石井桃子さんの大往生
いずれは接する訃報と知りながらも、ショックである。
4月2日に亡くなられた。101歳の大往生。
数々の仕事をされ・・・。本当に、大往生。
石井桃子あらずんば、日本の児童文学は・・・?
作品はもとより、数多くの訳書を手掛けられ、
どれほど多くの読者を、豊かな心の世界を育てたか、
その影響は計り知れない。
小学校の教科書で習った『ノンちゃん雲に乗る』の一部分。
今も鮮やかに蘇る、あの時の心持ち。
静かに心の中に刻まれた衝撃。
じみりじみりとなるアイロン。新聞の上の雪の字。
お母さんが単なる自分のお母さんではなくて、
雪子さんだったことにショックを受けるノンちゃん。
幼少期に心に刻まれるちょっとしたことを、
鮮やかに切り取って文字にする感性。
この作品読むことで、子どもの心の中に新たな根。
自分という世界の中に内包されていた母親、家族、
それが自分とは別個の存在であると気付かされ、
成長していく過程が、優しい文章で綴られている。
あの時の感動を、私は今も忘れない。
文学や心理学を専門に学んだ背景に、
自分の心の成長を、気付きの原型を形作ってくれた作品。
小学校の教科書で知った世界。それはその後、
石井桃子が関わった数々の作品に広がっていく。
数多くの童話・児童文学の中で切っても切り離すことのできない、
成長と生と死、そのテーマを扱いながら。
- 作者: 石井桃子,中川宗弥
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1967/01/20
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 63回
- この商品を含むブログ (35件) を見る
- 作者: 石井桃子,吉井爽子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 2002/06/20
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 15回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
今、思いつくだけでも自分の心に根を下ろした作品たちを、
ここに挙げることで、追悼の意を表したい。
石井桃子さん、さようなら。
『ノンちゃん雲に乗る』『やまのこどもたち』そして、
翻訳物で育ったので私の世代の馴染みの本。
良書は翻訳者の感性そものもだった。
自分の家や図書館等にあって、当たり前のように読んだもの。
『プー横丁にたった家』『熊のプーさん』『トム・ソーヤーの冒険』
『銀のスケート』『ムギと王さま』『ピーター・パンとウェンディ』
『海のおばけオーリー』『おやすみなさいのほん』
古典的なファンタジーとして胸をわくわくさせてくれた本、
長じての地、文学や歴史、生命、果ては心理学、
ジェンダーを学ぶきっかけになっていく本、
『とぶ船』『砂の妖精』『百まいのきもの』『ちいさいおうち』
『ひゃくまんびきのねこ』『せいめいのれきし』
『まぼろしの白馬』『ねずみ女房』
娘を授かってから読むようになった本。
ディック・ブルーナ『うさこちゃん』シリーズ
ビアトリス・ポター『ピーターラビット』シリーズ
などなど、シリーズもの、全集もの。
挙げればきりが無いけれど。
『幻の朱い実』がその著作で読んだ最後の作品。
自分を育ててくれた本の世界、その良書を生み出すことに
世紀を超えて仕事をしてこられた石井桃子氏、
21世紀を見ながらどんな思いで過ごされていたことか。
とうとう、ノンちゃんと一緒に雲に乗って逝ってしまった。
合掌。
- 作者: ヒルダ・ルイス,ノーラ・ラヴリン,Hilda Lewis,石井桃子
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2006/01/17
- メディア: 単行本
- クリック: 8回
- この商品を含むブログ (16件) を見る
- 作者: ルーマー・ゴッデン,ウィリアム・ペン・デュボア,石井桃子
- 出版社/メーカー: 福音館書店
- 発売日: 1977/03/20
- メディア: 単行本
- 購入: 4人 クリック: 11回
- この商品を含むブログ (23件) を見る