Festina Lente2

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石井桃子さんの大往生

いずれは接する訃報と知りながらも、ショックである。
4月2日に亡くなられた。101歳の大往生。
数々の仕事をされ・・・。本当に、大往生。
石井桃子あらずんば、日本の児童文学は・・・?
作品はもとより、数多くの訳書を手掛けられ、
どれほど多くの読者を、豊かな心の世界を育てたか、
その影響は計り知れない。

小学校の教科書で習った『ノンちゃん雲に乗る』の一部分。
今も鮮やかに蘇る、あの時の心持ち。
静かに心の中に刻まれた衝撃。
じみりじみりとなるアイロン。新聞の上の雪の字。
お母さんが単なる自分のお母さんではなくて、
雪子さんだったことにショックを受けるノンちゃん。 


幼少期に心に刻まれるちょっとしたことを、
鮮やかに切り取って文字にする感性。
この作品読むことで、子どもの心の中に新たな根。
自分という世界の中に内包されていた母親、家族、
それが自分とは別個の存在であると気付かされ、
成長していく過程が、優しい文章で綴られている。


あの時の感動を、私は今も忘れない。
文学や心理学を専門に学んだ背景に、
自分の心の成長を、気付きの原型を形作ってくれた作品。
小学校の教科書で知った世界。それはその後、
石井桃子が関わった数々の作品に広がっていく。
数多くの童話・児童文学の中で切っても切り離すことのできない、
成長と生と死、そのテーマを扱いながら。

ノンちゃん雲に乗る (福音館創作童話シリーズ)

ノンちゃん雲に乗る (福音館創作童話シリーズ)

幼ものがたり (福音館文庫 ノンフィクション)

幼ものがたり (福音館文庫 ノンフィクション)

今、思いつくだけでも自分の心に根を下ろした作品たちを、
ここに挙げることで、追悼の意を表したい。
石井桃子さん、さようなら。


『ノンちゃん雲に乗る』『やまのこどもたち』そして、
翻訳物で育ったので私の世代の馴染みの本。
良書は翻訳者の感性そものもだった。
自分の家や図書館等にあって、当たり前のように読んだもの。
プー横丁にたった家』『熊のプーさん』『トム・ソーヤーの冒険
『銀のスケート』『ムギと王さま』『ピーター・パンとウェンディ』  
『海のおばけオーリー』『おやすみなさいのほん』


古典的なファンタジーとして胸をわくわくさせてくれた本、
長じての地、文学や歴史、生命、果ては心理学、
ジェンダーを学ぶきっかけになっていく本、
『とぶ船』『砂の妖精』『百まいのきもの』『ちいさいおうち』  
『ひゃくまんびきのねこ』『せいめいのれきし』 
まぼろしの白馬』『ねずみ女房』


娘を授かってから読むようになった本。
ディック・ブルーナうさこちゃん』シリーズ
ビアトリス・ポター『ピーターラビット』シリーズ
などなど、シリーズもの、全集もの。
挙げればきりが無いけれど。
『幻の朱い実』がその著作で読んだ最後の作品。


自分を育ててくれた本の世界、その良書を生み出すことに
世紀を超えて仕事をしてこられた石井桃子氏、
21世紀を見ながらどんな思いで過ごされていたことか。
とうとう、ノンちゃんと一緒に雲に乗って逝ってしまった。
合掌。

とぶ船〈上〉 (岩波少年文庫)

とぶ船〈上〉 (岩波少年文庫)

ねずみ女房 (世界傑作童話シリーズ)

ねずみ女房 (世界傑作童話シリーズ)