めとして周囲が、まあこれくらいの性描写ならいいかと
安易な本の与え方を子どもにしてはならない。
読み手がまだ子どもであるということを十分意識してほしい―
というようなメッセージは、ごく当たり前の懸念として受け取れる。


なかなか気骨のある芯の部分をチラリと感じさせ、
一番「ほお」と思った反応は、
無人島に本を1冊を持っていくとすれば」という問いに対する答。
―そんなこと考えたこともない。何を読みたいか、
 本という物体を持って行こうは思わない。本はただの物体だ。
 私は読み手ではなく、書き手だ。
 それに本というものは所有しておくものではなく、
 読んだ後、どのように行動するかという事が重要になってくる。
 私は本の所有にはこだわらず、すぐに処分してしまう方だ―
という内容は面白かった。


―ファンタジーを5年ぐらいしたら書けるようになるかも。
 それくらいの時間が必要。ファンタジーは難しい、
 人と人が出会って分かり合えるということそのものが、
 ファンタジーそのもだと思う―
なるほど、それが彼女のファンタジーの定義か。
爽やかな引きこもり、誰からも好かれるニートを書いてみたいと語る、
一見マイノリティ、実は世間ではよくあるはみ出し者の青春、
挫折した人間関係の構造と再生を散りばめてみようというプロット。


何故そういう人物を主人公に据えようというのか、
ヒーローにはなりきれない日常生活の影の部分を、
意識的に掬い上げようとしている背景に、
何があるのか、どのような創作意欲が燃えているのか。
意図する以上に読み手に影響を与えることを画策する顔が、
話の後半の受け答えで見え隠れする。


清水真砂子のように、翻訳者として書き手と一体になり、
物語の世界を構成する言葉を模索するのではなく、
全てを自分の言葉で構築しようとする作家としての素顔が、
やっと透けて見えてきたかというところで、時間切れ。
もう少し突っ込んでみて、すっきりする講演だったら
納得できる面白さだったのだろうけれど、残念。
読んでみようかなとは思うけれど、・・・逡巡。
まあ、いそぐまい。


小学生に向けての作品を書きたくても書けない、
しかし、3・4年制向けにどういうものを想定しているのか。
粗筋紹介で見る限りでは余り食指が動かされないが、
食わず嫌いもいけないので、いつかは読んでみよう。
それにしても、10代の読書の何を考えたのか、
私にとっては今一つも二つも見えにくい、本日だったなあ。

ぼくらのサイテーの夏 (講談社文庫)

ぼくらのサイテーの夏 (講談社文庫)

サンネンイチゴ

サンネンイチゴ