Festina Lente2

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『ライラの冒険』(黄金の羅針盤)

出張続き、で、見てきました。何と言っても娘と家人のお墨付き。
THE GOLDEN COMPASS この響きだけとってもいても心地良い。
ライラの冒険』という表題は、ロマンチックじゃない。
まあ、子供が見易いようにと付けられた表題かもしれないけれど。
でも、このTHE GOLDEN COMPASS というのはアメリカ版での題名。
確か元々はNorthern Lights (His Dark Materials)だったはず。
ペーパーバックの時から印象的な表紙だった。
最近の本の売れ行きは表紙のイラストに掛かっている、
と言っても過言ではない。いや、この作品は内容も良いけれど。


でも、今回映画だけに限ってみれば、映画を見た人間は本を読みたくなる。
子供は原作を読みたくなるかも。作品の仕上がりが綺麗でアップテンポで、
ジェットコースタームービー的だけれど、スプラッタではない。
どきどきワクワク感は、ラストシーンの「私は冒険をやめないわ」で、
さらに続く(to be continued)「乞う、ご期待感!」を盛り上げる。
上手な第1部のエンディング、持って行き方だった。


西高東低のファンタジー。でも、それはそれで構わないと思う。
西洋の人間がエスニックなものに対して、
何かしら情緒的な魅惑、憧れのようなものを抱くとしたら、
同様に私たちが西洋的なもの全て、雰囲気・味わい・色彩・音楽等などに、
憧れ、魅了されるのは当然といえば当然だから。


何を入り口にして物語の世界に入っていくかは賛否両論だが、
ファンタジーの世界から入っていって、それからどう読み解くかが肝心。
少なくとも単なるゲーム感覚ではなく、主人公の成長に合わせて、
自分自身が仮想空間に閉じこもるのではなく、
現実の中に何を持って帰れるかが肝心。
小学生に『指輪物語』をファンタジーの入り口にするよりも、
ナルニア国物語』(本質的にはキリスト教文化圏の知識が必要)や、
ライラの冒険シリーズ』でも構わない。


ところが、映画の話題よりも、今日思いがけず耳にしたのは、
ライラの冒険』って『雪の女王』でしょ、という室長のお言葉。
そう、仕事の休憩時間、映画好きの先輩と話をしていたら、
滅多に話さない室長から、突然思いがけないお言葉。
「僕のイメージではあの映画、雪の女王の焼き直しなんだけれど」

Northern Lights (His Dark Materials 10th Anniversary Editions S.)

Northern Lights (His Dark Materials 10th Anniversary Editions S.)

『ライラの冒険 黄金の羅針盤 パーフェクトガイド』 (TOKYO NEWS MOOK)

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ライラの冒険 黄金の羅針盤 公式ビジュアルガイドブック

ライラの冒険 黄金の羅針盤 公式ビジュアルガイドブック

確かに物語の世界はある枠組み、キーワードの組み合わせの変形、
バリエーションにしか過ぎない。いわば練り上げられた換骨奪胎の真骨頂。
英雄譚にしろ、魔法使いものにしろ、お約束が決まっている。
その枠組みの中でいかに活躍し、ストーリー展開が為されるか。
比較文学の専門家ならルンルン気分で読み解く神話・伝説の類は、
いうなれば物語の原型(元型)だから、派生するストーリーは無数だ。


英雄(主人公)の出生・成長・仲間との出会い・旅・
恋愛(悲恋)・試練・戦闘・願望成就、そして裏切りや病、死。
生老病死が全て盛り込まれている訳ではないけれど、
冒険は人生そのもの。教訓であり、戒めであって、生活モデルだ。
口承文学だろうがその枠からは外れない。
創作童話の世界もその縛りから逃れて、
壮大な物語を展開することはできない。


雪の女王』は言わずと知れたアンデルセンの名作童話。
以前、こんなアニメで放送してもいいのかNHKと思うくらい、
ひどい駄作が作られていたが、娘は喜んで見ていた。
主人公の少女ゲルダ、友達の少年カイが雪の女王にさらわれる。
彼を助けるために艱難辛苦の旅を続ける少女。
彼女の冒険と雪の女王との対決。
そこには様々なメタファーがあって、色んな読み解き方ができる。


ん? 確かに今回のライラがゲルダ。さらわれた友人ロジャーがカイ。
教権・ゴブラーコールター夫人が雪の女王
ゲルダが目指す目的地は北の国、雪と氷の雪の女王の城。
ライラは北の大地の熊の王国スバールバルの向こう、
子供を閉じ込めていボルバンガーの実験基地。
トナカイでなく鎧グマに乗って大地を駆ける少女。
ふむふむ。なるほどねえ。


室長の一言に、思わず納得してしまう私。
そうか、そういう見方もあったか。
室長は美術から文学に転向した大層な読書家。
あっさりさらりと一言コメント。さすが。
確かに物語構造はそうだよね。

さて面白かったのは、ビジュアルに表現されているダイモン。
魂が外在化して人間と表裏一体、子供の時は形が定まらず、
大人になると定形を保つ。それが動物で人間とは性別が逆。
この発想がアニマとアニムスの関係を連想させて、
ユング的で好きだけれど、動物というのがいい。
心理テストでも良くあるパターン。あなたを動物に例えると。
植物よりも性格がわかりやすく、何より画面に動きがある。


そしてその魂に相当する動物、ダイモンと子供を切り離し、
意のままに従う人間を作ろうとする悪の計画。
魂の成長という可変性を忌み嫌い、型に嵌めようとする支配者の論理、
善と悪、対立、魂と肉体、成長と抑制、物語の二元論のお約束。
綺麗なパズルのような作品に思わす、云々と頷きたくなる。
こういうわかり易さが子供向けには必要だから。


ストーリーと画像を邪魔したくなかったのか、音楽は今一つ。
それほど強い印象をもたらす物ではなかったのが、少し残念。
大人も子供も見て楽しめるわかり易い映画。
娘曰く「戦いのシーンの迫力、凄いんだよ」確かに。
ダイモンを攻撃されると、人間もやられてしまう。その逆も。


物語お約束が沢山詰まっていて、本当に面白い。
外見麗しい悪、巧みな嘘、さらわれた子供、落ちぶれた王、さまよえる民、
覗き見、毒殺、脱走脱出、追跡救出、旅(飛行船・船・そり・気球)、
決闘・危機一髪・橋を渡る・約束・失われた両親・秘密。
そして、黄金の羅針盤
物語は楽しい。そして映画は楽しい。
いい気分転換でした。


^^^^^^^^^^^^(オマケ)
じっくり味わう大人の映画ではないので、念のため。
子供が見て、お話の読んでみても良いかなあという糸口。
何かのきっかけに「どうぞ」とお勧めする映画です。
原作を愛する人やそれなりのこだわりの有る人には、
どうしてもアラが見えてしまいます。
盛り沢山なのを良くあんなにコンパクトにまとめたね、と見るか、
ぶっちぎりぼろぼろすっ飛ばしにしてくれて何なのよ、と見るか。
物語のお約束を全く知らない人が見たら、唖然のストーリ展開。
原作をこよなく愛する人が観たら、噴飯物かもしれない。


まあ、でも、頑張ってそれなりに作られた映画って感じ。
原作の向こうを張って、最初から連作ものの予定で製作。
エンディングの不満、消化不良も仕方ない。当然。
わざとそう作ってあるのだから、目くじら立てないで。
字幕で大丈夫観られたよ、といううちの娘に免じて。(笑)


って、いつも辛口の私が付け加えるのも変なんだけれど、
これも『ちりとてちん』の影響かな。
あんなにいい作品なのに、視聴率が今一つ!なのが哀しい。
作り手はそれなりにこだわって作っていると思う。
主人公が美人か美人でないか、蓼食う虫も好き好きということで。
オマケの一言でした。

黄金の羅針盤 (ライラの冒険シリーズ (1))

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His Dark Materials Part 1: Northern Lights

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『ライラの冒険 黄金の羅針盤』公式 ダイモン占いBOOK

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