Festina Lente2

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訃報相次ぐ

「人間五十年、下天のうちを比ぶれば、夢幻の如くなり。
 ひとたび生を得て滅せぬもののあるべきか。」
信長は歌ったというが、その50年は目の前だ。
それほど長生きしたいとは思わないが、早死にしたいとも思わない。
佳人薄命の誉れにふさわしい程の美貌にも縁遠い。
でも、それなりに頑張ったのだから、良い事があったと
胸を張って振り返れる人生であって欲しい。


それにしても、余命はどれほど?
この春休みには『死神の精度』なる映画も公開されるらしいが。
コンスタンティン』よりもましかな。
どちらにしろ、死苦味いや、死神がいつ来るかは、
知りたいような知りたくないような・・・。
人様の訃報を見ると、あれこれ思う事が多い今日。


一人は映画監督、まだ50代。これからも作って欲しかった人。
『イングシッシュ・ペイシェント』は記憶に鮮やかだ。
一人はSF作家。大変ご長命。晩年は体が不自由だったが。
映画の原作者としては『2001年宇宙の旅』が有名。
でも、私にとっては『(地球)幼年期の終わり』の作者。

イングリッシュ・ペイシェント [DVD]

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幼年期の終り (ハヤカワ文庫 SF (341))

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アンソニー・ミンゲラは、まだ10本しか映画を作っていない。
何しろ54歳の若さだ。寿命、病死とはいえあんまりだ。
私がショックを受けるのは、年が近いせいもある。
もう次作・新作が見られない。それが哀しい。
1996年にアカデミー監督賞など9部門を制覇した映画は、
生まれて初めての一人暮らしをしていた私にとって、
今よりも大きな存在だったといっていい。


愛とは、愛し続けることとは何なのか。どういうことなのか。
目の前の突然の爆発。跡形も無く吹き飛ぶ命。
戦争、愛、憎しみ、人種差別、砂漠、暗闇。
今でも洞窟の奥で横たわるヒロイン、
包帯だらけで横たわる主人公が目に浮かぶ。
ロープでぶら下がりながら発炎筒の明かりに浮かぶ、フレスコ画
恋愛は福永武彦の『草の花』、中川与一の『天の夕顔』だった私。
イングリッシュ・ペイシェント』は、その次の記念すべき作品。


同様に、私の世代のSF作家といえば御三家、いや、三大家。
ロバート・A・ハインラインアイザック・アシモフ
そしてアーサー・C・クラーク。みんな亡くなってしまった。
SFマガジンの読者だった能天気な学生時代は、遥か昔。
幼年期の終わりではなくて、一つの時代の終わり。
おそらく私より上の世代の人の方が、がっくり来ているだろう。
でも、クラークは享年90歳。天寿を全うしたと言える。


何だか、青臭いかもしれないけれど、中年思春期とも言うべき頃、
こういう愛の形も有りだよねえと、しみじみ思わせてくれた作品。
ちょっと薀蓄、こだわりを持ちたくなってしまう作品。
そして、高校時代の熱狂、訳もわからないくらい憧れたSFの世界。
小学校時代からコンスタントに入れ込んできた世界。
そういうものがドップラー効果のサイレン音みたいに消えていく。
近づいてくる時はゆっくり大きな音なのに、
遠ざかる時はあっという間に聞こえなくなる。
訃報を聞く度に、与えられた影響力を思うと、そんな気分に。


2人足して144歳。仮に足して足して2で割って、
せめて、ミンゲラに72歳まで寿命があれば。
別にクラークに早死にして欲しい訳ではないけれど、
才能があるのに、勿体無いと思ってしまう。
まあ、それは私の一方的な思いなのだが、50代なんだよと
哀しくなって身につまされてしまうのだ。


毎日の生活、悲喜こもごも。足して2で割れば、割る事ができれば。
そんなふうに都合良くいかないとはわかっていても、溜息。
落ち込んだ時、哀しい時、嫌な事がごまんと重なった時、
誰かが呟く。「まあ、人生全部足して割れば、
良いことも悪いこともトントン。プラマイゼロでみんな一緒だから」
定番の慰め言葉、人生の知恵、そういうものを何度も聞いてきた。


でも、人の運命は、寿命は足して2で割れない。
結局、受け止めること受け止められること、
成し遂げること、成し遂げられること、成し遂げたいこと、
思い通りになるとは限らない。人がどう思おうと、
当事者にとってベストだったかどうかはわからない。
足して割って、「平等」とはならない。なりえない。


太く短くではなく、太く長く生きる方法もあれば、
細く長くしか生きられない時もある。人は選べない。
自分で選択できるように見えて、実際は選べない。
宇宙を手中に収めたとは、まだまだ言えない地球人。
国境を越えた愛を手に入れたとは、とても言えない地球人。
監督と作家は、もう何も作り出さない、生み出さない。
命の源へ還っていっってしまった。
そこが、単なる虚無で無いことを祈るばかり。

イングリッシュ・ペイシェント オリジナル・サウンドトラック盤

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